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おそるべしおじいさん


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:カシ丸カオル(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「この人はね,お嫁に来たと思ったらいけませんよ。あなたは種馬です」
と,そのおじいさんは,笑って言った。横に座っていた夫の顔をちらりと盗み見たら,困ったような顔をして笑っていた。
 
わたしたち夫婦は,作ってもらうと運気がめっぽう良くなる「開運はんこ」を求めて,全国からお客さんがやってくるという噂のはんこ屋に,来ているのだった。
 
このおじいさんは,はんこの「相」を見る「印相」という占いができるおじいさんなのだ。占いができるはんこ屋のおじいさんが珍しいのか,珍しくないのか,わたしはよくわからない。だけども,はんこを作ってもらうと結婚できる,VIP客の書類に押されている開運はんことして銀行員の間では有名など,もはや伝説のはんこ屋なのだ。
 
わたしが初めてそのはんこ屋の存在を知ったのは,結婚前の時だ。婚活女子の間では,このおじいさんにはんこを作ってもらうと,結婚できるという情報が飛び交っていて,何人かの友達から同時にこのはんこ屋のことを聞いていた。
 
伝説のはんこ屋なので,予約をとるのも神がかり的だ。予約をしたい日の前日,正午から電話だけで予約を受け付けるため,先着順で1日数枠の予約枠が埋まる。1年以上電話をかけ続けても,繋がらない人もいるという噂もまたささやかれ,期待度数はさらに上がる。仕事がびっちり入っていたので,予約の電話をかけることを忘れるくらい時間が過ぎていった。
 
だけども,その日は違った。仕事中にぽっかり時間が空いて,時計を見れば,正午を少し過ぎた頃。ふと,はんこ屋のことが思い浮かび,電話をしてみたくなった。そして,メモを頼りに携帯電話のボタンを押した。
 
3コールぐらいで,「はい,●●店です」という,おばあさんの声がした。わたしは,恐る恐る予約をたずねると,1枠だけ空いているという。だけど,翌日も仕事だったし,こんなに簡単に繋がるのだから,また,予約できると思って予約はしなかった。おばあさんも強くひきとめるでもなく,わたしはあっさりと電話を終えた。
 
ところが,現実はそんなに甘くなかった。後から考えたら,仕事なんて半日休暇をもらってしまえばいいし,伝説のはんこ屋の予約なのだから,何が何でもいくべきだったのだ。以来,電話をかけ続けたけれど,「今日の予約はいっぱいです」と,淡々とした口調でおばあさんに告げられた日が1週間,続いた。ビギナーズラックだ。
 
こうなると,意地でも予約をとりたくなる。わたしが友だちとのランチを抜け出して,お店から出て電話をかけにいった時,ようやく,「明日の予約は15時です」というおばあさんの声を効いた。もちろん,わたしはすぐさま,予約をお願いした。
 
そして,期待と不安でいっぱいになりながら,おじいさんの前に座った。おじいさんは,わたしの使っていた古いはんこを手にもって,しばらく,じぃっと見つめ,そして,笑いながら,「あなたは徳の高い人ですね。心根も美しいです」と,たくさんほめてくれ,はんこを作ってくれることになった。結婚できるかどうかをおじいさんに尋ねたら,「ご先祖様がここに来させたから,ご先祖様は結婚させたがっているようですよ。相手はご先祖様が選びますよ」みたいなことを言われた気がする。そう,なんせ10年以上も前のことだから,忘れてしまった。
 
そして,はんこを作ってもらって半年後夫に出会い,その1年半後,入籍まもないわたしは夫と一緒に,あたらしい姓のはんこを作ってもらいにやってきたのだ。おじいさんは,入籍までに2年を要したことに驚き,「おかしいなぁ。1年以内に結婚するはずなんだけどね。うーん,あなたのご先祖様が(夫の方を向いて)この人でいいのか,値踏みしていたんだね。だけど,この人は誠実でまじめ,家族のためによく働きます」と,言った。
わたしは,内心,びっくりした。そして,自分の選択は確かだったと証明された気がした。
 
その頃,夫は無職で難関国家資格に挑戦していた浪人生だったから,そんな人と結婚して大丈夫かと,まわりはえらく心配していた。だけども,わたしは,希望しか見えなかった。そして,わたしたちの明るい将来に太鼓判を押されたようで嬉しかった。
 
その翌年,わたしは妊娠し,夫は無事に試験に合格し,子どもが生まれた。結婚してから無職の浪人生活から抜け出し,人生が好転したという夫は,「かおちゃんに歯向かったら,俺,不幸になるのがわかっているから,悪いことできない」と,恐怖におびえている。さらに,義父母は,「あなたはあの子についていきなさい。それが一番いい」と夫に言ったそうである。明らかに誰からも嫁として期待されていないし,わたしも嫁という自覚もなく,わたしはわたしだと思っている。そういう意味では,はんこ屋のおじいさんの予言は,至極,当たっているではないか。おじいさん,おそるべし!
 
 
 
 
***
 
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2020-06-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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