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メディアグランプリ

アイメイクが素敵な彼女から教わったのは、真昼の月に思いを馳せること


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:三木 幸枝(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
職場に献血車がやってきた。日赤の職員さんが事務室へ声をかけている。
「ご協力お願いしまーす!」「とくにO型の血液がたりませーん!」
数人が席を立ち、献血車へ向かう。私もすっと立ち上がり献血車へ。
背筋を伸ばして歩きながら思う。
なんで他の人は行かないの。献血でたくさんの人の命が救われるんだよ。みんな協力すべきだよ。血色良いあの人、献血すればいいのに。いつも元気のよいあの子も、うつむいて動かない。みんな献血が怖いのかしらん。もちろん針は少しはちくっとするけれど、それくらい我慢しないと。人の役に立つとても尊いことなのに!
 
献血に協力しない人のふがいなさに、腹を立てていた。
 
今回で4回目の献血だ。5回になると、町内の社会福祉大会で感謝状が贈られるらしい。
献血車の中で横になりながら、感謝状を掲げる誇らしげな自分の姿を想像し悦に入った。
 
しかし、私の5回目の献血は叶えられなかった。
初めての子どもの出産時、私は原因不明の大出血をした。3リットルもの出血があり、命の危険にさらされたため、輸血を受けたのだ。
輸血を受けた人は、献血に協力できない。骨髄移植も同じ。現在の治療法では検出できない未知のウイルスに感染している可能性が考えられるからなのだそうだ。
 
輸血のおかげで助かったのに、恩返しをしたくても献血のできない体になってしまった。
 
それからというもの、職場に献血車がきても、うつむき、声かけをする職員さんと目を合わさないようにせねばならなくなった。
情けない、ふがいないと思っていた人たちと、全く同じになってしまった。
 
その立場になって初めて分かることがある。
献血に協力しない、のではなく、協力したくてもできない、という人もいるということだ。
 
私のように輸血を受けた方もいるだろう。持病があり服薬している方も。また、注射の針が怖くてどうしても無理な人も。みんなそれをわざわざ口に出してアピールすることはない。健康そうに見えるあの人も、何らかの事情で行きたくても行けないのかもしれない。
 
目に見えるもの以外に考えが及ばなかった。
「目に見えることが全てではない」
これまで何度も耳にしてきた言葉が、急に実感をもって迫る。
 
職場にとても魅力的な後輩がいる。
私より10以上も歳下なのに、落ち着いていてとってもよく気がつく。それでいて愛嬌もある。毎朝ばっちりメイクで、きれいめのファッションで出社してくる。同性の私からみても、ほれぼれするほど美人だ。プライベートでは二人の子どもの子育てに日々奮闘している。
 
しかし、初めて出会ったとき、彼女の口からでた言葉にとても驚いた。
「私ね、右半分がまったく見えないんです」
右目にも、左目と同じように丁寧なアイメイクが施されており、彼女がほほえむたびきらきらと光る。
外見だけでは、右半分が見えないなんてぜんぜん分からない。
 
聞けば、結婚して二人目の子どもがおなかに居るときに脳内出血で倒れたのだという。その後遺症で右同名半盲(両眼とも視野の右半分が見えなくなること)になり、また高次脳機能障害も発症したとのことだった。
 
大変だったんですよ、とかわいい笑顔で彼女は言うけれど、衝撃を受けた私は、しばらく口がきけなかった。
 
そのうち彼女と様々なことを話すようになった。
ぱっと見ただけでは、障害があると分かってもらえない。そのため、必要な配慮が得られにくく苦労しているということ。また、自分と同じように目に見えない障害をもっている人たちが世界にはたくさんいるはずだから、その方たちの力になりたいという夢を持っていること。
 
乗り越えてきた試練の数々を聞き、彼女の笑顔がますます輝いて見えた。
 
そして、私は、彼女の力になりたいと思い、彼女の障害について学んだ。
 
たとえば、彼女の視界。
半盲(彼女の場合は右半分が見えない)の視界を疑似体験するには、ただ右目を手で覆っただけでは不十分だ。右目を覆ったうえに左手の手の平を伸ばし、親指が鼻の頭に当たるように、顔の中心に垂直に当てる。その状態で見える範囲が彼女の視界だ。片目を覆っただけと比べると全然違うのだ。
 
彼女が教えてくれたからこそ、知った世界がある。目には見えない世界が確かにある。
 
献血のことで漠然と感じたことが、彼女との出会いではっきりとした確信に変わった。
見えないから無い、のではない。見えないけど、ある。
たとえば、真昼の月のように。
 
障害のみならず、心に思っていることも目に見えにくい。その人が刻んできた歴史や考え方すべてが、ありありと表面に現れはしない。
だからこそ、見えないものを推し量ったり分かろうとする努力が、絶対に必要なのだ。
 
私は、献血のできない体になってしまった。けれど、その代わりに、表面に現れてこない気持ちや背景に思いを馳せられるようになった。全てを理解することはできないにしても、分かろうとする気持ちが、心の距離を縮めてくれるように思う。
それに気づかせてくれた彼女の存在も、なにものにも代えがたい私の財産となった。
 
「失ったからこそ、見えるものもあるんですよ」
ブルーベースの涼しげなアイメイクの目を細めて、彼女は微笑んだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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