メディアグランプリ

体育 ≠ スポーツ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:木藤佑一(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「あれ? もしかして……走るのって楽しいとか思ってる? 俺が?」
 
大学院生の頃、毎日実家前の河川をランニングしていた。
距離は往復で2キロほどだったが、卒業まで続いた。調子に乗って、近くの大きな公園でやってるマラソン大会に出たりもした。まあ、3キロくらいのミニマラソンなんだけど。
「走るのって楽しい」、そう思っている自分に驚いた。20数年間生きてきて、初めてスポーツが楽しいと思った。
 
子供の頃、「体育」の授業が嫌いだった。
 
昔から足が悪く(幼少期に歩き方がおかしかったらしい。入院もしたが、原因はよく分からなかった)、運動は苦手。自慢じゃないがかけっこすれば女子より遅いし、小6で50メートル走のタイムが13秒くらい。屈伸して手は膝の少し下までしか届かない。野球やサッカーのチームスポーツともなればみんなの足を全力で引っ張り、ババ抜きのババ状態。体育の授業で「2」以外の数字を取ったのは中高ともに3年生の2学期のみ。きっと先生が内申に気を使ってくれたのだろう。
 
冗談半分で言うけど、あの頃の体育の授業は私にとって「公開処刑」でしかなかった。人並みにできない。周りには笑われる。それ以来、「スポーツ」が嫌いになった。『大学生になって良かったと思うことTop5』には「体育の授業を受けなくていいこと」が間違いなく入るし、もし将来まかり間違って(?)文部科学省大臣になれば「体育」の授業を廃止してやろう。そう考えるくらい、嫌だった。その後「スポーツ」をする事は無かったし、通学時の徒歩と品出しのアルバイトだけが、唯一の運動となっていた。
 
転機となったのは、小説だった。
 
『風が強く吹いている』(三浦しをん著)を読んだ。
「陸上部が形式上存在する」レベルの大学で、大半が長距離走素人の集団が『箱根駅伝(正月早々クッソ寒い中、大学生が走ってる番組がある。アレだ)』を目指す青春小説だ。それを読んで、「走ってみようかな」とか思った。我ながら単純だ。
 
ちょっと気になったのだ。
 
「走る」にせよ、他の「スポーツ」にせよ、自分には何が楽しいのか分からないし、「そりゃいいタイム出したり、大会で成績収めたり、走るの上手いなら楽しいさ。けど俺には一生、分からないよ」なんてささくれてたから、半ば冷めた感覚もあった。しかし、「走るってなんだろう?」という、「それ君が言う?」みたいな主人公(素人集団において例外の陸上経験者、というか天才の類)の発言、それに対する解の様なものを読書を通し見せられて、ちょっと疑念が生まれた。「走る(スポーツ)ってもしかして、俺が思ってる『他人と比べられて、罵倒されて、惨めさを実感させられるための公開処刑』と違う?」。
 
実際に、走ってみた。
 
正直に言うと、最初は、歩いた。実家の前の河川、往復2キロ。歩けた。大袈裟でなく、途中で止めてしまわないか自分で心配だった。「とりあえず、2キロ歩いた」という達成感とも呼べない達成感が欲しかった。それすらないと続かないと考えるほど、「スポーツ」に対する不信感は強かった。
暫くそれで調子づけて、走る。側から見ると「歩いてるのと速度変わらなくね?」と言うレベルだったけど、走った。「走って2キロ」達成。
タイムは大して進歩しなかったが、疲れが日に日に少なくなった。早い話慣れたってことなんだけど、「2キロ走ってる」という、しょぼいながらも確実な達成感、「あ、(タイム)速くなってる?」という勘違いに近い進歩。増長した結果参加したミニマラソン。新鮮、という感覚も手伝ったと思うけど、間違いなく「走るって楽しい」と感じている自分がいた。
 
「あれ、もしかして……走るのって楽しいとか思ってる? 俺が?」
 
本当に衝撃的だった。え、じゃあ、子供の頃あんなに嫌っていた「あれ」は何だったんだ?
 
思えば、嫌っていたのは「体育」であって「スポーツ」ではなかった。
運動そのものが苦手なのは事実だ。ただ、そこで実感させられる「人並みのことができない」感や、「チームの役に立たないクズ」感によって、自分の中で「体育嫌い」が形成され、それがいつの間にか「スポーツ嫌い」になっていた。「人には得手不得手がある」とか、「人と比べる」ことが虚しいとか、今でこそ思うけど、小さい時にはそんな考えなかった。
 
一応、「体育」の授業には意味があって、集団行動の大切さを教えるとか、健康な生活を送るために運動させるっていうのは理解している(まあそれも、今になって、だ)。体育の先生だって、自分のことが嫌いで、実技の授業してたんじゃないってことも、分かる。
けど多分、人によっては「体育」によて「スポーツって楽しい」にはならないし、興味関心は消え失せる。実技系の教科ってのは、そういうリスクを孕んでいると思う。絵が下手な子は「美術」「絵を描くこと」そのものへの興味が消失するし(正直これも自分に当て嵌まる)、「音楽」などもそう。
 
個人的には「体育」では「スポーツって楽しい」を教えて欲しい。実技だけじゃなく、試合観戦や、オリンピックの歴史、プロ選手の思想哲学とか、そう言ったことを教えてもらって、興味を持ったら、やってみる。少なくとも自分は、小説に出会って、それをきっかけに走り出した。齡23のことだ。幸運だったと思う。それ(小説)がなければ、未だにスポーツ嫌いだったはずだ。
 
今は、小説や漫画で興味を持ったスポーツを観戦することが増えた。正月なんて、毎年箱根駅伝見てるし、いつか生で見たい。やる方は全然だけど、ランニングはまた再開したいと思ってる。「スポーツ」に対して、積極的に関わる様になった。人生の幅が、広がった。
 
上に書いた様な「スポーツって楽しい」を教えてくれる授業が、今の小中学校にあるのかは知らない。ただもし、昔と変わらない授業内容なら、それで自分みたいな「スポーツ嫌い」になる子がいるなら、先生方にはぜひ伝えてもらいたい。
 
「体育のことを嫌いになっても、スポーツを嫌いにならないで下さい!」
 
 
 
 
***
 
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2020-06-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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