怖すぎて生徒が失神してしまう先生の話
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:やまぐちりょう(ライティング・ゼミ通信限定コース)
「なめてんのかーーーーー!!!!」
6つの教室が並ぶ廊下中に怒声が響き渡った。
授業が終わり別のクラスの友人と廊下ですれ違うと、
「ヒラ先生の雷落ちてたね」
「あ、聞こえてた?」
と会話をしたものだ。
高校3年の時、僕のクラスの数学を担当していたヒラ先生は、超絶コワイことで有名だった。
授業中に、先ほどのような雷が落ちるのは日常茶飯事。
毎年数人は、授業中に泣いてしまう生徒が出る。
過去には授業中に叱られた生徒が失神してしまったという逸話も持つ。
ここで少し、ヒラ先生の授業の進め方をご紹介しておきたい。
ヒラ先生の授業では、予習として、問題集の中から先生が指定した問題を解いてこないといけない。
授業の初めに1問につき1人ずつ生徒が指名される。指名された生徒は、解答と、その解答を導き出す過程を黒板に板書をし、先生と他の生徒に対して解答の過程を説明する。
生徒の説明に対して、先生が質問や補足をしながら、授業が進んでいく。
厄介なのが予習だ。指定される問題は、大学入試で実際に出された問題ばかりで、かなり難易度が高い。無論、高校3年ともなれば他の教科でも山のように宿題が出されるし、最後の大会に向けて部活動も忙しくなっていく。
およそ40人のクラスの中には、予習の時間が取れず、授業を迎える生徒がいる。問題集に掲載されているのは、解答だけ。解答を導き出す過程は載っていない。予習の時間を取れなかった生徒は授業前に友人のノートを写して授業に臨むことになる。
僕の高校で、この授業の進め方は珍しくなかったし、他の先生の授業でも、予習ができずに友人のノートを写して授業に臨む生徒はいた。ただ、ヒラ先生が他の先生たちと違ったのは、いとも簡単にノートを写したことを見抜いてしまうことだった。
しかし、ヒラ先生は”ただコワイだけの先生”ではなかった。彼の受け持つクラスは軒並み定期テストの成績が良かった。しかも、毎年。彼は、超コワイ先生であると同時に、教えるのが超上手い先生でもあったのだ。
その理由は、大学入試で出題される”良い数学の問題”の特徴と、ヒラ先生の質問にあった。
皆さんは、「良い数学の問題」と聞いて、どんなものをイメージされるだろうか。
僕は、良い数学の問題は、まるで迷路のようだと思っている。解答というゴールに至るまでの間に分かれ道にぶつかる。例えば、「Aの公式を使ってもBの公式を使っても解けそう」な場面に出くわすのだ。
分かれ道は最初にやってくることもあるし、途中で現れることもある。正しい解答にたどり着くためには、分かれ道を正しい方向に進まないといけない。間違った道を選べばその先は行き止まりか、あるいは間違った解答にたどり着いてしまう。
では、予めゴールに繋がるルートが地面に描かれている迷路ならどうだろう。道順が示されていれば、分かれ道に出くわしても迷いなく正しい道を選ぶことができる。むしろ、分かれ道だと気づかずに、通り過ぎてしまうかもしれない。
予習の時間が取れず、友人のノートを写す生徒もバカではない。解答を導く過程を順に追い、理解しようとしている。しかし、解答までの道筋が描かれた友人のノートを写していると、そこに分かれ道があることに気づかないのだ。
解答を説明した生徒に対するヒラ先生の質問はきまってこうだった。
「この時、Aの公式を使うかBの公式を使うか迷うと思うけど、なんでAを選んだの?」
友人のノートを写し、分かれ道があることに気づいていなかった生徒は答えに窮する。
(この後、ヒラ先生の雷が落ちることになるのは、もはや言うまでもない)
ヒラ先生は、問題の分かれ道を知っていた。「生徒が、”どこがわからないか”を、わかっていた」のだ。ヒラ先生はそこを的確に指摘するので、授業はとても効率的で、クラスの成績も上がっていくのだ。
(たまに雷の犠牲になる生徒がでるのだが……)
「相手が、”どこがわからないか”を、わかっている」
最近になって、このことの重要性を感じることが多くなった。仕事やライティング講座の課題に向き合うときだ。
文章を書くということも、そして人に何かを教えることも、”相手に何かを伝える”という点で共通している。
自分が今から情報を伝えようとする相手が、”何がわからないか”、をわかっていれば、必要な情報を的確に相手に伝達できる。それだけではなく、相手にとって有益な情報を選別して伝達できる。つまり効率的に情報を伝えることができるのだ。
ヒラ先生のように、「相手の”わからない”をわかる人」になりたいものだ。
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