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夫はつかれていた


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:チエ子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
夫の帰宅が怖かった。
 
深夜。ガチャガチャッと乱暴に鍵を開ける音がする。ギイ、ドアノブを回す音が響く。
起きているんじゃなかった。早く寝ればよかった。
 
「クソッ!」顔を見るなり舌打ちされる。酒臭い息にウンコみたいな口臭が混じっている。
「てっめー、なんで起きてんだよ! あ!?」
苦々しい口調。鋭い目つきで睨みつけてくる。
またここから何時間も解放されないコースだ。どうせ寝ていたって、寝ている私をさんざん罵って起こされるんだから、一緒だ。あきらめよう。
無になるんだ。刺激しちゃいけない。
 
交際していた頃、夫は優しかった。
ドアというドアは全部開けてくれた。下りエレベーターに乗れば、私の前に立ち、昇りエレベーターに乗れば、私の後ろに立った。突然の停止事故があっても支えられるように、だそうだ。
レディーファーストって、こういうことなんだろうか? 優しくされて嬉しかった。
 
結婚してから、彼は徐々に変わっていった。
 
「テメエはな」
ある時夫は寝ている私の布団に入りこみ、太ももや臀部を触りまくりながら言った。
「ケツだけ出してりゃいいんだよ!」
私は吐きそうに気分が悪かった。
 
「昨夜のこと、覚えてる?」
翌朝、私が尋ねると、夫は決まって頭を抱えてうずくまる。
「俺、また何かやったの?」
ご主人様にぶたれた子犬のように、被害者ぶった表情。
「ごめんね。本当にごめんね」
 
これじゃまるでジキル博士とハイド氏だ。
酒が入って暴言を吐いたことを、夫はまるで覚えていなかった。
「ケツだけ出せばいいなんて思ったことはない。ちゃんと愛している!」と言うのだ。
夫は全く身に覚えがなさすぎて、「妻が嘘をついているのではないか?」とまで思っているようだった。
 
私は夫のことを心から気味悪く思い、また軽蔑した。
彼は酒を飲まないと言いたいことを言えない男であり、女性を「性欲の処理のための道具」として見ている。にもかかわらず、昼間は紳士ぶって優しさをふりまき、卑屈なくらい謝ってくる。クズ野郎。
 
私は離婚に向けて、全てを記録に残し始めた。
酔った時の暴言を録音した。録音できなかった時は、日記に書いた。
 
今すぐにでも離婚したかったが、3人目を産んで間もない私の体は悲鳴を上げていた。夫は家事に協力的で、どんなに疲れて帰ってきても、洗濯機を回し、洗濯物を干してくれた。
離婚を決意して、一度、家事を全部ひとりでやってみようと思った。でも、だめだった。
とんでもなく疲れてしまった。洗濯に気を取られて掃除がおろそかになると夫の機嫌が悪く、酔った時の暴言がひどくなる。
 
私は実家を頼りたくなかった。離婚して実家に帰る地獄と、今の地獄なら、今を選ぶ。夫はそれを知っていて、安心して私をいたぶっているんだろう。
子どもたちの成長を待って、離婚しよう。それまでは証拠集め。私は決心していた。
 
転機が訪れたのは、キネシオロジーを受けに行った時だった。
キネシオロジーとは、身体や潜在意識の問題を、筋肉の反応(筋反射)によって探り、変化させる手法である。健康法の一つ、という感覚で施術を受けに行った。
 
イメージとしては、整体院のような場所だ。私はマッサージ・ベッドに横になる。心身の様々な項目について、筋肉の反応をセラピストが探る。
セラピストが言った。「霊的エネルギーの項目に、反応が出ています」
そして少し言いにくそうに、「旦那さんが連れてきているみたい」と言った。
私は、夫とのここ数年でのトラブルを、セラピストに打ち明けた。
彼女は言った。
「お塩と日本酒をお風呂に入れて、旦那さんに入ってもらってください。チエ子さんの身体についているエネルギーについては解除しました。チエ子さんの身体を通してですが、旦那様にもできるだけのことはしました」
 
霊? エネルギー? 妙な話だと思いながら帰宅し、夫にすべてを話した。
夫も自分自身の説明のつかないいろいろな行動について深く悩んでいた。彼は、親せきが霊媒師をしていたそうで、幼いころから不思議体験を積んでいる。目に見えない存在についての話は、私よりも抵抗少なく受け止めていた。
 
その夜、彼は塩と日本酒の「清めの風呂」に入った。
 
翌朝、台所に「なんか、肩が軽いんだー」と言いながら入ってきた彼を見て、私はものすごく驚いた。
眉間のしわがない! おでこが白く輝いている!
何より、目が全然違っていた。
目じりが下がって、柔和な光をたたえた優しい目。
「シュンくん!!」
おもわず、抱きついた。涙が出た。あの頃の彼だ。ずっと忘れていた。
この人だ! 私が好きになったのはこの人だ。やっと帰ってきた!
 
私たちはアルバムをめくり、いつから変化の兆しがあったのかを探った。
変化は、7年前。夫が東京に転勤した。その4月から、眉間に深いシワが刻まれ、目つきが鋭くなった。口臭や体臭もひどくなった。疲れた、疲れた。首が痛い、肩が痛いとしょっちゅう言い、整体を受けても改善しなかった。
 
後でいろいろ調べたのだが、これらは全て「憑かれている」人の特徴だった。
 
7年前、長男が誕生し、その後次々に子宝に恵まれた。夫は「妻にかまってもらえない」寂しさと「家族を養う」重責を抱えていた。
そんな心の隙間に何物かが入り込んでしまったのだろうか。
人込み、アルコール、寂しさ。憑かれやすい人は、これらを避けたほうがいいんだそうだ。
 
これ以来、小さな「憑かれ」はあるものの、大きなトラブルは起きていない。
 
人の寂しさに付け入ってくるのは、生きている人間だけではない。のかもしれない。
皆様、どうか、お気を付けください。
信じるか信じないかは、あなた次第です。
 
 
 
 
***

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2020-07-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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