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マスクは笑顔のリトマス紙


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記事:AZE(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「え……また私睨まれた……?」
 
6月2日。
フランスではコロナウイルス の影響を受け、約3ヶ月前から飲食店の営業が禁止されていたが、ついに営業を再開する事が許された。
パリのレストランで働く私は、このニュースに歓喜した。
久々に働ける事、同僚や常連の方に会えることが本当に楽しみだった。
 
ただ、コロナウイルス は完全に消えた訳ではない。
その為、飲食店を再開させるにあたり、あるルールがフランス政府から発表された。
それは「マスクをつける事」
従業員はもちろん、お客様も席もついて食事を始めるまではマスク着用が義務となったのだ。
 
更に店側は、お客様と従業員を守る為に、床には1メートル単位で印がつけられて、レジ前にはアルコールジェルを置き、お会計の後にお客様が手を消毒してから食事が出来る様にした。
 
そしてついに開店。みんなまた来てくれるだろうか。
万全の準備をし、ドキドキしながら待っていると、少しずつマスクをきちんとつけたお客様が来店し始めた。
「いつもは混んでるけど今日は空いてるかなと思って」と言いながら初めて来てくれたお客様。毎日通って下さっていた常連のお客様。久々の感覚が嬉しかった。
 
しかし、同時に今までに感じたことのない違和感を感じていた。何となく、お客様との距離が以前より遠いのだ。
それは物理的なソーシャルディスタンスのせいなのか、久々の営業だからなのか、何なのだろう。
 
「Merci beaucoup(ありがとうございました)」
そう言いながらお客様を見た時、私はどきっとした。
お客様に“ギロッ“と睨まれたのだ。
違和感の正体はこれだ。さっきからお客様が笑っていない。それどころか睨まれている。
でも「Au revoir(またね)」と返事してくれるし、声は怒っているように聞こえない。
私の気のせいだろうか。
しかし、お客様に睨まれる現象はしばらく続いた。
 
色々考えた末、私は原因を突き止めた。マスクだ。
 
彼らは睨んでいる訳ではなく、いつも通りアイコンタクトをしながら「Au revoir(またね)」と返してくれていただけなのだ。
きっとマスクの中ではいつも通り微笑んでくれている。しかし、目までは笑っていない。
マスクで口が隠れると、相手の表情が読み取りにくい。
その結果、目が笑っていないと、睨まれているように感じるのだ。
 
もしや、私もそうなってるの……?
営業が終わってから、トイレの鏡でいつも接客中にしている表情をしてみた。
……笑っていない。
営業中はずっと口角をあげて接客をしていた。でも目は全然笑っていなかったのだ。
「Merci(ありがとう)」と今度は口に出して言ってみたものの、鏡にうつる目の表情は全然変わらない。不愛想な店員に見える。これはまずい。
 
フランスでは、レストランでもスーパーでもカフェでも、お会計が終わった後に店員とお客が必ず目を合わせて「Merci(ありがとう)」「Au revoir(またね)」などとと言い合う。これはお互いが気持ちよく終わらせる為に、凄く大切にされている文化だ。
しかし、マスクをつけて顔が半分隠れたせいで、口角を上げるだけの営業スマイルと、目も笑う本当の笑顔が、まるでリトマス紙を使った時のように、はっきり分かってしまうようになってしまった。お互いに気持ちよくコミュニケーションを取りたい気持ちは変わらないのに、これは勿体ない。
マスクを付けている限り、今まで通りの口角だけを上げるだけの営業スマイルはもう使えない。なんとかしなければ。
 
早速私はその日から、歯磨きの後に目で笑う練習を始めてみた。
これが中々難しい。
眉毛だけが上がってしまうと、驚いた表情に見えるし、目に力を込めると今度は睨んでいるように見える。
目を細めるだけでは、なんだか変顔をしているみたいだ。
普段どれだけ笑う時の目の表情に意識が無かったのだろう。
 
色々試した結果、ほっぺたを自分が思っているより3センチぎゅっと上げるイメージをすると、やっと目が笑っているように見えると分かった。
ほっぺたを上手く動かすには柔軟性が必要なことも気づき、ほっぺたを膨らませる準備体操もしてみる。
 
よし、後は実践あるのみ。
 
翌日から私は接客中、マスクの下でほっぺたを最大限に引き上げながら接客してみた。
ついでに声もいつも以上にハキハキ話す。マスクを付けているとどうしても声が篭りやすく、聞こえにくいからだ。
 
営業が終わる頃には、もうほっぺたがつりそうな位くたくただった。
しかし、効果は抜群にあった。
前日よりも、ギロッと睨むようなアイコンタクトを取るお客様が格段に減ったのだ。そして目で笑顔を作ってくれる人が多くなった。目の表情だけでも相手が笑顔な事が分かると、つられて相手も目が笑うようになるのだろう。
そしていつもは「ありがとう」だけだった人が「Bonne journée (良い一日を)」「Bon courage(頑張ってね)」と労いの言葉をかけてくれるようになるというお釣りまでやってきた。中々気持ちが良い。最後の方はその言葉が嬉しくて、本当に笑っていたと思う。
 
マスクをつける日はまだまだ続く。夏に近づくにつれて、蒸し暑くなるし不快感を感じる人も増えるだろう。
でも、みんなが共通してマスクをつける事になった今、これを機会に口角を上げるだけの営業スマイルをやめてみる良いきっかけにしてみてはどうだろうか。
そして、マスクをつけない生活が戻ってきた時は、お互いが素敵な笑顔で今まで以上に気持ちの良いコミュニケーションが取れる日がくるかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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