メディアグランプリ

保育園で魅力的な恋人を手に入れた話


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記事:藤野 碧(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
6月。私たちは、いわゆる「マンネリ」という状態にあった。
一緒にいることが当たり前。
同じ空間にいるのに、彼は本を読み、私はスマホをいじる。
夕食には彼の好物のおかずを出す。彼は黙々とそれを食べる。
平和で、刺激のない毎日。
私と、1歳8か月の息子のことである。
 
息子はこの春から保育園に行き、私は職場に戻る予定だった。
それが感染症の蔓延によって、1か月、2か月と延びた。
私は決して、早く仕事に復帰したかったわけではない。むしろ育児休暇を満喫していた。毎日、息子と一緒に公園や児童館に出掛け、昼寝をし、おやつを食べた。
それでも、子育てと家事だけの毎日が1年半を超すと、「なんだか飽きたなあ」と思った。おそらく、私はこの生活に飽きたのであって、息子に飽きたわけではない。ただ、このきわめて微妙な区別を、いつも意識して過ごすことは難しかった。息子の扱い方が、だんだんとおざなりになってきていた。
 
そして6月下旬、息子の保育園生活がついに始まった。
初めは1日につき2時間だけ。徐々に保育園にいる時間を長くしていった。
息子はすんなりと新しい環境に適応した。
 
何日か通って、週末になった。週末は保育園が休みで、家で過ごす。
息子は以前と変わらず、絵本を床に広げてめくったり、車のおもちゃを手で動かしたりして遊んでいた。
私は驚いた。
自分でも「変わったな」とわかるほど、私は積極的に息子に話しかけ、息子の顔をのぞき込み、腕や背中を触り、あれやこれやとおもちゃを差し出していた。
 
きっと、それまでずっと一緒にいた息子と、離ればなれの時間ができて、私も淋しかったのかなー。なんて思ったが、そんなシンプルな感情だけでもなさそうだった。
 
独身の頃、インターネットにあふれる「恋愛マニュアル」の類をたくさん読んだ。「気になる彼の心をつかむコツ」とか「恋愛が長続きするとっておきの習慣! 10選」とかそういうのだ。合コンでは男性の自慢話にも笑顔で「さすが~!」と言いましょう、といったテクニック系の話はさておき、実は恋愛にまつわるアドバイスには、人としてのあり方について有益な示唆をくれるものも多くあった。
 
私が気に入ったのはこんな警句だった。
「彼氏ができたとしても、あなたは自分だけの世界を持ちましょう。現状維持ではなく、新しいことを勉強したり、習い事をしたり、仕事を頑張ったりして、常に成長するよう心掛けましょう。そうすれば、彼はあなたを魅力的に感じ、飽きることなく、ずっと好きでいてくれます」
 
人は、相手の全てをわかったような気がしてしまうと、その相手に興味を持てなくなる。だから、ずっと興味を持ち続けてもらうには、相手に全てを知らせないこと、相手の知らないところで変化し続けることが大事。男性であろうと、女性であろうと、同じ。
 
ふむふむ、なるほどね。と思って読んだ、この「恋愛マニュアル」の言っていたことは正しかったと、私は今回改めて思った。
 
保育園に通い始めた息子に、私が急にからむようになったのは、単に一時離ればなれになって淋しかったから、ではなかった。それは息子が、「保育園」という私の知らない世界を手に入れ、私の知らないところで変化・成長する生活を始めたからだった。
 
それまで息子と私は、ほぼ一心同体で過ごしてきた。子どもは日々成長するとはいっても、私はそれをつぶさに見ることができる立場にあった。だから私は無意識に、「彼の全てを知っている」と思っていた。それできっと彼への興味が薄くなった。彼の全てを見ることができるが故に、彼を見ていないことが多くなった。
 
今はどうだ。
 
息子はシールで遊ぶのが好きだ。
彼は以前から、大小のシールを台紙からはがすことができる。左手の指で台紙をつかんでしならせ、浮いたシールを右手に取る。だが、取ったシールをどこか(例えば画用紙)に貼ることはできなかった。粘着面でない方を、画用紙にすりつけてしまう。
 
保育園に通い始めたその週末、私たちはまたシールで遊んだ。
息子は右手の人差し指にシールを取ると、慎重な動作で、粘着面がちゃんと下になるように、画用紙に乗せ、親指で「ぎゅっ」と固定した。
貼れた。いくつも、いくつも、貼れた。
 
すごいじゃん!
私は息子をさんざん誉めた。
いつの間にか、シールを貼れるようになったんだ!
そういえば、おととい、保育園のドアに貼ってあった「今日の活動」の欄に「シール貼り」って書いてあったな……
 
保育園で、できるようになったのかな。
先生に、教わったのかな。
お友達がやっているのを、見たのかな。
自分で初めてできた時、どんな顔をしてたのかな。
 
知りたくなったが、もう、確かめようもなかった。
シールと向き合い、真剣な表情で何らか取り組んだ姿を、想像するしかなかった。
 
明らかな事実は、今の息子は、私の知らない世界を持っている。
息子は、私の知ることのできない場所で、変化し、成長し始めた。
そういうことだった。
 
やっぱり。知らない世界を持ってる人って、とても魅力的ね。
 
今日の彼は、どんな面白いことを経験したのだろう。
今日の彼は、誰と過ごしたのだろう。
今日の彼は、何に怒って、何に泣いたのだろう。
今日の彼は、何ができるようになったのだろう。
 
彼のことが、もっと知りたい。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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