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メディアグランプリ

「カナヅチ」という武器で高校受験に挑む


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:塚井綾(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「微熱があるので今日のプールは見学します」
夏は嫌いだ。またこの季節がやってきた。
 
とある箱根の保養所で、プールサイドを歩いていた小さな女の子が服のままプールに落ちた。足がつかないのか浮いたり沈んだりを繰り返している。すぐに父親が助けに来たが、溺れている本人は助けが来るまでの時間を死ぬほど長く感じただろう。
記憶のある限りそれが原因だと思う。そう、溺れた女の子は私だ。
 
それ以来、私は水が苦手だ。膝丈くらいの浅いプールで水遊びをするならいい。問題なのは義務教育のプールの授業だ。小学生になると泳ぎの練習が始まる。もともと負けん気の強い性格だ。プール開きから夏休み前まではそれなりに頑張って、少しは泳げるようになる。しかし夏休みになるとプールは自由参加。もともと水が苦手なんだもの、行くはずがない。こうして泳ぎが上達することなく9月になり、プール納めを迎える。翌年はまた0からのスタートである。小学6年生のときの計測結果は「平泳ぎ10メートル」。10メートルと言ったって、ほとんど蹴伸びで稼いだようなものだ。私は正真正銘、カナヅチである。
 
プール教室に通っていたら泳げるようになったかもしれない。弟はプール教室に通っていた。あまり家庭が裕福ではなかったこともあり、我が家の習い事は男子が優先だ。令和の時代だったらあり得ないことだが当時は昭和だし、プール教室に通いたかったかというとそうでもないので、家族を恨んではいない。ただ無理矢理にでも通わせてくれていたら、人生が変わっていたかもしれない。
 
中学生になり、プールの授業で距離やタイムを計測するようになった。自分の計測結果は大して気にしていなかったが、あるとき大問題が発生した。先生が「リレーをやりましょう」と言ったのだ。
いったい何を言い出すんだ! 私の入ったチームは絶対に勝てない。チームのお荷物になってしまうではないか!
ちょうど思春期の真っ只中。周りの目が気になる年頃だ。
「先生、お腹がいたいです」
「朝、微熱があったので今日は見学します」
とうとうズル休みした。毎回だと怪しまれるので3回に1回くらいだったと思う。この頃が一番、夏が嫌だった。
 
中学2年生の夏、なんとなく高校受験を意識するようになった。お金をかけられないので公立一択だ。何気なく学校案内をみていたとき、ある文字が飛び込んできた。それはとても小さな文字だったが、私の心を大きく動かした。
 
「プールの授業:選択制」
 
選択制だと?! バラ色の高校生活が脳裏をよぎる。
しかしそんな学校は公立で一校だけ。しかも学区で1、2を争う進学校だ。
 
我が家は曽祖父の代からずっと横浜に住んでいる。この地で高校受験を乗り越えた父に話をすると、「その学校は無理だ。受かりっこない」とまったく聞く耳を持たなかった。それもそのはず、私の成績は5段階評価の3と4がメインで、5はチラホラ。よくて中の上といったところだったからだ。
当時は部活にも入っていた。水がダメなら陸で、と入部した陸上部。陸上部は基本的に毎日練習がある。よっぽどの悪天候でなければ雨でもやる。週2日の朝練もある。土曜日は陸上競技場まで出かけて練習することもあった。勉強の方は週に3日程、学習塾に通っていただけだった。
 
このままでは絶対に合格できない……
そのとき私の中で「カナヅチ魂」がキラッと光った。
 
まず生活面を改善した。それまでは大層な遅刻魔でチャイムと同時に下駄箱に滑り込む生活を送っていたのに、無遅刻さらには忘れ物ゼロを徹底した。他にも陸上部女子のリーダーを務めたり、学級委員に立候補したりした。なぜなら、当時の神奈川県立高校の選抜方法では、中学2年3学期・3年2学期の内申点が選考の対象になっていたのだ。その比重はなんと50%である。
 
次に、中学2年の3学期に実施されるアチーブメントテスト(通称、ア・テスト)に全力で取り組んだ。実施科目は9教科。保健体育、技術家庭科、美術、音楽も筆記試験がある。基本は暗記だ。徹底的に過去問をやり込んだ。ア・テストの結果も選考の対象になる。その比重は20%だ。
 
つまり、中学2年3学期・3年2学期の内申点と、ア・テストの結果で、高校受験の選考の75%を占める。当日の筆記試験の比重は残りの30%だ。
 
もちろん、その30%にも全力を尽くした。部活が終わったら学習塾へ飛んでいき、テストで間違えたところやわからないところを、自分ひとりで解けるようになるまで徹底的に質問した。塾長以外は全員アルバイトという小さな個人塾だったが、問題を選定する先生たちの「目」が素晴らしく、自分で解ける問題より「やや」上の問題を用意してくれた。その絶妙な出題センスのおかげで心折れることなく、私の学力は飛躍的に向上していった。高校受験を支えてくれたのは間違いなく塾の先生たちである。本当に心から感謝している。
 
高校受験、合格発表の日。高校の校門で封筒を受け取った。
中には「合格」の文字。私は「プールの授業:選択制」の高校に合格した。
 
まさか「カナヅチ魂」が私をここまで突き動かすとは、自分でもびっくりである。私にとって「カナヅチ」は高校受験を戦い抜く武器となった。そしていまは記事のネタにもなっている。苦手なことを受け入れ、使い方を変えることで、自身の糧になることもあるのだ。
 
もうすぐ夏がやってくる。
相変わらずの「カナヅチ」だが、私は夏が大好きだ。
 
 
 
 
***

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2020-07-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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