たった一言で、静かに失った人間関係のこと。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ゆりのはるか(ライティング・ゼミ通信限定コース)
「ごめん、もう一緒に帰れない」
言い出したのはわたしからだった。
仲良くしたくないとか嫌いになったとか、そういうわけじゃなかった。
むしろこれからも変わらずずっと友達でいるつもりだった。
教室でたわいもないおしゃべりをしたり、学校帰りにプリクラを撮ったり、休みの日にライブに行ったり、カフェでパンケーキを食べたり。
そういう楽しい時間をわたしはこれからも一緒に過ごしていくつもりで。
それでも、少しタイミングが合わなかっただけで、そんな関係はすぐに壊れてしまう。
友達ってどうしてこう、上手くいかないんだろう。
中学1年生の時、すごく仲良しの友達がいた。
同じクラスのありさちゃん。
休み時間はずっと二人で話して、お昼のお弁当も一緒に食べて、違う部活に入っているのにわざわざ待ち合わせて一緒に帰っていた。
ありさちゃんとわたしはとても気が合った。
優しくて、面白くて、友達の多いありさちゃん。
でも恋愛や部活のことでひとり思い悩むことも多くて、それをわたしだけに話してくれるのが嬉しかった。
お互いアイドルオタクで、常にマシンガントークで会話をしていて、普通の人に比べてどこか飛び出ているようなキャラの濃いふたりだったけど、不思議とハマった。
わたしはありさちゃんのことが大好きだった。
中学2年生になってクラスが離れてしまったけど、これからも一緒に帰ろうねと約束していた。
最初の頃は変わらず一緒に帰って、お互いのクラスの話をぺらぺらと喋っていた。
やっぱり、ありさちゃんといると楽しかった。
ありさちゃんは新しいクラスでもたくさん友達ができて、いつもニコニコしていた。
クラスであったことを楽しそうに話すありさちゃんはキラキラしていて、わたしも聞いていて楽しかった。
だからこそ、言えなかったのだ。
わたしはあまりクラスでの人間関係が上手くいっていなかったことを。
「はるちゃん、気を付けてね」
思えば、コミュニケーションが下手なわたしのことを、ありさちゃんは誰よりも心配してくれていた。わたしは人に合わせることが苦手だった。案の定わたしは同じグループの友達とあまり上手く仲良くすることができなくて、いつ自分に陰口の矛先が向くかと常にびくびくしていた。
多感な中学2年生。クラスの友達や担任の先生のことを標的にして、ネタにしたり、悪口を言ったりする子がどうしても多かったのだ。中1のとき、一言も人の悪口を言わなかったわたしが、中2では周りに流されてクラスの友達の悪口を言い始めた。そんな自分が大嫌いだった。
そんな風になってしまった自分を、どうしてもありさちゃんに見られたくなくて。ある日、わたしはありさちゃんにこう言ってしまったのだ。
「ごめん、もう一緒に帰れない」
そう言ったわたしに対して、ありさちゃんは普通に「そっか」と言った。
本当に普通だった。
むしろ「残念だけど、また時間合う時は一緒に帰ろうね!」と言ってくれた。
これからもずっと仲良くできると思っていた。
でも、実際は違った。
それからわたしとありさちゃんは、メールをすることも遊ぶ約束をすることもなかった。廊下ですれ違っても、挨拶もしなくなった。
一緒に帰れないと言ったのはわたしだけど、あんなに普通だったのに。
喧嘩をしたわけではない。
なんでこうなってしまったのか。全然わからなかった。
そのまま中学を卒業して、高校も卒業して、わたしは大学生になった。
心のどこかでずっとありさちゃんのことが引っ掛かっていた。
なんでこうなってしまったのか。その答えはいつまでも出なかった。
そんなとき、大学の授業で見覚えのある名前を見た。
「桂木ありさ」
それは、ありさちゃんの名前だった。
ありさちゃんはわたしと同じ大学の同じキャンパスにある学部に通っていたのだ。
まさかそんな身近なところにいると思っていなかったので、心底驚いた。
なんとなく、声をかけることはできなかった。
結局、人間関係はテトリスみたいなものなのだ。
わたしたちはテトリミノ。
落ちてきたときにタイミングが合えば、ぴったりとハマることができる。
ただ、その一瞬を逃しただけで、一生交わらないこともある。
わたしとありさちゃんは、出会った時はお互いがお互いを求めていた。
でこぼこしたテトリミノ同士、くっつくことができた。
でも離れてしまったから、もうタイミングが合わなくなってしまったのだ。
一度でも交わることができたのは、奇跡みたいなことだった。
一期一会とはこういうことを言うのだろう。
出会えたことを、仲良くなれたことを、もっと大切にすべきだった。
今更気づいても遅い。
話すことはなかったけど、大学生も中盤に差し掛かったころ、ありさちゃんのインスタグラムのアカウントを見つけたことがある。鍵がかかっていて、内容を見ることはできなかった。フォロワーは200人ぐらいいたので、何かのきっかけになるといいな、と思いフォローリクエストを送ってみた。
どきどきして、待っていた数日後。
ありさちゃんのアカウントを開くと、そこにはまたフォローリクエストのボタンがあった。
つまりそれは、わたしが送ったリクエストをありさちゃんが拒否したということだった。
それは、ちょっとした一言。
「ごめん、もう一緒に帰れない」
悪気はなかった。
ただ少し離れたいと思っただけだった。
大好きな友達に嫌な自分を見られたくなかっただけだった。
それをありさちゃんがどう受け取ったのかは、わたしにはわからない。
ありさちゃんはわたしのことを心から心配してくれていたのに、わたしは。
友達伝いにありさちゃんの近況を聞くたび、今でも胸がぎゅっと締め付けられる。
喧嘩をしたわけではない。
だから、仲直りなんてできない。
もう、楽しかったあの頃に戻ることはできないのだ。
たまにおすすめユーザーとして表示されるありさちゃんのアカウント。
そのボタンをもう一度叩く勇気は、わたしにはなかった。
「ごめん、もう一緒に帰れない」
わたしはこの一言を、きっと一生忘れないだろう。
***
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