メディアグランプリ

夏と花火と私の恐怖体験


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記事:宇野好美(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
そこは真っ暗闇だった。
赤黒い何かが体全体を取り囲んでいた。
逃げようともがくがその赤黒い何かはどんどん迫ってくる。
目をそむけたくても体はピクリとも動かない。
声に出したくても、なぜか声は出ない。
力いっぱい叫んでみるがうまくいかない。
押しつぶされそうな感覚。
 
はっと、気が付くと時計の針は0時30分をさしてした。
じっとりと汗をかき、心臓の鼓動が激しく脈打っていた。
まるで全速力で走ったあとのように、呼吸は浅く早かった。
 
どうやら、いつの間にか眠っていたようだ。
怖い夢というのは今までにもみたことはあるが、何ものか分からないものに恐怖を感じる夢ははじめてだった。
この夢を思い出す度に、心拍数が跳ね上がり、動悸や息切れを感じる。
 
とあるテレビ番組でミステリーと称したホラー話を見た。その話の現場となったと推測される場所は、自宅からすぐそばだった。そしたら、この怖い夢を思い出してしまったのだ。
 
その日は、地元の花火大会だった。その花火大会は8月の終わり頃に毎年開催されている。ちょうどお盆のすぐ後だ。
河原で行われる花火大会は市民がどれだけ訪れても、ソーシャルディスタンスが守られる距離で鑑賞できる。大の字になって寝そべっても誰にも迷惑のかからない余裕がある広さだ。テントを張ったり、テーブルを持ち込んで鑑賞していたりと、自由なスタイルで花火を見ることができる。
 
その日も、そんなゆるゆるとした花火大会だった。あたりが暗くなる7時ころから始まって、1時間が経過した頃だ。私は、カメラで花火を撮るのに夢中になっていた。
視界の端っこの方、数十メートル先に高校生くらいの若い女の子がいた。誰かを探しているようで、同じところを行ったり来たりしている。2−3周目までは、お友達とはぐれたのかな……と思っていた。でもさすがに5−6周もしているとなんだかおかしいと気がついた。なんとも言えない違和感を感じたのである。私は花火の撮影を続けながら、それとなく目であとを追った。もしかしたら、無防備に花火を見ている人が多いので泥棒さんではないかと思ったのだ。でも、違ったようだ。目で追っていたはずなのに、いつのまにかいなくなっていた。その時は、女の子のことはすぐに忘れてしまった。
 
でも、その晩怖い夢をみた直後にその女の子のことを思い出したのだ。すっかり忘れていたのに頭から離れなかった。
思い出し当てみると、どう考えても不自然なのだ。若い女の子なのに服装が今っぽくなくてなんだか古いのだ。持っていた肩がけバックはどことなく汚れていた。服も少しヨレっとしていたのだ。そういえば……花火の音に動じていなかったのだ。スターマインが上がったら少しは反応しそうなのに。音が聞こえていないかのようにただ歩いているのだ。誰かを探しているようでいて、目はうつろ、さまよっているようにも見えたのだ。違和感の正体に気がついたら、背筋が急に寒くなった。
 
実は、その花火大会では過去にも奇妙な事が起こったのだ。この怖い夢をみる数年前の花火大会でのことだ。その時は川の対岸より花火をみながら撮影をしていた。
 
近くにいた知らないカメラのおじさんに撮影テクニックを教えてもらったりしながら和やかに写真を撮っていたのだ。その日の天気は不安定だった。花火が終盤に差し掛かった頃、大雨が降った。でも幸いすぐに雨は上がり、花火大会は再開された。湯気のように煙が川にかかり花火の光がそこにあたっていた。その様子をなにげなくカメラに収めたのだ。その日は疲れてしまい、データを確認したのは翌日であった。
 
そしたら、とんでもないものが写っていた。防災頭巾というのはご存知だろうか。それに似た被り物をした女性が苦しそうな表情で手を伸ばして空をみあげているように写っていたのである。と言っても実体ではなく、煙がそのような形に見えたのだ。一枚だけなら光の具合でそう見えただけと思った。しかし、その次の写真にも写っていたのだ。今度は男性と思われる形と、その後ろにも無数に人のような形をした煙が叫んでいるような表情をして空に手を伸ばしているように写っていたのだ。
 
恐ろしくなった。すぐにデータは消した。よく考えたら、お盆の直後だ。でもって、たぶん戦争の時代には市内のどこでも空襲はあったはずだ。川沿いと言っても港の近くである。格好の攻撃対象であった可能性が高い。
その事があってからは川の対岸から花火をみるのをやめたのだ。
 
それなのに、2度目の恐怖体験をしてしまったである。今思えば、夢で見た赤黒いものは空襲の炎だったのではと考えずにはいられない。
煙の写真を撮ったときに、お盆のあとの花火大会は鎮魂にはならないと思ったのだ。もしも霊がいるのなら、火花が散る様やスターマインの轟音は空襲を連想してしまうのではないかということだ。花火はやめてあげた方がよいのかもと思ったが、私に何ができるわけでもなくすっかり忘れていた。
 
私には、いわゆる霊感は無い。しかし、鈍感な私にも夢や写真、奇妙な女の子の形で現れることで、やめてくれと必死に伝えていたのではと今では思うのだ。幸い、もうその場所で花火大会は行われていないので少しホッとしている。もしも、霊がいるのであれば静かに眠ってもらえたらと願うばかりである。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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