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本屋と出会うということ


蒔田さん1

 

記事:蒔田 智之(ライティング・ラボ)

 

僕は、本屋が好きだ。

本屋には「顔」がある、と思っている。

本を売っている場所、という共通項はあるけれども、一軒として同じ本屋はない。

それは大型チェーン店でも同様だ。
店の立地、建物の雰囲気、利用客の客層、扱う本のラインナップ、照明等々。
ほんのちょっとした違いで、受ける印象が全く変わってくる。

そうした個人的な印象を総合したものを、僕は本屋の「顔」と呼んでいる。
そういう顔に出会うことが楽しみとなり、いつの間にか「書店巡り」が一つの趣味になっている。

人生で初めて本屋と出会ったのは保育園生か小学校低学年の頃で、とある小さな個人経営の書店だった。
自宅の近所で、しかも道路を挟んで斜め前という、僕にとっては非常的に好条件の立地だった。学校から帰ってくると、お小遣いを握りしめてよくその本屋に行ったものだ。

地方都市の個人経営の本屋だから、非常にこじんまりとしたお店だった。

だいぶ昔につぶれてしまい、今は駐車場と変わり果てているが、普通自動車を2~3台停められる程度の売り場スペースしかなかった。
それでも、僕にとってはいろんな宝物が詰まった、大きい宝物庫のような存在だった。

子供向けの雑誌に「小学○年生」という雑誌があるが、毎月発売日になるとよく買いに行った。
小学校4年生くらいになると、藤子不二雄の漫画を読みに放課後通っていた。
当時テレビゲームが禁止されていたため、ゲームの攻略本を立ち読みしてプレイした気になったりもした。
高学年になると、次第に活字にも触れるようになり、子供でも読める小説や児童図書を読むようになった。

家の近所ということもあり、相当足繁く通っていた記憶がある。
買うことよりも立ち読みすることの方が多かったと思うが、店のおじさんは注意することはなく、むしろあれこれと声をかけてくれた。

僕にとっては、本に親しむ最高の環境がそろっていたといっても差し支えないだろう。
その本屋の大きさは、まだ小さかった僕が時間をかけて一周できる程度のちょうどよい広さだった。訪れるたびに、どんな本があるのだろうと目を輝かせて、狭い書店内をうろちょろしていた記憶がある。

中学校、高校と進学すると、学校の近くにあった大型書店に通うようになり、その店からは自然と足を遠ざけるようになっていた。大人に近づいていくにつれて読書量も読む本のジャンルも増えていった僕にとっては、その本屋の大きさでは足りなくなっていたのだった。

ちょうど大型書店が街の中に目立ち始めたころだろうか。
気が付けばその本屋は閉店していた。
その頃の記憶は定かではない。大学生の時は東京で下宿をしていて、実家からは足を遠のいていたから、おそらくそのタイミングで廃業したのだろう。

僕にとって大切だった場所がなくなってしまったのは非常に残念だったが、貴重な思い出は心の中に残った。
僕にとって本屋は、ただ本を売る場ではなく、本というものを通して世界を知る、自分の知的好奇心を満たす、とても楽しい場所になっていた。
そういうことを、あの本屋は幼い僕の頭の中に刷り込ませてくれたのだ、と思う。

その後も大学へ進学、卒業したのち就職して社会人になり、そのたびに数多くの「本屋」を訪れた。

僕にとって幸運だったのは、行く先々の生活拠点や職場の拠点で、相性のあう「いい顔」の本屋が必ずと言ってもいいほどあったことだ。
今まで暮らしていた家の近くや学校・職場のちょうど良い場所に、自分好みの書店が不思議とあるのだ。

今住んでいる家の最寄り駅にも、大手書店が3店も家の帰り道の途中に並んでおり、それぞれ全く違う「顔」をもっている。
帰宅途中にその気になれば、自分好みの書店を選び、ぶらりと立ち寄ることができるのだ。おかげで、気軽に本を買えるようになり、充実した読書ライフを過ごせている。

また、書店に自分の人生を救われたこともあった。

今から2年ほど前だろうか。

当時、新宿に会社のオフィスがあり、毎日通っていた。
ちょうど、今年のように暑い夏の日だったと思う。

連日連夜、仕事が続き、肉体的にも精神的にも疲労が重なっていた。
その部署に配属されて1年がたち、それなりに責任のあるプロジェクトを任されていた。
実質単独で仕事を進めており、精神的なプレッシャーも相当あったと思う。

連日の残業で倦んだ体に、プレッシャーに押しつぶられそうな精神状態、そして肝心の仕事もうまく回らない。
そんな八方塞がりの状況が連日続いたある日の朝。新宿駅のホームで僕はうずくまったまま動けなくなってしまった。

こみあげてくる嘔吐感。ぼんやりしてうまく回らない頭。足元もおぼつかなく、ふらふらした足取りで何とかベンチに座り込んだものの、全く立てなくなってしまった。

とても会社に行ける状況ではない。なんとか携帯電話で会社に休みの連絡を入れた。
一刻も早く家に帰って休みたかったが、体は全く動く気配がしなかった。

ぼんやりとした頭の中で、これはもうだめだと絶望を覚えた。
とうとう、仕事に心が押しつぶされてしまった、そう思ったのだ。

同時に、これからどうなるのだろうと、不安が心をよぎった。
今日のところは仕方ないにしても、明日もまだいけるような状態でなかったら・・・・・・。

仕事にも迷惑をかけるし、自分の人生すら先が見えなくなってしまう。

本能的に「これはまずい」と思った。このままここに座っている以上、未来はない、とすら思った。

とはいえ、家に帰る気力はないし、かといってどこかへ行く当てがあるわけではない。頭もぼんやりとしていて理性的な決断が下せる状態ではなかった。
しかし、何かを行動しなければならない。その思いに突き動かされるようにして、僕は何とか腰を上げた。

朦朧とした頭とすっかり重くなった体をひきずるように、僕は歩き出した。
その時どういう意図をもって、あるいは思考をして動いていたのか全く覚えていない。おそらく、何も考えていなかったのだろう。

気が付けば僕は、紀伊國屋書店の新宿本店前に立っていた。
店の中に入ると、無気力に書棚の前を歩き始めた。

頭は相変わらず回転が鈍く、本のタイトルすら頭の中に入ってこない。
それでも、いくつかタイトルを読み取れる書籍はあった。それらを目にすると無造作にとりだし、手の中におさめていった。

新刊書籍のフロアを歩き終わる頃には、およそ10冊近くの本を手に持っていた。
そしてそれらをレジに持ち込み、すべて購入した。

今思い返してみても、なんとも無茶苦茶な本の買い方をしたものだ。
一度に買った本の量としては過去最大の冊数だし、おそらくこれ以上買うこともこれからの人生では無いと思う。

書店を後にし、自宅までの電車に乗り込んだ。そのとたんに、まさにむさぼるように本を読み始めた。
頭はだいぶ動くようになっていたが、それでも細かい部分については書かれている内容を理解できるような状態ではなかった。

それでも、直感で読み進めていった。文を頭の中で理解するのではなく、視覚から生じたイメージのようなものを感覚的にとらえていくような読み方だったと思う。

結局、10冊の本を読破するのに1週間以上かかってしまったのだが、2~3冊程度読み込んだ段階で、心がだいぶ軽くなっていた。

どうして楽になっていったのかは、自分でもいまだによくわからない。

ただ、今まで仕事や将来に対して漠然とした不安しか持てなかった自分が、不安ばかりで今にも逃げ出したいけれど、今は逃げ出せないからできることをやっていこうよ、今じゃなくてもいつか自分のやりたいこと、むいていることができるようになればいいじゃないか、そういう風に開き直れたのは事実だ。それが大きかったのかもしれない。

そうなれたのも、自分が本能的に選んだ10冊の本のおかげであり、またその10冊を選ばせてくれた、本屋の力だと思っている。

この経験から、本屋は、人を育ててくれるし人が前に進むのに背中を押してくれる。そういう存在なんじゃないかと思うようになった。

 

その出会いから2年後。
僕は奇しくも、「本とその先にある体験を提供する書店」、東京天狼院書店の冷やし炬燵に陣取って、こんな文章を書いている。

8月22日。
東京天狼院はリニューアルオープンを迎えた。
店舗の広さ自体は依然と変わらないが、書棚のレイアウトや机のスペースを変更したことで、以前よりも開放感があり明るい店内へとパワーアップしている。

天狼院書店との出会いは全くの偶然だった。

今年の6月のある日。

東京は梅雨の最中で、休日のたびに憂鬱な雨が降り続いていた。

連日の悪天候のため思うように外出ができず、非常に鬱屈していた僕は、何気なくスマートフォンをいじっていた。

いい暇つぶしにはなったが、しばらくすればそれすらも飽きてくる。
どうしたものかな、と頭を悶々とさせていたが、ふと本屋に行こうという考えが頭の中をよぎった。
読書なら雨が降っていても部屋の中で時間が潰せるし、書店で本を選ぶだけでもいい暇つぶしになる。停滞した現状を打破するのには、相応しい試みだと思えた。

さっそく近所の書店へ外出を、と思ったが、ちょっと待てよと考え直した。

今日は休日。平日の仕事帰りでも寄れる、行きつけの本屋へ行くのもなんだかもったいない。時間もあることだし、せっかくだから、普段いけないような、おもしろい本屋さんに行ってみたいと思ったのだ。

そして再びスマートフォンを操り、「書店」というキーワードでインターネットを検索してみた。そこで出てきたのが、「天狼院書店」を特集した記事だった。

これが、僕が初めて天狼院書店を知った瞬間だった。
思いついたら吉日。さっそく、天狼院書店に行ってみることにした。

地図によるとJR池袋駅で下車し、駅前を歩いてあずま通りを直進した先にある、とのことだったが、結構歩いてもなかなかたどり着かない。ここであっているのだろうか、と不安になりながら歩いて行ったのをよく覚えている。

天狼院書店は、なんとも「変わった顔の」書店だった。

店舗自体はさほど広くない。おそらく、僕の実家の近所にあった、人生で初めて行った書店と同じかちょっと広い程度の大きさだったのではないだろうか。

この限られたスペースで、本を売るほかに喫茶スペースを設け、部活動を運営しているという。失礼な話だが正直に告白すると、最初に訪れた時、僕はこの書店について数パーセントも理解をすることができなかった。ただ、書店ではあるもののただの本屋ではない、そういうもやっとした実感は、心の中に残った。

そのもやもやは、日を経つごとに大きくなって気になっていった。
どうしても気になってしまったので、僕はついつい天狼院書店にまた来てしまった。

しかし、その方法は全く根本的な解決にはならなかった。
それどころか、一層天狼院書店にはまり込んでいくようになっていた。
今では、週1回休日に来なければ気が済まないし、平日も仕事が早く終わった日はあわよくば、と店に訪れる機会を狙う有様である。

なぜ、ここまで天狼院書店にはまり込んでいってしまったのか。

自分でも全く不思議だが、心当たりがないわけではない。

おそらく、天狼院書店という「本屋の顔」が気に入ってしまったのだろう。

そもそも天狼院書店は、居心地が良すぎるのだ。

小さいころから本屋に通っていたので、本に囲まれるという環境には慣れているし、愛着すら感じる。そういう雰囲気の中で、ゆったりとした椅子に座りながら、ホットコーヒーをすする。これだけで僕にとっては、十分に至福の時間が流れてしまう。

また、扱っている本も、つい手に取ってしまうような本ばかりだ。

読書スペースだけでなく仕事場としても、天狼院書店の居心地はいい。
ノートパソコンと向き合って書類を作成していると、あっという間に時間が経ってしまう。
長時間集中していると、ふと、パソコンの画面から目をそらす瞬間がある。

その視線の先に飛び込んでくるのは、個性的な書籍の群れだ。

つい、目に入ってきてしまった書籍に手を伸ばしてしまう。
さっきまで書類作成に熱中していたはずなのに、今度は本を捲る手が止まらなくなる。
そして、気に入ってしまった本があれば、そのままレジに持ち込んで買ってしまう。

一般的な本屋からするとかなり変わった利用の仕方だと思うが、少なくとも僕はこの過ごし方がとても気に入っている。

天狼院書店の部活動も、積極的に参加している。

天狼院の部活動を通して、今まで知りえなかった知識や体験を得ることができる。
そのことに、僕は大きな価値を感じている。

やはり本屋は、知識を提供し、知的好奇心を満たす存在なのだと思う。

そういう意味で天狼院書店は、僕の書店に対する原体験とラップしているところが多いのだろう。大人になっても、いや、大人になったからこそ、未知の知識や体験に触れるということは大切なのかもしれない。

今年9月。
天狼院書店は「天狼院STYLE表参道」と「福岡天狼院」をオープンさせる。
東京天狼院もリニューアルを終え、ますますパワーアップしている。
これからも、僕は期待を胸にして天狼院書店に通い続けるのだろう。

新しい知識や体験を得るため。知的好奇心を満たすため。

そして、これは漠然と予感なのだけど、こうした知識や体験が自分に影響を与え、自分の人生を豊かなものに変えてくれるような気がしているのだ。

本は、そして本を提供する本屋は人生を変える。

僕は、本屋についてそういう可能性を感じている。
何かに行き詰っている人がいたら、僕は本屋を勧めようと思う。
きっと、答えを見つけられるはずだ。

 

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この記事は、ライティングラボにご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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