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中国で働くと「100点満点じゃなくてもいい」と思えるようになる


*この記事は、「編集ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:深谷百合子(編集ライティング講座)
 
 
「中国駐在を命じられたけれど、実際中国ってどんな国なんだろう?」
「何だかんだ言っても大きな中国市場。そこでビジネスをやってみたい」
「中国資本の会社への就職も考えたいけれど、会社の雰囲気はどうなんだろう?」
 
そんなことをお考えのあなたに、中国国有企業で働いた経験を持つ筆者が、実際に中国で仕事をされている方にインタビューし、「中国で働く人の本音」をお届けします。
 
 

<目次>
はじめに
 
1.不安の正体は「知らないということ」
 
2.中国での仕事は、まるでジェットコースター
 
3.「中国だから嫌だ」は勘違い
 
おわりに

 
****************************************
 

はじめに


今回インタビューさせて頂いたのは、日本の化学品関連企業にお勤めの細田 賢さん。勤務先の会社が中国・無錫に設立した中国企業との合弁会社に赴任して4年半ほどだ。
 
海外志向は全く無かったという細田さんは、突然会社から命じられて中国へ赴任した。隣国なのに意外と知らない中国のこと。不安を抱えながら中国に飛んだ細田さんが、赴任してから現在に至るまで、どのような経験をしてきたのか、そして実際に行ってみて何を感じたのかを率直に語って頂いた。
 
考え方の違いを乗り越え、仕事も人間関係も円滑にするにはどうすればよいか? 細田さんの話には、そのヒントが詰まっている。
 
 

1.不安の正体は「知らないということ」


海外赴任のきっかけは色々あるが、多くの場合は会社から命じられての赴任だろう。初めての海外赴任には、不安と期待がつきものだが、細田さんはどんな思いで受け止めたのだろうか。
 
「会社は海外事業も展開しているので、将来は海外で働きたいという同僚もいたんですけど、私は海外には興味がありませんでした。でも、海外赴任に抵抗があったわけではなく、行けと言われれば行くという位の気持ちだったんですね。でも、いざ行けと言われると、めちゃくちゃ不安でした」
 
具体的にはどんな不安を感じていたのだろうか?
 
「土地勘も無いし、中国語も話せない。英語は通じるんだろうか? どんな街並みなのか?
住むのはどんな部屋なんだろうか? とにかく知らないということが恐怖でした」
 
そうした不安を感じながらも、細田さんは中国行きを決意する。
 
「自分自身は、敢えて自分を厳しい環境に追い込んで、やらざるを得ない状況の方が頑張れる。それなら、今回の中国行きはいい試練になるだろう。そう考えて中国へ行くことにしたのです」
 
不安を抱えながら降り立った上海。そこで細田さんは、自分が思い描いていたイメージとは全くかけ離れた光景を目にした。
 
「中国って、昔の小学校の教科書に載っていたようなイメージしか無かったんです。田舎の風景の中を、自転車やバイクに乗って移動する人が大勢いるような、ああいうイメージです。ところが上海に着いてみたら、高級車はバンバン走っているし、超高層ビルがいくつもある。良い意味でのギャップに安心しました」
 
そして、「あ、俺ここでやっていける」と思う瞬間が細田さんに訪れる。
 
「空港に迎えに来てくれていた不動産屋の日本人が、これから住む部屋へ案内してくれた後、夕食に誘ってくれたんです。彼が連れて行ってくれたのは、赤提灯がぶら下がるTHE昭和な感じの焼き鳥屋。そこで焼き鳥を食べてビールを飲んだら、それまで感じていた全ての不安が急に無くなりました。まるで日本にいるかのような感覚だったからかもしれません。もし何か困ったら、ここで店員さんに聞けばいい。そう思ったら、俺はここでやっていけると思いました」
 
細田さんは、自分を不安にさせていたのは、ただただ「知らない」ということだったのに気づく。実際に来てみて感じて、「なんだ、一緒なんだ」と思った瞬間に安心したと言う。
 
そして、細田さんはそこから半年間、上海で研修を受けた後、一旦帰国。その後すぐ、会社が中国のローカル企業と合弁で無錫に設立した会社へ赴任することになったのだ。
 
 

2.中国での仕事は、まるでジェットコースター


細田さんが赴任した合弁会社は、日本で販売していた化学品を中国でも製造、販売するために設立した会社だ。中国で製造の許認可を得るためには、中国政府とのコネクションが必要だが、日系だけの力ではハードルが高い。そのため、中国のローカル企業と組んだというわけだ。資本比率は、中国側が60%、日本側が40%であり、中国色の強い会社である。
 
合弁会社の社員は約30名。総経理(社長)は中国の親会社から出向してきた中国人だ。そして、細田さんは唯一の日本人社員である。中国国内の製造業へ、自社の化学品を販売する「営業」が主な仕事である。
 
初めて中国で営業の仕事をしてみて、細田さんは日本との違いに驚いた。
 
「中国での仕事は、まるでジェットコースターに乗っているような感覚なんですよ。とにかくアップダウンが激しいですね。毎日色んな事件が起きる。日本にいる時には、良い意味でもそうでない意味でも、あまり波が無かったのですが、中国に来たら、すごいでっかいビジネスをゲットできたかと思えば、とんでもなく変な理由でミスが起きたりするんですよ」
 
そんな状況に、初めは「なんで、なんで? どうしよう、どうしよう?」と焦る毎日だったという。そして、更に細田さんを驚かせたのは、「スピード感」だ。
 
「とにかく、お客さんから来る話はたいてい納期が短いんです。これ1週間でやってだの、3日でやってだのと言われるのが普通」
 
なぜそうなのか? 細田さんは日本で仕事をしていた時のことを思い出しながら、中国と日本の「組織としての仕事のやり方」に違いがあることに気づいた。つまり、こういうことだ。
 
日本の場合、担当者は自分の担当する仕事だけでなく、全体の状況も把握していることが多い。自分の前後工程の状況を把握しているから、いつ自分の所に番が回ってくるか予測しているし、背景も理解している。
 
だから、「もしかすると、近々こういう依頼をするかもしれません」と、事前に何らかの情報が客先から来ることが多い。
 
ところが、中国の担当者は全体像を把握しておらず、自分の担当する一部分しか知らないことが往々にしてある。だから、日本みたいな事前の「前振り」がなく、いきなり用件がボーンとやってくるのではないか?
 
それで細田さんは、その用件の背景にある目的を確認するように努めたが、客先の担当者自身が目的を理解していないケースもあり、断片的な情報を頼りに対応するしかないことに苦慮している。
 
とはいえ、「悪いことばかりではない」と細田さんは言う。
 
「日本では、よくわからないことは絶対にやらない。やってみないとわからないのに、やらないから物事が進まない。結論が出ないまま、うーんと頭を抱えているだけで、時間だけが過ぎていく。正直、そこにフラストレーションを感じてもいたんですよ」
 
「ところが中国では、やってみないとわからないのであれば、じゃあ、ちょっとやってみようとなる。そして、とりあえず進んで結果が出る。たとえ失敗でも、それがひとつの解になる。そして、その失敗から次に修正すべき点を見つけて、何とか前に進んでいく。そういう意味で、中国のこの、やってみようの文化は、悪くはないですね」
 
そうは言ってもだ。例えば納期の話について言えば、「とりあえず、その納期でやってみます」と引き受けて、「やっぱりできませんでした」というのは、まずいのではないか? そのあたり、中国ではどのように受け取られるのだろうか?
 
「確かに、そんなスケジュールでできるのか? と思うような無茶な要求でも、中国人は、任せろ、絶対やるぜっていう感じで客先には良い返事をしますね。でも、会社に帰ってから、皆でどうやって言い訳しようか、どうやって引き延ばそうかを考えていることはよくありますよ」
 
「で、どうするかというと、その時はできると思ったけれど、今は状況が変わったからできなくなったと言い訳をしますね。ところが、受け取る相手側も、分かったと言ってくれるケースが多いのですよ」
 
日本人からすると、こんな言い訳をされると、「中国人は約束を守らない。嘘をつく」という印象になってしまう。
 
「日本のお客様は完璧を求めますからね。でも、実際その時その時の状況ですぐに決断をしていく中国では、完璧を求めない。私も、客先からすぐに回答を求められているのに、日本側からはなかなか回答が来なくて、歯がゆい思いをすることがあります」
 
細田さんは、客先から技術的な課題について回答を要求されることが多い。日本に居る技術者に問合せをするが、日本側は完璧な回答を準備しようとするため、どうしても対応が遅くなる。
 
「だから、いつも日本側にはこう言うんです。後から変えてもいいんです。中国のお客様はそれで良しとするのだから、今の時点での回答を下さい。1週間後に変えたっていいんです。その時のフォローは中国側ができるし、お客様もそれで文句は言わない。だから今の回答を下さいとね。でも、なかなか理解してもらえません。これは経験しないとわからないことかもしれないですね。日本では正しいことが、中国でも正しいとは限らないのです」
 
細田さんは今、現地で働く日本人として、中国のやり方を受入れつつも、大局を見ながら日本との橋渡しをしていこうと考えている。
 
 

3.「中国だから嫌だ」は勘違い


さて、中国で仕事をするとなると、言葉の問題は避けて通れない。細田さんは、最初の上海での研修期間中は週1回学校に通って勉強していたそうだ。
 
実際に中国で仕事や生活をしていく上で、中国語はやはり身につけた方がよいのだろうか? 細田さんの思いを聞いてみた。
 
「実際のところ、上海の事務所に勤めていた中国人は皆日本語ができたし、現在の職場にも通訳が居るので、中国語ができなくても仕事では困らないです。ただ、少し話せるようになれば、タクシーや電車にひとりで乗ったり、外食や買い物もできるので、日常生活で不便を感じなくなりますね」
 
中国語を不自由なく使えたらいいなぁと思う場面は無かったのだろうか?
 
「いえ、有りますよ。お客さんと話をする時、特に会食で客先の偉い人の隣に座った時等に感じますね。せっかく声をかけてもらっても、会話が続かないので盛り上がらない。通訳を介して話をするものの、直接対話ではないので、心と心が通じ合った感覚があまりないんです。そんな時、話せたらいいなぁとものすごく思いますね」
 
だから、細田さんは職場では勉強も兼ねて、できるだけ話しかけるように心がけている。
 
「同僚とどれだけ仲良くなるかということは、とても重要だと思います。朝の挨拶でも、ちょっとした雑談でも、とにかく何かちょっとでも話すと、互いの距離が縮まる感じがします。それに、中国人は、とにかくガンガン話しかけてくるでしょう? こちらが理解していようがしていまいが、お構いなしですよ。加えて、距離がとても近いですね。日本人は親しくても互いの距離を常に保つが、中国人は仲間だと思うとガンガン来るので、逆にありがたいです」
 
「中国人は自分の家族、友人、同僚には優しいし、守ってくれますね。その代わり、テリトリーの違う人達とは激しく喧嘩している時もあるが、それはお互いの家族や仲間を守るためであったりするんですよ。彼らは一旦仲間になると、とても優しいです。だから、人間として悪いとは全く思わないです」
 
来る前は不安しかなかった中国。本格的に赴任してから4年半が経った今、どう感じているのだろうか?
 
「実際来てみたら本当に楽しいし、やりがいもありますね。中国で働いている日本人の友人と話をしていても、ほとんどの人は来て良かったと言っています。もちろん少ない確率で、全く合わずに参ってしまって、日本に帰ってしまう人もいるが、本当に少ないですよ」
 
赴任が決まった時、細田さんはご家族からこう言われたそうだ。
「赴任するならシンガポールとかアメリカが良かった。なぜ中国なの?」と。
 
けれども、他の国へ赴任した同僚達の話を聞くと、中国が一番いいと思えると言う。
 
なぜなら、中国は、住んでいる日本人が圧倒的に多いから、日本人向けのサービスも多く、日本に居るのと大して変わらない生活ができるからだ。
 
「中国だから嫌だというのは本当に勘違いだと思いますね。逆に、中国だからこそ、日本と同じ感覚で生活できると言いたいです」
 
中国行きを決意した時、「敢えて自分を厳しい環境に追い込んで、やらざるを得ない状況の方が頑張れる。それなら、今回の中国行きはいい試練になるだろう」と考えた細田さんだが、実際どんな成長を感じることができたのか、最後に聞いてみた。
 
「生活環境は日本と変わりませんでしたが、仕事の面においては、本当に鍛えられましたね。何しろ、瞬間瞬間で考えて決めないと仕事ができないので、失敗を怖がらなくなりました。とにかく決断する量が多いから、毎回100点満点をとれるわけがない。そうしている内に、失敗を恐れずにどんどんやる習慣が身についた。日本に居たら、そんな風に変化できていたかどうかは分かりません。だから、沢山の人に積極的に中国に来て欲しいですね」
 
 

おわりに


職場に日本人は自分ひとりだけ。赴任当初は不安で仕方がなかったに違いない。けれども細田さんは、持ち前の明るさとバイタリティで中国人と良好な人間関係を築き、互いの違いを受け入れて、充実した中国生活を送っている。
 
実際に中国に行ってみると、今まで如何に偏ったイメージを持っていたかが分かる。もちろん場所にもよるが、生活するのに全く不便を感じない。そして、人々は優しく、寛容だ。
 
細田さんも言っていたように、不安に感じるのは、ただ「知らないから」ということに過ぎない。中国での仕事に漠然とした不安を感じている方に、この記事が少しでも参考になれば幸いである。そして、ぜひ多くの方に、自分の目で今の中国を見て頂きたいと思う。
 
最後に、インタビューに快く応じて下さった細田さんに、この場を借りてお礼を申し上げます。
 
 
 
 

著者プロフィール
深谷百合子

国内電機メーカーに20年以上勤務した後、2013年7月から2019年12月まで中国国有企業における工場建設プロジェクトに参加し、プロジェクトの成功に貢献した。中国国有企業の部長職として中国人部下の育成を行うかたわら、直接コミュニケーションを取るため、中国語の学習をアラフィフで一から始め、上級レベルに到達。現在は、その経験を生かし、中国語学習者をサポートするコーチとして独立。中国語だけでなく、日中の相互理解を深めていく活動もしたいと考えている。

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2020-07-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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