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第一印象は大切、でも…


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記事:まめこす(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
第一印象は、見事に私の「理想の男性」条件を外してくる男だった。
年下、上昇志向はゼロ、男っぽくない、そして喫煙者。
「あぁ、こりゃ合わないだろうな」と確信めいたものを感じていた私だった。
 
「あ、ここ冷たいんで、どうぞコレ敷いてください」
 
2年前のとある平日。おたがいの仕事を終えて近所の創作居酒屋でかるくご飯とお酒で盛り上がり、うちまで歩いて送ってくれた、2回目のデートの夜だった。
 
近所の公園ですこし話そうとベンチに座ろうとした時、シワのないハンカチを手に、彼は私に向けてこう言ってきたのだ。
 
33年の人生を生きてきて、それなりの数の男性とデートを重ねてきたが、ベンチに座る場所へハンカチを敷いてくれたのは、彼が初めてだった。しかも、それが作り出された感が全くなく、とても自然な所作だったから尚更驚いた。
 
そもそも公園に寄るのだって、私が「すこし公園寄っていこうか」と提案したわけで、彼のデートプランに入っていたわけではないのだ。それなのにさっとハンカチをスーツのポケットから出してきて女性の座るベンチに敷けるなんて。
 
コイツなかなかやるじゃないの。
 
頬がほんのり赤らむのを彼に気づかれないように、きれいにアイロンのかかったハンカチの上に座らせてもらった。すこし肌寒い秋の夜だったのに、なぜか私のお尻はずっとじんわりと暖かかったのを覚えている。
 
思えば彼に対する第一印象が少しずつ解けていって、「アリかも」と思い始めたのはこのハンカチエピソードがキッカケだったように思う。
 
これまでの私なら、彼と付き合うという選択はありえなかった。
 
まず、私はタバコが嫌いだ。両親が重度のヘビースモーカーで、幼い頃から煙が嫌で仕方なかった。
だから1回目のデートで「タバコ吸ってもいい?」と言われた時点で完全にアウトだったはずなのだ。
 
さらに、これまで付き合った男性は全員年上だった。最高でひとまわり以上。年上男性の頼り甲斐が私にとって重要、そう思っていた。
だから「3歳年下」という時点で「きっと私がガッツリ仕事して話聞いてもらいたい時とか、身も心も全部を預けられる感じじゃないんだろうな」とパートナーの対象から外していたはずなのだ。
 
そして私は自他ともに認めるバリキャリ女子だ。とくに彼と出会う直前の3年間は、丸1日仕事を休んだ記憶が年に5日ほどしかない。それほど「仕事が何より大事」だった。
だから「上昇志向なし」なんてもってのほか。仕事も人生も一緒に高め合っていける関係をパートナーには求めていたし、それが正解だと信じて疑わなかった。
 
なのに彼は、私の夫となった。
 
夫は外で椅子に座る時、それ以降もかならずハンカチを敷いてくれた。
 
夫は私が仕事で疲れたりうまくいかなくて苦しんでいる時、なにも聞かずに「そっか。疲れたよな」と言ってやさしく抱きしめてくれた。
 
夫は私が体調を崩して寝込んだとき、平日の遅くに仕事を終えて家に来てくれ、寝ている私にやさしく「ゆっくり休んでね」とずっと頭を撫でてくれた。
 
どんな時も私が心地よく、自分らしくいられるよう大切に接してくれた。
 
いちばん嬉しかったのは、結婚前提のお付き合いの申し込んでくれたとき。
「あなたの仕事を第一優先に考えてもらってかまわない。自分が専業主夫になるっていう選択肢だって、状況によってはアリだと思っているよ」と言ってくれたことだ。
 
人生を懸けて転職をして、ハードな毎日を送っていた。クライアントの人生に深くかかわるとても責任の重い職業で、必要とされれば、親の死に目よりも優先する、そのくらいにのめり込んでいた私にとって、自分のいちばん大事な価値観を尊重してくれたことが、なにより嬉しかった。
 
「そこまで言ってくれる人、なかなかいないよ。本当に、あなたにぴったりの人に出会えたね」たくさんの友人にそう言われた。
 
彼は私にとって、世界でいちばん大切でかけがえのない存在となった。
 
タバコを吸うからNG?
いや、そんなの二の次なのだ。これからいつだって辞めるチャンスはある。
 
年下? 昭和と平成で生まれた時代が違う? そんなのどうでもいい。大切なのは、生きてきた年数でも学年でもない。人として積み重ねてきたものの厚みや深さだ。
 
上昇志向がない? だからこそ彼は、私のいちばん大事な仕事を尊重してくれたのだ。むしろこれは、喜んで!! な状態である。
 
気づけば当初抱いていた第一印象など、すっかりどうでもよくなっていたのだ。
 
よくよく考えれば、出会って1〜2回、たった数時間で見えてくるものなんて、本当にその人の一部でしかない。たしかに「人は見た目が9割」というものだし、第一印象やインスピレーションはなかなかそのあと覆らない、なんてことはよく言われる。
 
でも、もし私が夫のことを第一印象だけで「ないわ」とシャットアウトしていたら、と考えるとぞっとする。
 
同時に、私はこれまでの人生において、恋愛に限らず目の前の人を最初の印象からほんの一部の要素だけで「私とは合わない」と決め付けていたのかもしれない。むしろ誰よりも私自身が、自分が一番求めていたものを全くわかっていなかったとも言える。
 
鳥肌モノである。大反省である。
 
これまで、私はどれだけの人の表面的な部分しか見えていなかったんだろう。
私の偏った固定観念や、色眼鏡を通じてその人を決め付けていたんだろう、と。
 
よく考えれば自分だって、初対面の人に自分の良さを100%伝えられる自信があるかといえば、まったくない。むしろ、そこに男女の恋や愛が絡むとなったら、なおさらだ。相手によく見られたいと思うし、嫌われたくないスイッチが少なからず発動する。そんな状態で本来の自分の良さなど、自然に出せるわけがないのだ。
 
第一印象は大切。
でも、人はもっと多面的で、深みがあって、味のある存在である。
 
「うわ、なんかこの人合わなそう」
 
今後またこのスイッチが発動しそうになった時には、左手の薬指を見て、さらにお尻の暖かさを感じて。夫が教えてくれた大切なこの教訓を思い浮かべるようにしていこう。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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