メディアグランプリ

はさみを持ったエンターテイナー


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:佐々木 慶(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「佐々木さん、髪めっちゃ伸びましたね。切らないんですか?」
ある日、職場の後輩がそんなことを言ってきた。
彼は人の見た目の変化に敏感なほうではない。
私がめがねを変えたり、かばんを変えたりしたことがあっても、今までそんなことを言われたことは一度もなかった。
そんな彼が髪の毛のことを言ってきたのだ。よっぽどのことなんだろう。
すぐに、洗面所の鏡の前まで走った。
 
たしかに、伸びていた。
前髪は目にかかるくらい長くなっていた。
どうりで最近、視界が悪いわけだ。
頭のてっぺんから首のあたりまで、顔の輪郭を覆い隠すほど真っ黒な髪の毛が存在感を出している。
まるで、黒いヘルメットをかぶっているようだった。
むしろ、これ以上、伸ばしっぱなしにしていると、だらしなく感じるような長さにすら、感じてきた。
 
というわけで、さっそく、仕事終わりに行きつけの美容院に予約の電話。
その美容院では担当してほしい美容師を指名する制度がある。
私はこの制度を利用して、いつも同じ美容師を指名し、髪の毛を切ってもらっていた。
今回もいつもの美容師に髪を切ってもらうつもりでいた。
しかし、予想外の答えが返ってきた。
「すいません、その日は彼がどうしても予定が入っていて難しいんですよ。他の担当者のご希望はありますか?」
お、どうしよう? いつも頼んでいる人以外、誰がいいなんて分からないしな……。
迷ったあげく、「希望の担当者なし」でお願いすることに。
 
あれ? どうしたんだろう?
電話を切った後、なんだか急に緊張してきたのだ。
いつもの美容師が担当だったら、こんなことはなかっただろう。
その美容院にはかれこれ8年ほど通っているが、その間、髪の毛を切ってくれる人はいつも同じ美容師だった。
長年の経験から、彼も、そして私もお互いにどんなジャンルの話に興味があるかをよく知っていた。
だから、私は気兼ねなく散髪中の会話を楽しめていた。
 
しかし、今回は状況が違う。
担当の美容師に会うのは初めてだから、どんな話題を振ってくるか分からない。
これでは緊張しないはずがない。
正直、髪の毛を切るのを延期しようとも考えた。
とはいえ、これ以上髪の毛を切らないと私の見た目はひどいことになってしまう。
結局、美容院に行くことにした。
 
いよいよ髪の毛を切るその日がやってきた。
恐る恐る店内へ入る。
「いらっしゃいませ。こちらでお待ちください」
受付のスタッフに直接、座席に通され、担当の美容師が来るのを待った。
実際に待っていたのは数分だった。しかし、その時間が何時間にも感じられた。
しばらくすると、担当の美容師がやってきた。
とても穏やかそうな女性だった。
これなら、いきなり分からないジャンルについて振られることもなさそうだな。
まずは安心した。
 
そして、散髪が始まった。
「今日はどんな髪形になさいますか?」
さっそく話かけられた。
しかし、髪形については来る前に既に考えていたので、なんなく答えられた。
そこからはこの美容院にいつから来ているのか、出身や趣味など、いろいろと話を振られたが、不思議と緊張しなかった。
彼女は私が聞かれたことに答えても、すぐに質問返しをしてこなかったのだ。
私が答えた内容を受けてから、必ず彼女自身の情報を付け加えて私に返して来た。
そのせいだろうか、私だけ質問攻めされてるような感じを抱かなかった。
適度な質問。
適度な間の取り方。
適度な個人情報の開示。
それらがうまく混ざり合って、むしろ、話していて心地よく感じた。
あんなに緊張していたのが嘘のように思えた。
だから、あんなことを言われるなんて思いもしなかった。
 
散髪もいよいよ終盤に差しかかった頃だった。
担当の美容師がこんなことを言ってきた。
「佐々木さん、頭皮がちょっと赤いですね」
え? 一瞬、私の中の時が止まった。
そんなこと気付きもしなかった。頭皮が赤い? どういうこと?
混乱して戸惑っていたら、続けてこんなことを言ってきた。
「もしかして、頭をよく掻いたりしてませんか? 掻きすぎてしまうと、頭皮が炎症を起こして脱毛の原因になる可能性があるから注意してくださいね」
「ちなみに、頭皮の健康には適度な睡眠とストレスをため込まないことがとても大事なんですよ」
それから、彼女は頭皮を傷つけない洗髪の仕方など、頭皮と髪の毛のケアの仕方について、いろいろ教えてくれた。
 
たしかに、言われてみれば思い当たる節はあった。
最近、スマホゲームにハマって遅くまで夜更かししてしまうことも多々あったし、仕事の関係でストレスをため込むことも多かった。
実際、気付いたら頭を掻いているということがよくあった。
 
この美容師と会うのは初めてだったから、彼女は私の普段の行動を知るはずもない。
にも関わらず、私の頭を一目見ただけで異常に気付き、アドバイスしてくれた。
コミュニケーション能力の高さといい、プロの凄みを感じた。
 
ただ、それは彼女だけには限らないだろう。
客の言動から相手がどんな話題を求めているかを考え、的確な話題を振りつつ、適度なタイミングで会話のキャッチボールを行う。
頭皮や髪の毛の状態から、適切な対処法を考え、提案する。
美容師は、どんな状況にも対応し、お客を喜ばせてくれる、まさにエンターテイナーだ。
 
そんな風を考えるようになったら、美容院通いが前より楽しくなった。
頭が軽くなるから爽快感も得られるし、さらに心地よさも得られることができるなって、最高じゃないか美容院。
だんだん、髪の毛も伸びてきた。
次は、いつ美容院に行こうかな。
今から楽しみで仕方がない。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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