原風景を、残していきたい
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:なべたけいこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「ねえ、一緒に農業やらない?」
先日、講座で知り合ったばかりの女友達に声をかけられた。
「ああ、うん、いいよ」
私は、二つ返事で答えていた。
どうやら彼女は、仲間同士で耕作放棄地を借りて援農活動をしているらしい。
面白そうだ、と思った。そして、私は多分できるだろうと、謎の自信があった。
次回の活動日を聞いて、参加することになった。
土曜の朝7時。横浜の外れにある、駅前ロータリーに集合した。
ここでリーダーと呼ばれる人が、挨拶をしてきた。いかにも営業職っぽい、長身で人当たりのいい、黒縁メガネの男性だ。
リーダーの運転する黒いファミリーカーに乗り込んで、早速出発した。
私の他にもメンバーと思われる男女が数人いた。同世代の20代後半から30代だろうか。彼らは、自分と同じ、普段は東京で働く会社員だった。
リーダーと私を誘った女友達は、某メーカーの営業職の同僚だった。このメーカーでは、社員向けのプロジェクトとして、耕作放棄地の再生活動を行なっているらしい。その関連で数年前にリーダーが農家さんと知り合い、『君もやってみる?』と意気投合し、この団体を結成。現在は、月1、2回のペースで東京から農作業をしにきているそうだ。
車の中では、早々に自己紹介を済ませて、今こんな仕事をしているとか、将来何をやりたいかとかで盛り上がった。大人になってから、仕事以外で新しい友達ができることなんて、そう多くない。普段話すことのない、家と会社の往復だけでは出会うことのなかった同性代の人たちとの話は楽しくて仕方がなかった。
その間も、車は高速を西へ進む。サービスエリアに立ち寄り、釜揚げしらす丼と味噌汁を頂く。レストランから出ると富士山が正面にくっきり見えた。最高の休日の始まりじゃないか。目的地までは、あと少しだ。少し走ってから高速を降りると山道に入る。だんだん山が深くなり、道が細くなる。急坂を上がり、トンネルを抜けた先に広がっていたのは、小さな田舎の集落だった。日本の原風景のような、山並みが広がっている。赤い鳥居のある祠の前で、車が止まった。
「着いたよ」
そこは、山梨県身延町にある古民家だった。
ヤギがこちらに向かって鳴いている。素敵なお出迎えだ。荷物を持って坂を上がると、お世話になる農家さんの家があった。早速、作業着に着替えて、作業の説明が始まった。
この日の作業は、田植え。機械を使わず、ひとつひとつ手で植えていくとのことだ。
近くにある農場に移動して、田んぼに足を入れる。冷たい泥の感触がまとわりつく。なんとも言えない感触が、気持ちがいい。味わいたかった、非日常がここにあった。今日出会った仲間と協力しながら、苗で田んぼを埋めていく。都会で溜まった真っ黒なものが浄化されて、心地よい疲労感と達成感で満たされていくようだった作業の終わりには、近くの温泉で汗を流し、仲間たちとともに帰路に就いた。
この日以来、私はこの活動にハマってしまった。当時の私は、コンサルタントの仕事をしていて、とにかく目まぐるしい日々を過ごしていた。休日に都会の喧騒から離れ、自然の中で作業に熱中するのが、何よりもストレス解消だった。『誰かの役に立っている』ということも、どことなく気分のいいものだった。
当初、『農学部卒だから』という理由で女友達から声をかけられたのだが、実際の農業は知らないことだらけだった。
当然のことではあるが、天候不順が続けば収量が落ちてしまうし、放置したら農地はあっという間に雑草で覆われてしまうことを目の当たりにした。都会では考えられない、動物による被害もあった。収穫を心待ちにしていた大豆を、収穫直前に鹿に食われてしまったことは1度や2度ではなかった。でも別の見方をすれば、自然の恵みによって、自分たちが生きているようにも感じることができた。自然の力をうまく活用して、恵みをいただく、それが農業なのではないか。そう思うと、収穫したお米一粒一粒がとてもありがたいものに感じた。
活動に参加していく中で感じた変化もあった。外から町に人が入ることで、地域の人たちの意識が変わっていったことだ。東京から農業をしにきたと言うと、初めは『変わった奴らだな』と不思議に思われることが多かった。でも何年も訪問しているうちに、私たちが来ることを心待ちにしてくれる人や、一緒にやろうと言ってくれる人が、ありがたいことに増えていった。一番嬉しかったことは、過疎が進んだ影響で行われなくなった夏祭りが復活したことだ。夏祭りは、近隣の町の人々が集まるお祭りになっていった。地域に人が集まり、活気が出ることは、何よりも嬉しかった。
一方で、集落の過疎化は深刻だった。ある農作業の日、農家さんが畑の周りにある家の方を指差し、「あそこは空き家。あそこも、あそこも。」と言った。集落の半分以上が空き家だった。畑の近くに、老夫婦が営んでいた小さなガソリンスタンドがあり、農作業中に時々トイレを借りていたのだが、数年後に廃業してしまった。町の若い人は都会に出て行き、お年寄りだけが残り、最終的に家だけが残る、という現実があった。
私たちの活動は、ただの『援農支援』から一歩先に進むときに来ている。
正直なところ、何をすべきなのか、何が役立つことなのか、まだわからない。でも、東京と身延町の人々のつながりを生かして、できることを考えて、行動していきたい。農業を通じて楽しませてくれた身延町に恩返しをしていくことで、『第二のふるさと』をこの先も残していきたいと、私は思っている。
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