電車内でのおばちゃんと青年
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ヒラタマリコ(ライティング・ゼミ通信限定コース)
それはとても暑い8月の日だった。照りつける日差しは夕方になっても陰る事なく電車内は7割ぐらいの客の埋まりで、主要駅を過ぎても座る座席はありませんでした。私はその電車の始発駅から乗車していたので、座席にどかりと深く腰を沈めていた。
生まれつき私は股関節が弱いので「何が何でも座らせて!」という心の声は常日頃からあるのだが、見た目はさほど老齢でもない中年期なので、ご高齢の人をかき分けてまでは座席に執着はしていない。今日は座れてラッキーだったなと思いつつ、なんとなく電車に揺られている時の出来事だ。私の乗車した次の駅から割と若い青年が私の隣に着席した。
数分後、すぐにパッと席を立ったので「私の横が嫌だったのかな、もしかして汗臭かった?」などと思い、少し悲しい気持ちになり掛けていたのだけども、その青年は先ほどの駅で扉が閉まる寸前に入ってきた、高齢の杖を持っていた女性に声をかけ、自分が座っていた座席を譲るために声をかけていた。
私は、全くその高齢の女性に気がついておらず、その女性の前には数名席を譲っても良いのではないか?と思われる若いサラリーマン風の男性が数名いたのだが、席を譲る気配を全く見せず、わざと目をその女性からそらしていたように私は感じた。
声をかけられた女性は「まぁ、わざわざ離れたところから来てくれたのね、ありがとう!」と礼を言い、そそくさと着席した。さり気なく声をかける姿、それだけでもこの青年の人の良さを感じることができて、ここまではお読みいただいている皆さんの日常でもよくある光景なのではないのかと思う。
でも、この話には続きがあり、この高齢の女性は席に着きほっとした安堵の表情を見せたのもつかの間、少し離れて車内で立っている先ほどの青年に向かって「お兄ちゃん、本当にありがとね!」と大きな声で感謝を述べた。それから、自分が持っていたスーパーの白いビニール袋をガサガサ言わせ、中から赤いパッケージのチップスターを取り出して「お兄ちゃん、これ食べやぁ!」とまたもや車内に響き渡る声で言い放ったのである。
その声を聞いた人たちは、言うまでもなく一斉にドア付近にいた青年に視線を向けた。
車内の興味深々な視線を浴びてしまったその青年は、耳まで真っ赤にして「いいえ、結構です」と恥ずかしそうに答えた。
そのまま、電車は数駅走り続け、先ほどの女性の隣の席である私の降車駅となったために私が席を離れると「お兄ちゃん! この席あいたよ! こちらにおいで!」とまたもや車内に大きな声を出して青年に声をかけたのだ。今度はその青年は耳まで赤くはなっていなかった。
そして、女性に言われるまま照れながら青年は私が座っていた席に座り、先ほどのチップスターを受け取っていた。私が立ち上がってから最寄駅で降りるまでの数分間、車内はそのやり取りを聞いていた全ての人たちの気持ちを解したようで、ありえないほどの幸せな空気感に車内が満ち溢れていた。
通常は帰宅前のダレた感じの車内なのだが、その年配女性と青年のおかげで、その車両だけは、スピリチュアル的な界隈の人たちが使う表現で言うのならば、波動やバイブレーションの数値が測定したらとても高い数値だったのではないだろうか。
そして、私はその幸せの波動に満ちた車両を降りると、間もなく電車は緩やかにレールの上を車輪が滑りだした。にっこりと微笑んだ年配の女性と青年の笑顔を乗せながら。
その電車が私の視界から消えるまで私はその場に立ち止まりながら、日常に散らばっている幸せは、この年配女性のようにいつまでも無垢で素直な心を持つ人によって表現され、周囲に分かち合っていくのかもしれない。
ただ私たちは、日頃の忙しさを理由に本来の自分を省みることを忘れ、この純真な気持ちをどこかに置き去りにはしていないだろうか。これを長いこと忘れてしまっていると、次第にやる気や活力がなくなっていき、笑ったり冗談を言う気持ちまで失ってしまう。そして最終的には病気になってしまったり、心病んでしまう要因ともなる。
純粋無垢な人を見た時、自分の精神バランスを測るのにはとても適したタイミングとなる。
その人物に苛立ちを感じてしまう時はイエローカード。怒鳴ってしまうようならレッドカードだ。
私がいた車両にはこの二つのカードを持っている人たちは皆無だったので、車内はとても穏やかな空気に満ちあふれ、そのバイブレーションを私も十分に感じとることで、幸せな感覚を覚えることができたのだ。
自分もまだまだ心は健全だなと感じつつ、足早に改札を出て微笑みながら私は家路を急いだ。
***
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