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まだ見ぬ息子への手紙「アントニオ猪木はピーマンだ」


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記事:武内大輔(ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
 
 
息子へ
 
お前はまだ生まれてないよな? 当然だ。
なぜならこの手紙を書いている父さんにはまだ妻もいないし子供もいないからだ。
ではなぜ生まれてもいない息子に手紙を書こうと思ったのか?
父さんには心配事があるんだ。
息子のお前に対して何も注文はつけない。
好きなことをやって好きに生きて欲しいと思っているよ。
ただ父さんにはひとつだけ心配事があるんだ。
父さんは「しゃくれ」てるんだ。
これは遺伝による影響が強い。
だから息子のお前がしゃくれてしまわないか心配なんだ。
父さんはしゃくれがコンプレックスだった。
父さんはしゃくれについて色々考えてきたからお前に手紙で伝えようと思う。
 
しゃくれをコンプレックスとして自覚したのは中学生だったな。
この頃は容姿がちょっとでも違ったりするといじられる対象になるんだ。
父さん、アントニオ猪木って呼ばれてたんだ。
アントニオ猪木、知ってるか?
「1、2、3、ダァーッ」って言うだけの芸人みたいな人だが、
昔は相当有名なプロレスラーだったんだ。
猪木はアゴがでかい。
だから、父さんも、猪木っていじられたよ。
心底イヤだったよ。
テレビで猪木が出てくるのもイヤだったな。
こんなアゴしてなければいじられることなかったのに、って思ってた。
 
中学生は辛い思い出だらけだったんだが、ちょっと印象深い人がいてな。
父さんの1つ年上でサッカー部主将だったSさんだ。
実は、Sさんもしゃくれてた。
でも、Sさんはいつも明るかったよ。
しゃくれてるのに、サッカー部を率いるリーダーシップがあって、いつも笑っているイメージだった。
父さんは野球部に入っていたからサッカー部の隣で練習してた。
それでSさんに見つかると必ず呼ばれるんだ。
何かというと握手を求められるんだよ。
Sさんはその握手を「夢の共演」と呼んでた。
父さんがアントニオ猪木、Sさんがジャイアント馬場という役回りで握手させられるんだ。
ジャイアント馬場、知ってるか?
昔、猪木と馬場はプロレス界の二大スターだったらしいぞ。
その2人が握手するから「夢の共演」だそうだ。
しゃくれが2人並んで握手してたら周りの人はおかしいだろうな。
サッカー部の人に大笑いされたよ。父さんは心底イヤだったよ。
アントニオ猪木と言われ、あまり知らないサッカー部の人に笑われるんだ。
何が「夢の共演」だよ。
Sさんに対しても違和感を持ってたんだ。
しゃくれて笑われてるのになんで嬉しそうなんだよ。悔しくないのか。
 
高校生や大学生にもなると、容姿でいじってくる人はほとんどいなくなった。
でも父さんは自分に自信が持てなかったよ。
いじられた記憶は残っているし、何やっても「しゃくれのくせに」と思われているんじゃないかと不安だった。
彼女を作ることもなかったな。
作る努力をする気にもならなかった。
「どうせしゃくれてる俺なんて」って思っちゃうもんな。
仮に結婚して父さんみたいなしゃくれの息子が出来たら不幸になるって本気で思ってたからな。
それでも働き始めたらこのままじゃダメだと思って、街コン行ったりマッチングアプリを始めたりしたよ。
まあこんな父さんでも彼女を作ることができたよ。
 
正直言うと、コンプレックスは未だにあるんだ。
でも考え方が変わってきたところはある。
アゴが出てるとか容姿に特徴があるってことは人に覚えられやすいんだな。
だから、父さん最近はいじられるのを嫌がらない努力をしているよ。
実際、昔の記憶が蘇ってぎこちない反応になることはあるんだけどな。
自分のコンプレックスを武器に変えることにしたんだ。
ここまできてSさんのことを思い出したんだ。
当時はしゃくれてるのになんで笑ってるんだよと違和感しかなかった。
けれどSさんはしゃくれをコンプレックスでなく、武器にしていたんだな。
持って生まれたものは仕方ない。
だったらそれで周りを笑わせてやろうという気持ちだったんだろう。
 
父さんな、最近アントニオ猪木の本を読んでるんだよ。
笑っちゃうよな。
顔を見るのもイヤだったのにその顔が表紙の本を読んでるんだ。
今でこそアゴがトレードマークの猪木だが、彼も子供の時はコンプレックスだったそうだよ。
でもな、猪木のアゴはプロレスという格闘技において弱点とされているノドを守ることができるんだ。
猪木もコンプレックスを武器としていたんだな。
父さん、最近は猪木のツイッターもフォローしてるんだ。あんなにイヤだったのに不思議なもんだな。
 
お前に言いたいのは、アントニオ猪木はピーマンだってことだ。
子どものころは苦くて嫌いでも、
大人になって苦みの良さがわかってくるようなもんだと思う。
コンプレックスもそうだな。
イヤだと思っていたものがもしかして武器になるかもしれない。
最近はアゴをトレードマークにした芸人やYouTuberもいるぞ。
でもな、父さんはコンプレックスと無理に付き合わなくても良いと思ってる。
お前がしゃくれたら、整形しても良いと思うぞ。
そのためのお金は、出してやりたい。
父さんと同じ苦労をすることはないよ。
ピーマンを無理に食べなくてもいい。
でも、もし食べざるを得ない状況になったら。
Sさんやアントニオ猪木のように強く生きて欲しいと思う。
辛くて誰にも相談できない悩みかもしれないが、諦めずに生きて欲しい。
アントニオ猪木の言葉で好きな言葉があるんだ。
「馬鹿になれ!」っていう言葉だ。
父さんには「しゃくれなんて気にせず生きろ!」と聞こえるんだ。
息子のお前には好きなことをやって好きに生きて欲しいと思う。
つまんないことを気にして人生を無駄にするなよ。
それでも悩んだら父さんに相談してくれ。
一緒に何ができるか考えよう。
 
父さんより
 
 
 
 
***

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2020-07-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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