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少年A 〜加害者になりかけた小学3年生〜


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記事:東方小百合(とうぼう さゆり)(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
ある日、一通の手紙が届いた。
 
「裁判にしようと思うので、そちらも弁護士を用意したほうがいいと思います」
 
大きなお世話だ。 と今なら、思えるが、その時は、全身凍りついた。
 
その手紙には、自分達が、被害者だということが、つらつらと書かれていた。
思い出したくもない過去の出来事だ。
 
13年前のことだ。
長男が小学校3年生の時、クラスメイトの女子と揉めたのだ。
その子の親御さんからの訴えだった。
 
よくある子供同士のトラブルだと認識だった。もちろん、長男の悪いところは、認め、誠意を持って、謝罪もした。
 
その女の子とは、小学校入学前の3月に児童館で知り合った。4月の入学に間に合うように、引っ越しをしてきたばかりとのことだった。
 
子供同士は、同じ小学校、同じ学年、同じ登校班と偶然にも同じが重なった。
 
私は、引越しの経験がないので、知らない土地へ来ることが、どんなことか分からないが、きっと何も知らない土地での子育ては、大変だろうとは、想像がついた。
なので、私は、出来る限り親切にしたのだ。
のちにそれが仇になるともの知らずに。
 
子供同士のトラブルが、学校で起きたときは、学校を通すこと。
これは、今、後輩ママには、必ず伝えている。
 
当事者同士で、やり取りをすると、感情が入り、被害者意識が加速する恐れがあるからだ。
 
実際、私は、顔見知りということもあり、直接のやり取りをしてしまった。
 
先方のお母さんは、「お互いの子供が仲良く過ごせることが、大切ですよね。それを親として、一番願っています」と、言ってくれていた。こちらへの気遣いも忘れていなかった。
 
しかし、しばらくすると、小学校から連絡が入る。
 
学校にクレームに近い相談が入ったそうだ。
 
「娘は、本当は、学校に行きたいのに、東方くんがいると、怖くて行けない」「色々苦しんでいて、家に独りにすると自殺してしまうのではないかと心配で、外出も出来ない」
 
後に、彼女が、学校生活を快適に送るためのルールまで、出来たのだ。
 
一方、長男の学校生活はというと、制限ばかりになった。
長男は、元気に過ごすことを制限されたのだ。
 
そんな中、保護者会があった。
 
先方のお母さんが、突然言い出した。言おうと用意していたようだ。
 
「今、娘が、辛い思いをしています。なんでこんなことになったのか、学校側から説明してください。なぜ被害者の娘が学校に行けてないのに、加害者の男の子は、元気に過ごしているのか?娘が可哀相です」と、そこにいる保護者を巻き込んだのだ。
私が、槍玉に挙がったのだ。正直びっくりした。それは、個人的に話をしている中では、和解していると思っていたからだ。
 
それからも、何回か手紙が来たり、父親が我が家に乗り込んで来たりと、同じ状況が続いた。
さすがの私も精神的にダメージを受けていた。人と会うのが、怖くなり、外に出たくなくなった。
 
更にダメージは、続くのだ。
 
校長先生からのお願いという名目で、呼び出しがかかる。
 
通常、3年生から4年生になる時は、クラス替えがないが、長男だけ2組から1組に変わって欲しいという、学校からの申し出だ。
 
苦渋の選択を強いられる。
私と夫は、全力で長男を守る為、このことに向き合った。
私たちは、感情的に物事を進める先方と同じ土俵に上がらないことを選択したのだ。
 
長男を守る為、長男の学校生活を守る為、学校からの申し出、つまり先方からの言い分を受け入れたのだ。
 
4月7日、校庭での始業式。4年1組の列に長男は、並んでいる。遠くから、見守っていたあの日を私は、忘れもしない。
私の横を何人も人が通る中、嗚咽がこみ上げてきて、顔はぐちゃぐちゃだったことだろう。涙で全校生徒の中から、長男を探すことが、大変だったのを悲しい記憶として、鮮明に覚えている。
 
こんな時、親は、無力だ。長男の小さな世界を長男が作り上げていくことを願うばかりである。
 
現在、長男は、23歳になっている。このことが、今の長男にどう影響しているかは、分からない。この時の長男の気持ちを私は、聞いたことがない。もしかしたら、長男でなく、私のトラウマ、嫌な思い出として、記憶の中に居続けているのかもしれない。
 
この時、親として、弁護士を用意して、裁判で戦うことをしなかったことは、正しい選択だった。
ただ、長男の心に寄り添えていたかは、分からない。
 
将来、長男が親になったとき、このことについて話す機会があるかも知れない。その時は、「頑張ったね。乗り越えてくれてありがとう」だけ、伝えたいと思っている。長男には、希望しか見えていなかったのかも知れない。
 
親が正しい態度でいれば、いいのだ。
誰一人、私たち家族を責めた人がいなかったことが、何より私たちは、間違ってなかったという、証明ではないか?
 
私は、未だにこのことを思い出すと胸が張り裂けそうになる。子供同士のトラブルに必要以上に入って、裁判沙汰にしようとしたことは、ある意味、罪だ。
大ごとにしてしまった罪は、許されるのか?
 
親が子供の守り方を間違えると、子供の自律を妨げる加害者になりかねない。子供を被害者にしないような守り方が大切だと思っている。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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