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失敗は10年寝かすと宝物。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:いじち ようこ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「キャッ、キャッ! 歩きはじめの赤ちゃんて、こんな風に手を上げて歩くよね」
久しぶりに、姪・甥っ子と会えて嬉しい私は、相当はしゃいでいた。
 
我が家には子供がいないので、彼らのことが可愛くて仕方がない。
 
冬枯れの遊歩道、手をヒラヒラ頭の上に上げ、ふざけながら2人を追いかける。
身軽な彼らには、とても追いつかないが。
 
それは、ずいぶん前のお正月休みのこと。
いまは高校生になっている2人が、まだ小学低学年のころの話だ。
実家近くの公園へ遊びに行く途中にそれは起きたのだった。
 
「ぎゃあーーー!!!!!」
手を上に揺らしたまま、木の根っこにつまずいて顔から転んだのは……
私だった。
 
すぐに頬骨あたりに激痛が走る……これは血が出ているに違いない。
マズい。
しかもメガネ。割れたのか?
その土地に不慣れな子供2人に大人は私1人だけ。
さぁ、どうしよう。
 
さてあなたは失敗、もしくは小さな事故のようなことが起きたとき、
どんな気分になるだろうか?
あの「やってしまった……」というゾワッとする感じ、いつまで経っても慣れないものだ。
できたら、失敗なんてしたくない。
 
けれどもどんな失敗も、時を経て振り返ってみると。
当時のイヤな気分は消え、それどころか笑えるようになっているから不思議だ。
その場にいたメンバーと、話すと確実に盛り上がることができる。
もっと他に、美しいエピソードもあっただろうに。
そう、失敗が含まれるエピソードのほうが、断然クッキリと記憶に残りやすい。
そして寝かせると、宝物のような思い出に変わるのだ。
私の場合は10年近くたったぐらい、が笑いに変えられる分岐点だと感じている。
 
さて冒頭の転んだ話に戻りたい。
うずくまって顔を押さえる私を、心配そうに覗き込んでくれたのは、姪っ子だった。
「大丈夫? 見せて!」
 
どんどんズキズキ痛くなってくる。
どうしよう。手を離すのが怖くて、携帯を取り出すこともできない。
 
姪より1歳の年下の甥の方は、「ぼく、知〜らない!」とそっぽを向いている。
「それより遊びに行こうよー」
 
……行かせてあげたいけど、この土地に不慣れな2人だけにして、わたしだけ帰る訳にはいかない。
 
「うぅ、ごめん、一回家へ帰ろう」と私。
まだずいぶん背が低かった姪っ子が、立たせてくれた。
「うん、帰ろう。ね、いいからケガ見せて」
 
姪、怖くないんだろうか。
この子は将来看護師さんになるんじゃないか……なんてヘンな油断でうっかり手を離す私。
 
「……どう?」
その時の引きつった姪っ子の顔ったら。
「う、うん、そんなにひどくないかな」 明らかに空気を読んだ返事だった。
……あぁ、トラウマにさせたらどうしよう。
 
甥っ子はというと、離れたところで「えー帰るのー」とブーたれている。
ごめんね。きっと怖さと照れかくしが混ざった気持ちなんだろう。
あちこちズキズキ痛む中で、そんなことを思った。
 
ヨロヨロと歩き、ようやく家にたどり着くと、
「ようこ、転んだよーーーっ」
甥っ子が先に家に入り、大声で大人チームに知らせてくれる。
 
メガネは割れていなかったが大きく傾き、頬骨あたりをひどく擦りむいて流血していた。
ダウンコートの肩が破れて羽が飛び出ている。
母や妹たちの連携で、あっという間に病院へ連れて行ってもらえた。
 
幸いなことに応急処置が良かったらしく、いまでは傷はすっかり消えている。
しかし、情けない。できたらもう繰り返したくない経験だ。
 
けれども、この話。
その後、姪・甥っ子と会うたびに、挨拶のように話せるエピソードになったのだから
「もうけもの」だ。
 
「あの時、本当は怖かったけど、可哀想だったんだもん」
「笑っちゃいけないって我慢したよ」と姪。
「小学生にコワイキズ見せちゃってごめんね」と私。
「調子に乗ってたら、またあん時みたいにコケるよ」と甥。
「ひどかったよね、姪〇〇は助けてくれたのに、甥◇◇は見捨てて遊ぼうとしてたもんねー」と私。
「そうそう、ひどかったー」とまた姪。
 
こんな風に、いつも同じ流れで、あの緊迫した状況を思い出して笑い合う。
3人だけが知る、共通の記憶だ。
 
もうとっくに背は越され、口数が減る思春期に入っても、
一緒に笑い合える、架け橋のようなエピソードとなった。
 
きっとこの先、彼らがおばさんおじさん、私がおばあさんになっても、
笑い合えるのではないか? と密かに思っている。
 
この失敗が無ければ、
普通に公園で遊んでいただけだったら、
残念ながら、あの日のことは記憶に残っていないだろう。
 
だが、むしろこの失敗のおかげで。
私よりずっと背が小さくて、
声がキンキン高くて、
今では絶対着ないであろう、カラフルなスカイブルーやグリーンのダウンコートを着て、
真冬でも、それが暑くて脱いでしまうほど、ずーっと遊び続けていた、
あの日の2人の小さな姿をリアルに思い出すことができる。
そして、いつでも私を幸せな気持ちにさせてくれるのだ。
 
だから「失敗は10年寝かすと宝物」説、ぜひオススメしたい。
 
もしちょうど今、
ミスを叱られたり、
私と同じように怪我をしたり、と苦い思いをしている方がおられたら。
気まずさや、ケガは嫌なことだけど、
その場でできるフォローや治療を精一杯したら、どうか心を落ち着けてほしい。
 
10年ぐらい寝かせると、絶対笑える日が来るから。
むしろ愛しい「宝物」になるから。
 
思ったより10年はあっという間、その後に笑える日々の方がずっと長いはずだ。
 
これからも、老後にクスッと思い出し笑いできるような、
失敗という「宝物」を集めながら、守りに入らず生きていきたい。
 
この夏休み、ぜひあなたの「とっておき失敗談」を引っ張り出してきてほしい。
そして
大切な人たちと、思い切り笑い合うことをオススメする。
きっと「宝物だな」と感じてもらえること間違いなし、だ。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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