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メディアグランプリ

あれはまるで初孫のようだった


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:塚井 綾(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「ママー! みてみて! これ拾ってきたの」
買い物から帰ってドアを開けると、いつもどおり元気な声が響く。
4歳になる三男にとって、拾ってきたものは宝物だ。
はて、今日は一体ナニかしら。きれいな石かな? それとも葉っぱかな?
 
「えっ……これはちょっと……」
大抵のものはOKだが、これには難色を示さずにはいられなかった。
申し訳ないが、最後まで面倒をみられる自身がない。
しかし今回はなかなか三男がひかない。どうしても、というのに根負けして、しぶしぶ今日は家に置くことにした。
 
深夜のこと。
息子の部屋でカタカタ音がする。恐る恐るのぞいてみると、壁を引っ掻いている。どうやら深夜に高いところへ上るらしい。プラスチック製の壁なので、滑って登れないのだ。
その必死な姿を見てかわいそうになった。
 
「なんとか息子を説得して、翌朝逃してやろう。」
一緒に見ていた夫も同じ気持だったようだ。
 
そして翌朝。
夫の説得により、外へ逃がすことになった。といっても家の庭である。それでなんとか息子と折り合いがついたらしい。
「帰ってきたら、どうなってるかなー」
「そうだね、楽しみだね」
そんな会話をしながら、夫と息子は自転車で保育園へ出かけていった。
 
AM9:15
掃除や洗濯、夕飯の支度を済ませ、そろそろ私も出勤の時間だ。ノートパソコンの入った大きいカバンを持って玄関をあけた。
ふと、それがいた場所を見ると、いない。どこにもいない。
「どこ行った?!」
思わずカバンを地面において探す。
 
「あっ、こんなところに……」
それは玉砂利の上にいた。朝、息子がくっつけた網戸から落ちたのだ。
落ちた衝撃で体に傷がついていないか、近づいてよく見てみる。
「あれ? なんか背中が盛り上がっているような……」
次の瞬間、
 
メリメリッ
モリモリッ
 
背中から緑色のナニかが出てきた!
羽化が始まったのだ。
 
「えっ、えっ、いま?!」
思わずスマホで写真を撮る。
 
「すごい勢いで、出てきてる!」
LINEで夫に写真を送る。
 
「どわー」
夫からの返信、この反応は正しい。
それくらい衝撃的な映像だった。
 
これは息子にも見せたい。スマホをビデオに切り替えた。
身体を震わせて、必死に殻から出てくる。
本当だったら、爪を木の幹に引っかけて踏ん張って抜け出るはずだったろうに。
網戸では引っかかりが甘かったのか、落下してしまい、こんな踏ん張りの効かない玉砂利の上で、しかも真っ昼間に羽化が進んでいる。
なんとか手伝ってやりたいが触ったら身体が壊れてしまいそうだ。
「頑張れ! 頑張れ!」
応援することしかできない。
出産に立ち会うとこんな気持ちなのかもしれない。
 
身体が半分、出てきた。
羽がクルンと巻かれている。とても小さい。身体に対して、Dr.スランプ アラレちゃんの帽子に付いている羽くらいの比率だ。
 
お尻も、出てきた。
こっちも小さい。というか、尖っている。
 
「なんか、羽が小さい気がする。お尻もちっちゃくない?! 手でほぐしてあげたい」
「触らないで」
夫からの返信、これも正しい。
こういうときはそっとしておいた方がいい。
 
ふと時計を見ると、30分が経過していた。
まずい、会社に行く途中だった!
できれば最後まで見届けたいけれど、夫が調べたところまだまだ時間がかかるらしい。
 
「ハチや猫にやられるなよ。絶対に生き延びるんだよ」
最後まで側にいてやりたい気持ちを振り切って、その場を離れた。
 
PM6:30
「ちゃんと羽は伸びただろうか。天敵にやられることなく、飛び立てただろうか」
ちょっと小走りで家に向かった。
 
そこには何もなかった。
確かに、朝、ここに居たのに。
 
「どういうこと?!」
家に着くなり、息子たちを問い詰めた。
8歳の次男が2時過ぎに帰宅しているはずだ。その時どんな状態だったのか聞きたい。
 
「帰ってきたときは、外にいたよ」
「羽は? 羽はどんなだった? ちゃんと伸びてた?」
「うん、緑色だったけど伸びてたよ」
「そっか、よかった……。それで、その後はどうなったか知ってる?」
「プール教室に行くので家を出たときに見たら、居なくなってた」
 
5時間以上の時間をかけて羽を伸ばし、最後は大空へ飛び立っていったのだ。
きっとそうに違いない。飛び立つ姿を見られなかったのは残念だが、生きているならそれでいい。アブラゼミでもミンミンゼミでも、なんでもいい!
 
気付けば息子より私のほうが夢中になっていた。
うちの子供たちは三兄弟。もう一生、あの立ち会い出産のようなドキドキを味わうことはないだろう。たった一日しか一緒に過ごしていないけれど、まるで孫が産まれてすぐ会えなくなってしまったような、寂しい気持ちになった。
 
その晩テレビで、おばあちゃんが孫と初対面する、というシーンがあった。
私がそれをぼーっと見ていると、ふと長男がこんなことを言った。
「俺に孫ができたら、こんな風にママに合わせに行くからね」
「ありがとう。楽しみに待っているよ」
いつか本当に、そんな日が来ることを願っている。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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