あなたにとって、「豊かさ」とはなんですか?
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:まあすけ(ライティング・ゼミ通信限定コース)
「ふーん。じゃあ、あなたは世の中がどうなったら、豊かだと思います?」
「豊か、ですか?」
「そう。さっき豊か、っていう言葉、使ったじゃないですか。社会とか、あなたの生活がどんな状態であることが、あなたにとって豊かなんでしょうね?」
わたしは固まってしまった。
「えーと……」
「例えば、映画のシーンとかでもいいですよ。こんな風景、とかでもいいですし」
「えっと……そうですね。最近見たジブリの、ナウシカみたいな世界でしょうか……」
わたしはしどろもどろだった。
それは中途採用で応募した企業の、最終面接の質問だった。
個人的なスキルだとか、どんなキャリアパスを歩んでいきたいだとか、そう言った実務に繋がりそうな質問は一切なかった。
どうしてこの会社に入ろうと思ったのか。
それは、あなたが世の中をどんな風に変えていきたいと考えているからなのか。
まっすぐに、わたし自身の思想を問われる質問が続いた。
……ああ、そうか。
わたしがずっと探しているものはこれなのか。
「うん、全然足らないね」
面接が終了してすっとわたしの口を出た独り言は、なんの嘘偽りもない、負けを認める言葉だった。
ずっとなかなか思いきれずにいたところを、えいっ! と思い立って始めた転職活動。
まだ自分の中でやりたいことが明確化しきれていない感じはあったけれど、順調に進んだ企業も数社あったため、「こんなものだろう」と深くは考えずに転職活動を続けていた。
わたしが応募していたのは人事のポジションだった。
複数の企業の求人に応募したけれど、どの企業でもわたし自身の人事分野での経験や、今後人事の中でどのようにキャリアを積みたいのかといったことを問われた。
昔ながらの日本企業に身を置いているわたしは、「今とは違う組織に身を置きたい」という、ある種好奇心的な動機で転職活動を始めた。
だから割と幅広く、条件面などから考えてエントリーを進めていた。
良い条件の企業もたくさんあった。だけど数多ある企業の中で、何らかの「決め手」を持つ企業を見つけられずにいた。
そんな時に出会ったのが、このベンチャー企業だった。
その企業は「組織のあり方や働き方を変えていくことが、世の中の常識を変えていくうえで非常に重要」と言う考えのもと、コーポレート部門にもしっかりとクリエイティブな発想を求めていた。
同時にその企業は、学生の時から関心のあった自然環境保護や自然エネルギーに関する事業を展開していて、わたしなりに抱いていた社会に対する問題意識や使命感にも、今いる会社よりずっとダイレクトに関われると感じた。
すっかり魅せられたわたしは、この組織で働きたい! と勇んで選考を受けてきたのだった。
1次面接、2次面接は順調に進んだ。
途中、同世代の社員の方も紹介していただき、自分の価値観と企業風土をすり合わせる機会も複数回いただいた。
会う人会う人、なんとなく自分と似ている人たちの様に感じた。
この企業のメンバーになれるかもしれない!
そう思うとワクワクして寝られなかった。
しかしながら、最終面接に進み、いざ「どんな世の中を作りたいのか?」と問われたわたしは、自分の言葉で全く語ることができなかった。
面接官から質問を受けるたびに、わたしの頭の中にはてなマークがどんどん増えていく。
「わたしの理想と考える世の中づくりに貢献したい」、そう思っていたんじゃないんだっけ?
あれ、でもわたしの考える「理想」って、具体的に何なんだっけ?
その理想に向けて、日々の生活の中で大切にしていたことって、あったんだっけ?
わたしのことを語れるのはわたしだけ。
だから自分の想いのある部分ならいくらでも語れると思っていた。
しかしいざ向き合ってみると、全く言葉にならなかったのである。愕然とした。
この企業の描いている思想レベルに、わたしは全然足らない。
そこには清々しい敗北感があった。
同時に、転職活動の中で「決め手」を見つけきれていなかった理由も、その時すとん、とわたしの中に落ちてきた。
わたしはいつの間にか、仕事において理想を描いて努力するのではなく、現状の欠点ばかりを見つけるようになっていたのだ。
思えば転職活動の動機もそうだった。
「今いる会社の思想は、わたしの中では絶対に相容れない」
「会社の文化自体が、社員を型にはめ込む教育ばかりで全く共感できない」
「尊敬できる先輩がいない」
「上司の考え方も型にはまっていて、付き合っている時間がもったいない」
これまでのわたしは、口でたくさんの文句を並べていて、その文句を並べること自体にエネルギーを割いていた。
「わたしの考え方とは違う」
そう言っておきながら、周りを否定する行為に徹し、「自分はどうしたいのか」を発信することにエネルギーを割いていなかったのだ。
大切なのは、現状を否定することではなく、
自分のありたい姿を、自分の求める社会を、どうしたら実現できるのか。
それを深掘りすることであった。
問いの立て方が根本的に間違っていたことを、この面接を通じてやっと気づいたのだ。
もちろん、この企業には最終面接で不合格となった。
圧倒的な敗北感を感じた。
加えて、悔しい気持ち、考えが浅く恥ずかしい気持ち、いろんな気持ちが混ざってぐんと沈んだ。
だけれど、同時に「正しく打ちのめされた」という、清々しさと前向きさがあった。
もう一度、正しく問いを立て直そう。
そして自分の言葉で得たい未来を語れるようになろう。
その先に見えてきたものは、転職かもしれないし、全然違うものかもしれない。
と言うか、そんなことはどちらでもいいかもしれない。
そんな次元ではなく、むしろわたし自身の生きる姿勢自体が変われるのではないか。
もやもやとしていた、「わたしの探していたもの」が何なのか、漠然としていたところから焦点が定まってきたような気がした。
生きていく中で、私たちにはたくさんの「向き合うかどうかを選択できる問い」がある。
そのうちいくつかはそもそも問いであることに気がつかない場合もあるし、
問いであることを認識しながら無視をしてしまう場合もある。
だって向き合わなくても生きていけるのだ。
向き合うことはエネルギーがいるし、答えの出ないもどかしさと常に対面していなければならない。
そうやってわたしはいつの間にか、「世の中が/自分が、どう在りたいのか」という問いから目をそらしていた。
向き合うも向き合わないも、個人の自由だ。勝手に選択すればいい。
だけれど、向き合っている人に、向き合っている生き方に、少しでも近づきたいのなら、自分自身も向き合い続けるしかない。
そのことを強く感じた。
あなたにとって、「豊かさ」とはなんですか?
そう誰かに訊ねられた時には、いつでも胸を張って理想を語れる人でありたい。
そんな風に、問いといつまでも向き合い続けていける大人でいたい。
なんとなく、自分が「いいな」と感じているものからひとつひとつ理由を紐解いていこう。
そこには求める「豊かさ」に通ずるヒントがあるはずだ。
そしてその先に見つけた自分なりの正解に対して、働きかけていける生き方をしていきたい。
まだ理由は言語化できないけれど、それがわたしの在りたい姿だから。
***
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