絵本から飛び出した王子様はただの悪ガキだった
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絵本から飛び出した王子様はただの悪ガキだった
記事:古屋 美穂(ライティング・ゼミ平日コース)
これは今から40年程前の話である。
当時、私はまだ小学1年生だった。まだ何も知らない無垢な年頃である。大げさに言うと、この時の経験が今の私の大部分を形成したかもしれない。
それは、父の転勤に伴い小学校1年生の夏休みにある地へ居住地を移したことから始まる。
ギラギラと照り付ける太陽、真っ青な空に、エメラルドグリーンの海。道路沿いにはヤシの木がそびえ、赤や黄の鮮やかな花なども咲いていた。道路標識やお店の看板は英語日本語で書かれていたり、住宅も木造ではなくコンクリート製の建物が多かった。電車はなく、移動はバスか自家用車。道行く人も外国人や観光客が多い。ここはアメリカから日本に返還され数年しかたっていない南国の沖縄だ。
日本と琉球とアメリカが混ざった不思議な雰囲気があり、九州の田んぼだらけの田舎で生まれ育った私には何もかもが新鮮で興味深いものばかりだった。
転校初日、新しいクラスの教室の戸を開けると……。教室に座るクラスメイトの顔ぶれを見渡して私の緊張はマックスになった。元々、人見知りの私は顔を上げることもできず、ずっと下を向いたまま一日を過ごした。翌日、登校するとあまりの緊張に周りを見ていなかったせいか、教室がわからない。クラスメイトの顔もわからず、とりあえず席に着いた。しかし、そこは別のクラスで、穴があったら入りたいほど恥ずかしかった。失敗し泣いてしまった私を誰一人として馬鹿にすることはなく、優しく大丈夫だよと声を掛けてくれ本来のクラスに連れて行ってくれた。
クラスの子もみな優しく、馴染めるようになるまでには時間はかからなかった。特に記憶に残っているのは、絵本でみるような金髪碧眼の王子様のような男の子である。太陽の光を浴びキラキラと光る金色の髪に透き通るような白い肌、大きな瞳は吸い込まれそうにきれいな碧だった。はじめてみる異国の男の子は言語も英語だと思っていた。英語なんてさっぱりわからない私は声を掛けることさえできず距離を置いていた。会話が成り立つかわからず、怖かったのだ。しかし、その子は普通に沖縄訛りの日本語会話し、冗談を言いあい同じように遊び、なにひとつ私たちと変わりがなかった。
この男の子が特に記憶に残ったのは訳がある。
ある日、私が学校の階段を上っていると下から駆け上がってくる王子様。その王子様が起こした行動とは……。
「パンツーまる見えっ!」
いわゆるスカートめくりだ!
私のスカートをバッとめくりあげ、パンッと手を叩き、Vサインを作った両手を顔の前に持っていき、親指と人差し指で作った丸を眼鏡のように目に当て、手のひらを水平にして額に持っていき遠くを見渡すようなジェスチャーをどや顔でやられたのだ!(若い世代は知らないかもしれない)
スカートをめくられた恥ずかしさよりも、王子様のようなキラキラな男の子が典型的な日本の悪ガキがやるいたずらをしていることが違和感満載だった。外国の男の子でもこんなくだらないことをやるんだと逆に感心してしまったのだ。
こらーーー!! なんていいながら追いかけたのだが、逃げながらも他の女の子にもスカートめくりをしていた。なぜかこの時から王子様とは仲良くなった。ある時、興味本位で英語って話せるの?と王子様に聞いたことがある。すると、両親ともアメリカ人だけど生まれてからずっと沖縄だから全く話せないといっていた。私は、てっきりぺらぺらと流暢に話せるものだと思っていたので驚いた。思い込みとは怖いものだ。
転校初日に教室を開けた時、自分の容姿とは違うクラスメイトに緊張してしまった理由は、この王子様だけではなく、クラスには赤毛でそばかすが魅力的なかわいい女の子、ブロンズの髪の毛がきれいなハーフの子、地元沖縄の彫りの深い顔立ちの子ばかりだったからだ。
まるでインターナショナルスクールかと思ったのだ。
しかし、この沖縄で過ごした2年半で心優しいクラスメイト達に教えられた。
容姿が違うだけでなにひとつ自分と変わらない。人は外見や勝手な思い込みや偏見で判断してはいけないのだと。
沖縄を離れ、次に引っ越し転校した学校では、沖縄で真っ黒に日焼けをして沖縄訛りのある私はからかいの対象になった。
最初は学校に行くのも気が重かったが、さすが子供だ。ある程度知ってもらえたからなのかそれとも興味が薄れたのか、昔から遊んでいた友達のように受け入れてくれた。
肌の色が違うというだけで不条理な扱いを受ける人たちもいる。少し前にデモや暴動にまで発展していた。
海外だけではない。日本でも様々な理由で差別されることもある。
高校時代の友人がこのことで結婚が破談になった子もいる。根深い話なので詳細は避けるが、とてもやるせない気持ちになる。
同じ地球に生まれた人間だというのになにが違うのだろう。違うと何が困るというのだろうか。
世界を変える力はないが、私はこれからも王子様たちに教わったことを忘れないでいよう。
≪おわり≫
***
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