中堅社員の僕が新人社員に嫉妬する理由
記事:蒔田 智之(ライティング・ラボ)
その知らせを聞いたときは、苦虫をかみつぶしたような表情をしていたと思う。
「福岡勢」の快進撃には、度肝を抜かされた。
ここ関東から遙か遠くの九州の街が輝いて見えたし、そこに住んでいる人たちがとてもうらやましかった。
平成27年9月17日。
プロ野球の福岡ソフトバンクホークスは、リーグ優勝を決めた。
9月17日での優勝決定は、パ・リーグ史上最速記録らしい。
9月の福岡の街は、沸きに沸いた事だろう。
このニュースの主役は、今シーズンから指揮を執っている新人監督の工藤氏だった。
ホークスは昨年度もリーグ優勝、そして日本一になっているが、前年日本一のチームを新人監督が率いて優勝したのは、史上初の快挙だという。
まさに、これ以上ないくらいの勢いで優勝し、さらには2年連続日本一の期待がかかるホークス。
その一方で、僕が子供の頃から応援している千葉ロッテマリーンズは、リーグ3位の座をかけて埼玉西武ライオンズと死闘を続けている。
プロ野球ではクライマックスシリーズといって、リーグ3位までは優勝決定戦に参加できる制度がある。
日本一を狙えるという意味で、3位と4位では天国と地獄程の違いがある。
その境目を、我らが千葉ロッテマリーンズはおぼつかない足取りで渡っているようなものだった。
僕としてはやはりマリーンズに優勝してほしい。
特に、今の伊東監督体制になってから3年目。チームも安定してきたところだろうし、そろそろ一花咲かせてほしいところだ。
しかし現実は厳しい。
ペナントレースの実績では、圧倒的にホークスの方が上だ。
マリーンズが優勝できる確率は、もはや米粒ほどの大きさもないだろう。
かたや、就任したばかりの新人監督。
かたや、チームを率いて時間のたつベテラン監督。
監督のキャリアはマリーンズの方が上だ。
しかしチーム間の実力差は歴然。
どうしても福岡ソフトバンクホークスという素晴らしいチームと工藤監督に、嫉妬を感じてしまう。
そしてさらに困ったことに、僕は同じ時期に全く別のことで強く嫉妬を感じている。
それも、きわめて身近な問題で、だ。
今年度も、僕が勤める会社に新入社員が入ってきた。
初めての会社勤めということで、やはり慣れないことや戸惑うことが多いようだ。
そんな彼らの様子を、最初のうちは自分の新人時代を思い起こしながら、微笑ましい目で見ていた。
しかし最近は、別の感情を抱くようになっていることに気づいた。
僕は彼らに対して、明らかに嫉妬を感じている。彼らが羨ましくて仕方がないのだ。
彼らは社会人としてのキャリアはこれからだし、実務能力も全く身についていない。
しかし、僕自身曲がりなりにも中堅社員と呼ばれる経験年数を積んできたせいか、
彼らの持つ「才能」というか「可能性」といったものを感じられるようになってきた気がする。
彼らはこれからいろんな失敗をするだろうし、そのたびに上司や先輩から怒られるだろう。
しかし、断言してもいいが、そうした嫌な経験を乗り越えられれば、彼らは確実に成長する。
これからの「のびしろ」があるのだ。その事実がうらやましくて仕方がない。
一方の僕は、自分の「才能」や「可能性」といった能力の上限が、見えてくる時期に差し掛かってきていると思う。
「たぶん、将来はこれくらいの役職について、これぐらいの仕事をこなせるようになるんだろうな」。
そういう直感が、最近頭の中に浮かぶようになってきた。
それは僕にとって、なんとなく先が見えてしまうという、一種の閉塞感をもたらすものだった。
一方は社会人1年目でこれからどんどん飛躍していくであろう新入社員。
もう一方は中堅社員と呼ばれるようになり、そろそろ先が見えてきて行き詰まりを感じさせられる自分。
この関係性は、僕にとっては、今年の福岡ソフトバンクホークスと千葉ロッテマリーンズのそれとかぶって見えた。
それだけに、なおさらいたたまれない思いを、今、している。
この将来性に対する嫉妬という感情は、どうしたら解消できるのだろう。
そう自問自答してみた。しかし、自分に問いかけても答えは出てこない。
色々掘り下げて考えてみたのだが、やはり同じ。答えは出てこない。
だがしばらく考えているうちに、あることに気が付いた。
「嫉妬を解消する方法なんてないと割り切った方がいいのではないか」と。
僕は角度を変えて、マリーンズの選手の気持ちになって考えてみた。
ぶっちぎりの優勝をホークスに許した彼らにしてみれば、本心は相当悔しいだろう。
しかし、現実はそうなってしまった。
そんな彼らは今何を考え、何をなそうとしているのだろうか。
彼らが考えているのは「日本一」。それしかないと思う。
確かにリーグ優勝は逃したかもしれないが、日本一への挑戦権は、まだ取れるかもしれないのだ。
彼らにとって「日本一」は目標だし、何といってもファンの悲願でもある。
彼らはそれをよくわかっているから、自分たちのため、そしてなんといっても自分達を応援してくれるファンのため、今も毎試合を勝利のために全力で戦っている。
おそらく、ホークスに対して嫉妬なんてしている余裕はないはずだ。
これは、僕にとっても同じことが言えるのではないだろうか。
確かに、社会人としての「のびしろ」は、20代のころと比べれば相当少なくなっているだろう。
個人として目指すべき目標は、歳を追うごとにどんどん壮大さを失っていくのかもしれない。
しかし、社会人が本当に目指すべきことは「会社の利益追求に貢献すること」であり、
その先にある「社会の発展に貢献をすること」だ。
自分が働くことで、豊かな社会を提供する。
僕もそろそろ、個人的な能力を伸ばすことだけではなくそういうことを目標として働いてもいい時期なのではないか。
自分より輝いているものに対して嫉妬してしまうのは仕方のないことなのかもしれない。
しかしそれに囚われて、自分のやるべきことを見失うのは本末転倒だ。
嫉妬は嫉妬として受け止め、自分のやるべきことを邁進する。
むしろ、嫉妬のようなネガティブな感情を覚えることで、見えてくる目標もある。
それが「答え」でもいいんじゃないか。そんなことを思った。
もし今、嫉妬で心を焼かれるような苦しみを味わっている人がいたら、まずは自分のやりたいこと、やるべきことを見つめ直すことをお勧めしたい。
嫉妬自体は何の解決も生まれないが、それを自覚することで初めてわかる自分の一面があるはずだ。
問題解決の糸口は、そこにある。
混戦が続いているセ・リーグと比べれば、大方順位が固まったパ・リーグは地味かもしれないが、
それでも熾烈な順位争いはまだ続いている。
僕も、「人生」という名のペナントレースはまだまだ続く。
その過程でこれからも色々と嫉妬を覚えることは多々あると思う。
しかし、そういう感情もむしろ燃料にして心に火を灯すことでより加速して前進していこう。
そう決意した。
明日もまた仕事という「試合」があるが、全力で戦おうと思う。
僕の戦いも、これからが本番だ。
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