「ぐちゃぐちゃの洗濯物はわが子を成長させるチャンス」
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:森山絢子(ライティング・ゼミ・日曜コース)
私は、世間一般でいう平々凡々の主婦である。私が母親という立場になって、早13年が経とうとしている。よく子育ては、親が子を育てるだけでなく、親自身も子供を通して成長するものだというが、最近その意味が少し分かってきた気がするのだ。しかし厄介なのは、これが正解かどうかは決して分からない。
昨今ある程度の育児に関する基礎知識は、育児本やネットの閲覧をすれば、膨大な情報がでてくる。一応3人の母親という実績の元、育児初心者ではないが、その道のプロでもない。しかし年数を重ね、基本的な家事は出来るため、今もなお母親業を行っている。だが決して私も主婦として、家事をきちんと最初からこなせた訳ではない。
しかも私は筋金入りの不器用な人間で、人一倍物事の呑み込みが悪く、とかく苦手な分野は周りが「マジか!!」と、ドン引きしたくなるくらい出来ないのだ。そのことが分かるエピソードをご紹介しようと思う。
それは私が就職した時の事、その業界は使われる言葉も専門用語ばかりで、仕事を覚えるのに日々悪戦苦闘していた。中でも経理の仕事は特に苦手で、一般的に求められる女性事務員の仕事をやればミスばかり、そのうち会社での居場所がなくなっていた。そんなある日、私にカウンターパンチをくらわせる出来事が起きた。
その会社は、4月に入社してから半年の使用期間が設けられ、10月の人事をもって正式に本採用として認められる。そして10月に入り人事発表のメールが届いた。最初は何が起きたか分からず何度もメールを見返したが、そこにはなぜか自分だけの名前がなかった。しばらくすると上司に呼び出され、「○○さんは本採用見送りだから」と一言告げられた。あとから聞いた話によると、あとにも先にもそんな人間いなかったという。無論その噂は瞬く間に社内中に広がり、当時の私は八方ふさがりの状態だった。
しかし私は、そこから「死んでもやめるか!」と無言の圧に耐え抜いた。そんな私の姿勢にとうとう上司も根負けし、3か月後正式に採用されることになった。それからは、ビックリするほど周りの態度が一変。周囲の人間からは、よくあの圧に耐え抜いたという勇者的な扱いに。
そして上司も私の社交性と性格から、事務的な業務ではなくお客様のアテンドや、式典の手伝いなど、外国の人達と関わる仕事を与えるようになっていた。苦手な事務も先輩や上司に何度もダメ出しされながら、何とか1つずつ覚えていき、容量こそ悪く決して仕事のスピードも早くなかったが、数年前の自分では考えられないくらい成長していた。
なにが言いたいかというと、人は千差万別、器用不器用があり、必ずしも自分と同じように出来る訳ではなく、物事を習得する時間にも個人差があるのだ。それを他の誰よりも自分は分かっているはずなのに、家事に関して、わが子に自分と同じ能力を求めてしまう時がある。
私が仕事から帰ってきて、頼んでおいた洗濯物を畳んでいたのを見た時、折り目も袖の折り方も重ね方もめちゃくちゃで、これを畳んだと言いきるのかと目を疑いたくなる。
だが今思えば、私の上司も同じだったのではないだろうか?出来ないにも自分が思っているレベルの度を越えていたのではないだろうか?
しかしどんな人間も必ず成長する。何事も初めはみんな初心者だ。しかしなぜか自分が出来る立場になると、その出来なかった記憶をどこかに忘れてしまい、目の前の状況をもとに、怒りの矛先を相手に向けてしまいがちだ。
ぐちゃぐちゃの洗濯物も同じだ。最初から上手に出来る訳がない。私と同じレベルをわが子に求めるのは、家事歴の経験値が全然違うのだから、無理な話なのだ。では何が必要か?そうそれは忍耐と経験と時間。
そうやって、子供が出来るようになるまで待てる優しさと、あとはとにかく繰り返しやらせる。途中で決してさじを投げてはいけない。子供も一生懸命なように、教える側も「めんどくさいなあ」と思ってはいけない。出来るまで何度も経験と時間を費やすことが必要なのだ。お互い忍耐の作業だが、子供のレベルアップに繋がるのだから、出来た時の喜びは格別なのだ。
私にとってあの時は憎らしかった上司の存在が、今では社会の厳しさ、自分の甘さを気づかせてくれたことに感謝の言葉しかない。子供の成長も同じように根気強く見守らなければならない。子育ても大人の目線で物事をみるのではなく、子供それぞれの成長に合わせ、一緒に成長する気持ちを持たなければならない。
洗濯を畳むのも、すぐに出来る子もいれば、何度もやらなければ出来ない子もいる。もしあの時上司が私の成長を諦めてしまっていたら、今の私が子供を教育する大変さに気づくことは、出来なかっただろう。人はたとえ立場が違えども、同じ状況におかれて、はじめて気づくことがある。だからこそ子供の成長は、嬉しい面も難しい面もある。私の母親業卒業までの道のりは、まだまだ果てしなく遠い。彼らが成人するその日まで、これからも続いていくのである。
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