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私は本屋で深呼吸する


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記事:角 佳菜子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私は本屋が好きだ。
本自体も好きなのだが、大量の本に囲まれているあの空間の方がもっと好きなのだ。
先日谷川岳を登ってきたのだが、その途中の森林で深呼吸した時に、「あ、本屋にいるみたい」と思えた程、私にとって本屋は森林浴と同じぐらい癒される場所なのである。
 
私の本屋好きは高校生の頃からで、部活帰りに本屋に寄って帰るのが日課になって以来ずっとだ。部活帰りに本屋に寄っていた理由は2つある。
 
1つは夕飯までの時間潰しで、思春期真っ最中の当時、家に帰ってソファでくつろいだ瞬間に「宿題やったの?」攻撃に合ってイラついていた私は、なるべく両親と話す時間を作りたくなかったのだ。だから部活終わりの18時から家族がご飯を食べ始めるギリギリの19時までの1時間、学校から家までの間にあった本屋で時間を潰すことにしていた。
 
もう1つはこの時間潰しで始めた日課が褒められることを知ったからだ。学校の友達や先生に毎日本屋に寄っていると言えば「すごい、本好きなんだね!」とおだてられ、家に帰った両親にどこ行ってたのと聞かれて本屋と答えると、「あんた本好きなんやねぇ!」と上機嫌になる。本屋に行くだけで良いこと尽くしだったのだ。
そんな不純な(?)動機で本屋に通い続けていたが、当時は漫画ばかりで活字を読むことが少なくなっていたので、1時間のほとんどは試し読みの漫画をパラパラとめくったり、雑誌を眺めたりして適当に過ごしていた。そんな穏やかな日々を打ち破ったのは、母親の一言「あんた本屋でどんな本読んでるん?」だ。
 
やばい、と思った。母親からしてみれば純粋に娘がどんな本に興味を持っているのか気になっただけの一言だが、私にとっては一撃必殺の一言だった。ここでバカ正直に漫画と雑誌を適当にめくっていると答えてしまえば、「本好きだから夕飯ギリギリの帰宅時間になっても仕方ない」という免罪符が奪われて「宿題やったの?」再攻撃が始まるに違いない。そう思った私は咄嗟に「安部公房とかかな」と答えた。「へぇ~お母さん知らんわ~」と嬉しそうに笑う母親を見てホッとしたと同時に、罪悪感に襲われた。
 
安部公房は高校の教科書に掲載されていた「棒になった男」で初めて知った。なぜか私はその話が大好きで、国語の先生に他の話もあると聞いてから、一度は本を手に取ってみたいと思ってはいた。が、その興味は一時的なもので、母親に答えるまで全く思い出すことは無かった。それでもこの時咄嗟に安部公房を口走った理由は、普段からあまり本を読まない母親が知らなそうでそれ以上詮索されないと思ったからだった。今思い出しても母親のことを見下した卑怯な手だと呆れるが、当時の私もさすがにその気持ちと学校の教科書以上読んでいないという罪悪感に苛まれ、これは事実にするしかないと本を購入してみることを決意したのだった。
 
そんなことを勝手に決意していると、母親から「立ち読みでなんて申し訳ないねんから、ちゃんと欲しい本あったら買いや。本やったらお父さん買ってくれるねんから」という思いも寄らない一言があった。そう、活字は子供が賢くなる一因になると信じて疑わない両親は、活字の本なら上限無しに購入してくれるというのだ。毎月のお小遣いを500円上げるお願いに1年かかっても成功しなかった私からしてみると、衝撃の一言だった。
 
それからというもの、私の毎日1時間の本屋の過ごし方が変わった。それまでは目的もなくうろうろとただ時間を過ごすだけの場所だったのが、「読みたい本を買う」という正式な目的のもと滞在できるようになったのだ。いや、至極当たり前の話に聞こえるが、当時は買うわけでもないのに時間をただ潰している自分にそれなりに引け目を感じていて、私は本を買おうと思えばいつでも買うことができる、正式なお客さんなのだ、と胸を張って歩ける時とは気分が雲泥の差なのだ。
 
こうしてまたしても不純な動機で本屋通いが続くことになった訳だが、それからは入り口すぐの棚に縦積みされている様々な心惹かれるタイトルに目がいくようになったり、店員さん手作りのポップや本棚の配置の意味が気になったりと、本屋と本に興味を持つようになることで、実際に本を読む量も着実に増えていった。その時から私にとっての本屋は、友達と上手くいかない時、親と喧嘩した時、仕事が上手くいかない時、嫌なことがあるとすぐ本屋に駆け込んで、「あの棚のどこかに解決策があるでしょう」と、私の悩みや気づくと抱えがちなストレス達をいつも緩和してくれる癒しの場所になっていったのだ。
 
だから私は本屋で深呼吸する。傷ついた時、落ち込んだ時、本屋に行って本屋の空気を吸い込むだけで、何かいいことがある気がする、逃げ場になってくれる、受け入れてくれる、そんな場所でいつづけてくれるからだ。そう思うとわくわくするし、傷が癒えていく気がする。ネットでいつでも本を買える時代に、本屋に行く。今日もこれからも、ずっと。
 
 
 
 
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2020-08-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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