メディアグランプリ

【陸上“工事”部】グラウンドにブラシをかけることは好きだった。 《ありさのスケッチブック》 


陸上 ありさ

 

私が通っていた高校のグラウンドの状態はとにかく最悪だった。

雨が振れば水たまりだらけになるし、
水たまりが氾濫して川が流れるし、
夏になれば砂ぼこりが酷いし、
雪なんかが降ると何日もグラウンドはぐちゃぐちゃのまま。

雨上がりの日は、いつも同じメールが届く。

「今日の昼休み、グラセンで」

グラセン、すなわちグラウンド整備である。
私たち陸上競技部の義務みたいなものだ。
高校で私は、陸上部のマネージャーをしていた。

雨上がりのグラセンは本当に面倒だ。
ただただ、時間と手間がかかる。

水気を吸うスポンジをもってきたり、
砂場から砂を持ってきたり、
砂と土を混ぜたり、
トンボでパタパタ叩いて平らにしたり。

グラウンド整備、というよりも
グラウンド工事、なんて名前の方がしっくりくる。

なんでうちのグラウンドはこんなに水はけが悪くてボコボコなんだ。
何度も思ったものである。

 

だけど。
グラセンはグラセンでも、晴れの日の練習後にたまにするもの。
グラウンドにブラシをかけることは好きだった。

普段の練習の後のグラセンでは、
ボコボコになったグラウンドを、トンボをかけて平らにならす。
そして、時間があればブラシをかける。
そうすることで、より地面が滑らかになるのだ。

トンボでスパイクの跡を消して均したところをブラッシングしていく。
一度ならしてあるから力もそんなにいらない。
ただ、ブラシを引っ張るだけでいい。
ブラシを持つ腕には、土のうえで軽快に飛び跳ねるブラシの振動が伝わる。
それがちょっと楽しい。
そしてスーッとすぐに進んでいける。
簡単なのに、楽しめる。だから好きだった。

 

それはまるで、人が作った道を辿って行くかのようだった。
かつての私がそうだった。

私は何本ものトンボが辿った、平坦な道を選ぶことが多かった。
多くの先輩、友人が進んでいった道。
一番輝いている先輩が通っていった道。
同じ道を辿れば、同じようになれるとおもっていたからだ。

尊敬する先輩たちが選ぶ
進路、部活、団体、組織、グループ……。

私は先輩たちがトンボをかけてくれた道を
ブラシを持って必死に追いかけた。
トンボがけした跡から、
それないように、丁寧に、慎重に。

 

だけど、全然、追いつけない。

それはそうだろう。
トンボをかける人は自分で進む道を選択し、進み方も自分で考えている。
その上での行動であり、成果がある。

一方で私は。
先輩が選んだ道を疑いもなく選び、進み方、行動も先輩に倣っていた。
私がすることといえば、ブラシをかけるように、細かな改善をすることくらいだった。
そんなことで同じ成果が出たとしても、身につく力は全く違うものになるだろう。

 

いつの日からか、私はブラシを持つのをやめ、トンボを持つようになった。

自ら進む道を選ぶようになったのだ。
たまに先輩と同じ道に進むこともあるし、やり方を真似することもある。

だけど、先輩が良いと言ったから、ではなく
自分が
進みたい、
変えたい、
挑戦したい、
と思ったから。

自分で考えて選んでいるから、
同じ道に進んだとしても、
以前のように先輩たちのコピーのように全てを倣うことはなくなった。

それから私は、
自分で選んだと胸を張って言える道に進み、
どうするかも常に自分に問いながら試行錯誤するようになった。

自分で進み方を選ぶようになってからは、
最初こそ何もわからず、
もちろん自信もなく、
アワアワしてばかりだった。

だけどやっと、
今進んでいるのは自分で選んだ道である、
その事実だけで以前よりは自信がもてて、
少し自分のことを好きになれたのである。

 

ちなみに私は、三つのことに挑戦している。
その一つが、天狼院への挑戦だった。

 

【天狼院書店へのお問い合わせ】

TEL:03-6914-3618

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。

【天狼院のメルマガのご登録はこちらから】

メルマガ購読・解除

【有料メルマガのご登録はこちらから】

バーナーをクリックしてください。

天狼院への行き方詳細はこちら


2015-10-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事