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【私的福岡】僕は今日、あの公園の前で「別れ」を選んだ。


私的福岡 koikeさん

記事:Ryosuke Koike(ライティング・ラボ)

 

就職してはじめて福岡市にやってきたとき、僕は中央区の今泉に住んでいた。
国体道路を挟んで天神とは反対側にあるこの土地は、交通アクセスは抜群で通勤には便利だったし、休日も夜遅くまで遊ぶことができた。
一方、当時は道幅が狭い道路が多く、人通りも表通りに比べて少なかった。ラブホテルがたくさんあって、深夜になっても酔客の声が聞こえるなど、夜になると何だか異様な雰囲気が漂っていた。
そんな慣れ親しんだ場所であったが、結婚を機に離れることになった。

 

人生は「出会い」か「別れ」か。
この鶏が先か卵が先かと同様のテーマは、人によって答えが様々だと思う。

僕は、「別れ」だと思っている。

この世に生を受けるときのことを思い出してほしい。我々は出産という儀式を通して母体に別れを告げ、初めて一つの独立した個体として自他ともに認識されることになる。

また、1日という時間軸で考えてみる。家族を持つ僕の場合、家事、育児、仕事、趣味、睡眠…いろいろな要素に対して時間を振り分けているが、24時間という限られた時間の中で新しいことを始めようと思うと、何かの時間を切り詰めなければならない。それぞれの要素に少しずつシーリングをかけることもあれば、例えば興味を失っていた趣味をやめることもある。

このように、「別れ」があってはじめて、新しい「出会い」があると思う。

この「別れ」であるが、予測できるものあれば、突然やってくるものもあるし、自分で選ぶことができるものもあれば、強制させられてしまうものもある。
思いでの詰まった学校の卒業、身近な人の突然の訃報、価値観のあわなくなった恋人への別れの告知、突然の遠方への辞令…など。

自分自身の過去を振り返ってみても、大小様々な「別れ」を経験している気がする。
そして、つい先日、また大きな「別れ」を味わうことになった。

 

平成27年9月26日、書店「福岡天狼院」がオープンした。
東京の池袋にある「天狼院書店」の、初の地方都市の店舗である。

天狼院書店は、本屋でいて、けれども本屋という枠にとらわれない書店である。

本屋の中にテーブルとイスが設置され飲食を提供している。これだけだと、最近は導入している本屋もあるが、なんと畳にこたつがあったりする。

また、「本」に関連した様々なイベントが多く企画されている。イベントの実施も、他の本屋で既に取り入れられていると思うが、読書会で参加者が紹介した本を実際に書店で販売したりするなど、天狼院書店のイベントは参加型の要素が極めて強い。
東京の天狼院では、映画を撮ったり、単独で演劇を公演したり、あげくの果てにはバスを借り切って旅行に行ったりしている。

本屋としては、夜遅くまで開店しているのも使い勝手がよい。

 

こんな型破りな書店が福岡にできてしまったら、これまでの生活はどうなるのか。

人と会うための待ち時間や飲み会までのちょっと空いた時間を潰すために、近くにあるカフェにふらっと寄ることがなくなるだろう。
事前にネットで調べておいた本を買うためだけに、大型の書店に行くことがなくなるだろう。
これから企画されるであろう様々なイベントに参加することで、だらだらとテレビを見たりする優先度の低いプライベートな出来事は、自然と消えていくだろう。

 

「福岡天狼院」は、あの「今泉」にオープンした。
9月26日の朝、久しぶりに今泉を訪れてみたが、僕の記憶の中にある光景とは全く変わっていた。
道路の状況はあまり変わらないけれど、おしゃれな飲食店や雑貨屋が増えた。ラブホテルは少なくなり、人通りも増えた気がする。

そして、天神の浸水対策工事のため閉鎖されていた今泉公園は、その後リニューアルされすっかりきれいに整えられていた。
公園の中では、子供たちが遊んでいるのを見守っている母親たちや、仕事の合間に一息ついているタクシーの運転手、友達と談笑している若い女性の姿があり、和やかな雰囲気が漂っていた。

僕は公園から、視線を高い位置へ向けた。公園から東側を望むと、赤い建物の2階にそれはあった。

あの階段を登れば、これまでの生活とは同じようにはいかないかもしれない。

これは自分で選択できる「別れ」である。
人間をはじめとした生命には、基本プログラムとして現状を維持する方向に向かわせるシステムが組み込まれている。
新しい世界への旅立ちは、常に期待と不安が同居している。
一歩踏み出すか――。

しかし、実は五か月前からもう既に決まっていた「別れ」だった。
福岡に住んでいる者として、「福岡」を多くの人に知ってほしい。
そんなちょっとした地元志向な動機と、簡単にすごいスキルが身につきそうという不純な動機をもって、天狼院書店が出張して福岡で実施していたイベント「ライティング・ラボ」を受講した五か月前。
仕事と家庭と飲み会だけだった五か月前。
それまでの生活では考えられなかったことだが、僕は、今こうやって記事を書かせてもらっている。

既に片足は突っ込んでいた。
もう片方は?

 

考えることもなく、僕は2階へと続く階段を登っていた。

 

新しいカタチの本との出会い、そしてその先に体験を味わいたいなら。
いや、もっとシンプルに、単に「出会い」が欲しいなら。
逆に、日常生活から逃げて、落ち着いた空間で一休みしたいなら。

 

「福岡天狼院」が、あなたを待っている。

 

***
この記事は、ライティングラボにご参加いただいたお客様に書いていただいております。
ライティング・ラボのメンバーになり直近のイベントに参加していただくか、年間パスポートをお持ちであれば、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

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TEL:03-6914-3618

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2015-10-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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