パンを小石にする魔法
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:神谷玲衣(ライティング・ゼミ 夏期集中コース)
「読後感があまり良くなかったように感じました」
ショックだった。半日近くを費やして書いた記事のフィードバックである。
一瞬認めたくないと思う自分がいたが、これはずばり、私の書いた記事の本質をついている鋭い講評だった。こんなに的確に指摘されては、ぐうの音も出ない。
かと思えば、ダイレクトに「感動しました」と書いていただける時もあり、そんなときは心底嬉しくて、思わず一人でガッツポーズをとってしまうほどだった。
落ち込んだり、舞い上がったり、また落ち込んだりの、忙しい一週間だった。
こんな風に物事に真剣に取り組んだのは、何年ぶり、いや十何年ぶりだったかもしれない。毎日2000字の課題提出を連続9日間、などというハードな内容とはつゆ知らず、天狼院の「ライティング・ゼミ」に、気楽な気持ちで申し込んでしまった。
このお盆は、結婚して以来初めて、私だけが夫の実家に帰らず、夫と娘だけで帰省してもらった。ただでさえ短い今年の夏休みなのに、子供のことより自分のことを優先させてもらっている。子供には申し訳ない気持ちもあるが、たまには、一心不乱にものごとに取り組む背中を見せるのも良いかもしれない、などと思ったりもしている。
講義は想像の範疇を超えるものだった。実は自分も講師をしていたので、あれだけの時間、しかもオンラインで、受講生をぐいぐい引っ張るのは、相当のレベルだとよくわかる。ものすごい熱量と話術、内容で、右脳と左脳どちらもフル回転でなければあれだけの講義ができないことは、想像に難くない。
その度量がわかるだけに、毎回講義が終わると、素晴らしい試合を見せてくれた選手たちへの感謝と感動の気持ちが湧き上がるかのように、画面に向かってひとり盛大に拍手をしてしまう私は、はたから見たらそうとう気色悪かったかもしれない。
課題に取り組むことによって、「書くこと」が毎回自分にとって変わっていったのが、一番面白い出来事だった。「書くこと」と言っても、文章の内容のことではなく、書くことの「目的」と言ったらよいだろうか。
最初はとにかく、なんとかかんとか、2000字を埋めるだけで手一杯だった。情けないことに、国語の宿題で原稿用紙のマス目を前に苦心している娘と、なんら変わりがなかった。
次は、教えてもらったばかりのメソッドを使って、上手に(見えるように)書くことを目指した。きっとライターズ倶楽部だったら即却下のレベルなのだろうが、ちょっとわざを使えるようになったのが嬉しくて、うざったいくらいにオカズを多用する、ポンコツドラマー状態だ。
そして何回か書いたとき、「あれ?」と思う出来事が起こったのだ。
話の結末が、スルスルと自動的に、想像もしなかったものになっていく、という今まで経験したことのないことが起こった。それまで全く考えもしなかったような感情や考察が、どんどんキーボードに打ち込まれていくのだ。
書き終わってみると、その予想外の結末は、いままで自分の奥深くにしまわれて、ながいこと発見されなかった、その出来事の核であり、感情の純粋なエッセンスのようなものだった。
更にはそれを書いたあと、やっと自分の奥深くのほんとうの気持ちが見い出され、未消化の感情が昇華できたかのような、深いカタルシスを感じたのには驚いた。他者を意識して書いてはいるのだが、結果的に感情の浄化になっていた。
もしかして、これが「書く」ということなのだろうか?
だとしたら、今まで私が「書いて」きたことってなんだったんだろう……。
今まで、自分一人でだって書けていた。書けてはいたけれど、それは表面的なものでしかなかった。では、たくさん書き続けたら、このように純粋なエッセンスが抽出できたかというと、自分一人では、なかなか到達できなかったのではないかと思う。
凡人にとっては、「どこを目指すのか?」「テーマは何?」「もっと深く掘り下げて」などと、常に俯瞰した高い視座からのアドバイスがあって、初めて行き着けるゴールがあるのだと知ったことが、今回のゼミを受けた大きな収穫であった。
苦しんで、苦しんで、うんうん唸って、シビアな講評に打ちのめされて、また立ち上がって得たものは、まさしく人生を変えるようなものだった。プロの視点からの考察を得ながら書くことによって、否応なく自分と対峙する天狼院のライティング・ゼミは、最強のコーチングだったのだ!
そのコーチングを経て今日まで書いてきてわかったことは、「自分に対峙して書く」ことは、ヘンゼルとグレーテルの持っていた、白い小石のようなものかもしれないということだ。
森で迷子になっても自分の家に帰れるように、点々と記すように置く、白い小石。
「自分に対峙して書く」という小石をたどってたどって、たどっていくと、最後には自分の魂、という大切な場所に帰ることが出来るが、「安直な文章」というパンを置くと、小鳥に食べられて消えてしまい、魂には到達出来ない。
「書く」って、文字を並べることじゃないんだ!
「書く」って、自分の思いを述べるだけのことじゃないんだ!
「書く」って、自分を掘って掘って、感情のエッセンスを採掘して、それに光を当てて昇華させることなんだ!
「書く」って、自分を知ることなんだ!
「書く」って、結局自分に還っていくことなんだ!
そんな大切なことがやっとわかった私は、ライティング・ゼミに参加して初めて、パンを小石に変える魔法があることを知った。
魔法を習得するのは、なかなかに骨の折れる仕事ではあるが、綺麗な小石をたどりながら、一歩一歩、魂への道を歩み続けようと思う。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
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