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子どもが嫌いだった私が、子育ての終わりに思うこと


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記事:原 珠実(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私は子どもが嫌いだった。
 
特に、幼稚園から小学校低学年くらいの子どもは、どう接していいか分からず、苦笑いをするだけの対応だったように思う。私は長女ではあるが、特別に面倒見がいいというわけではなく、また周りに小さい子どもがいなかったことも関係しているように思う。
 
スーパーで走り回る子どもや、電車で騒ぐ子どもを見るとついイライラしたし、そんな自分には子育ては無理だろうなと思ったものである。第一、結婚したいとも思っていなかったし、なにより結婚して専業主婦になるなんて、まっぴらだと思っていた。
 
ところが、大学の友人の中で一番早く結婚をし、結婚後暮らした土地で就職活動をしたがうまくいかず、専業主婦になった。そして、ほどなく子どもを授かった。人生は、想像通りにはならないものである。
 
夫以外には、ほとんど知り合いのいない土地。
することもなく、ただ家にいる毎日。
つわりですぐれない体調。
そしてなにより、子どもが嫌いな自分に子育てができるのかという不安。
 
そんな中、市の広報誌で母親教室というものがあることを知った。知らない場所に出かけるのは苦手だったが、思い切って行ってみた。
 
そこで、同じ時期に出産予定の5人の妊婦さんと友だちになった。年代はバラバラだったけれども、初めての妊娠で不安な気持ちはみんな一緒だった。そこで不安な気持ちを共有できる人と知り合えたことが、本当に救いになったのだと思う。
 
そして予定日当日に、26時間の陣痛を経て、無事に娘を出産した。予定日通りに生まれることは、珍しいらしい。
 
子どもが生まれたら、テレビでよく見るシーンのように感動の涙が出るのかと思ったけれども、あまりに長い出産時間のせいで疲れ切っていて「やっと終わった……」というのが正直な感想だった。出産に立ち会った夫に後から聞いた話では、娘の首にはへその緒が巻きついていて、分娩室には少し緊張が走ったようだ。そんな大変な状況にも気づかないほど疲れていたのかと、驚いたものだった。
 
初めての育児は本当に大変で、まず娘は母乳がうまく飲めなかった。おまけに夜泣きもひどく、2時間おきに泣く。もうどうしていいか分からず、一緒に泣いたことも数知れず。なのに、2年後には息子が生まれた。
 
実は、娘が生まれて4歳、息子が2歳になるくらいまでの記憶がほとんどない。ただただ、毎日が慌ただしく過ぎていったように思う。そうして、その頃私は子どもを保育園に預けて働くことにした。
 
家事に育児、そこに仕事が加わるのだから、毎日はもっと忙しく慌ただしくなるように思うが、私にとっては、それからの方がゆっくりと育児ができていたような気がする。もちろん時間はないのだけれど、仕事から帰ってきてからや休日に子どもと過ごす時間がとても愛おしく思えるようになった。
 
1日24時間毎日子どもと向き合っていたときには、目について仕方がなかったことが全然気にならなくなり、反対にそれまでは気がつかなかったことに気がつくようになった。
 
昨日はできなかったことが、今日はもうできるようになること。
毎日たくさんの話を聞かせてくれて、たくさんのお手紙を書いてくれたこと。
外を歩くときには、必ず私の手を握ってくれたこと。
夜寝るときに、本を読んであげると嬉しそうに笑ったこと。
本当にすべてが、大切な思い出だ。
 
そして、保育園が終わって、小学生になって、中学生になって……
 
それぞれ大学2年生と高校3年生になり、私の子育ても終わりに近づいてきた。あんなに子どもが嫌いだった私が、外で子どもを見かけると、自分の子どもたちの小さい頃を思い出して、思わず微笑みかけてしまう。そして、子どもが泣いていて困っているお母さんに、つい話しかけてしまうのだ。
 
「子どもに泣かれると、どうしていいか分からなくなっちゃいますよね」
「今が一番大変なときですね」
 
そんなふうに声をかけると「はい」と言いながら、涙ぐんでしまう人もいた。まるであの頃の私のようだ、と思う。見ず知らずの他人でも、思いを共有してくれる人がいると思うだけで、人は頑張れるのかもしれない。
 
まだ終わってはいないが、今子育て期を振り返ってみると、部活のようだなと思う。一緒に泣いたり笑ったり、愚痴を言ったりできる友だちや、力になってくれる先生や先輩がいるから乗り切れる。そして、その期間は決まっていて終わりがある。
 
その時は辛いことばかりだったような気もするけれど、後から振り返ってみると楽しかったことがたくさんあったことに気づく。子どもを通じて、大切な友人もできた。
 
もし今、子育てで大変なお母さんがいるなら……
 
たくさんじゃなくていい、一人でいいから、思いを共有できる人を見つけて欲しいと思う。それだけで、きっと気持ちに余裕が生まれるはずだ。
 
そして、部活に引退があるように、子育てにもいつか終わりがくる。そのときには、きっと懐かしく思い出すことができると思う。子どもが嫌いだった私が、もう一度あの頃の子どもたちに会いたいと思っているように。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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