透明になりたかった私が見つけた一つの答えとは
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透明になりたかった私が見つけた一つの答えとは
記事:松本さおり(ライティング・ゼミ日曜コース)
私は誰なのか。
こんな疑問を持ったことはあるだろうか。
私は、こんな「答えのない答え」を探し求めている子どもだった。
子どもの頃、風になりたかった。
「私」という形のないものになりたかった。
空をボーッと眺め、雲の動きを見ながら、その雲と雲の間の「見えない何か」を探していた。
言葉でいうなら風。あるいは透明。
子どもの頃の私の目には、その「見えない何か」は確かにあって、その「見えない何か」にどうしたらなれるのかと真剣に考えていた。
その結果が「透明になること」だった。
その想い通り、私は自分の思いを言葉にしない、できるだけ音を発しない子どもに
なっていった。
クラスの中で名前を覚えてもらえない子。
「そんな人いたっけ?」と言われるような影の薄い人に育っていった。
よく考えれば、自分の希望通りだ。
このときの私は「透明になる=自分を表さない」だと思っていたからだ。
「私」という存在を消すということは、影を選びながら生きるということだ。
案の定、私の人生はそんなに明るいものではなかった。良かったのか悪かったのか、
子どもの頃は影が薄すぎて、誰かにいじめられるということもなかった。
ただ、存在に気づかれない、という感じだ。
学校は全く楽しくはなかったが「行きたくない」という意思表示をして自分を表さすことはなかったので、不登校になることもなかったし、勉強も注目されるようなことはしないので可もなく不可もなく、一言で言うと「特に問題はないです」と先生に言われる子どもだった。
そしてその「特に問題ない」を親に認めてもらえるところだと思い、親を安心させるためにこれをやっていた。
学生時代はこれでも良かった。しかし社会人になってから、この生き方は激変する。
こんなに引っ込み思案な性格なのに、なぜか営業職をすることになってしまった。
ずっと思いを言葉にしないで生きてきたのに、突然、思いを言葉にしないといけない職業をやる機会が回ってきた。このとき私の周りの人たちからは「その仕事はあなたには合わない」と口々に言われていた。
今思うと、これがきっかけで「自分を表現する」ということを意識するようになった。
この会社で私は「営業ノウハウ」を叩きこまれることになる。
営利重視、結果が全て。結果が出せないなら人間失格。
そんな厳しい環境に自分を置くことになった。
子どもの頃、自分の思いを口にしなかった私は「商品を契約していただく」という目的のために、人と話すことをするようになった。
人前で話すのが苦手だった私が選んだ方法。
それは、役になり切ってみる、という方法だ。
中学生の時、少しだけ演劇をやったことがあり、その時「自分ではない他の人」を役柄として演じるのであれば、人前で話したり舞台に上がったりできるということを知ったからだ。
私は「堂々と説明できる説得力のある人」の役を演じることにした。
この役柄は私の中でヒットした。
人前で話すのが苦手だった私が、徐々に高額の契約が取れるようになっていった。
結果が出せるようになっていくと、自信もついてくるのでだんだんと「これが私」になってくる。こうして、私は私の認識を変えていった。
この後、私は結婚、出産を経て、様々な仕事を体験しながら、現在は心理セラピーという仕事をしている。人と話すのが苦手だった私が、たくさんの人と話す仕事を選んでいる。
たくさんの人と話しをして気づいたことは、その方の思っている「これが私」がその方の
人物像になるのだということだ。
「私は人見知りなんです」という自己認識なら人見知りになり
「私はダメな人間なんです」という自己認識ならダメな人になり
「私は天才だ」という自己認識なら何かにおいては天才になる。
いつも悩んでいる人は、その悩みを悶々と考え続ける自分にフォーカスしていて、
いつも楽しいと思っている人は、楽しい自分にフォーカスしている。
自分の自己認識がそのまま「今の自分」を作り出す。
「私」とは、実は「これが私」と自分が決めたものがそうなっているだけなのだ!
人と話すのが苦手だった私が人前で話せるようになったのも、私の自己認識を変えたから。
だから、悩みから解放されたいのであれば、その悩みを作り出した前提の思いを見つけ出し、
本当はどんな自分で在りたいのかと自分に聞く。
人はいつからでも変われるし、どんな自分にもなれる可能性はある。
「私」とは「透明」だ。
私とは、何者でもない。だから何者にもなれる。
私が「これが私」と認識すると、そこに「見えない何か」が集まり始め、
「私」を作り出す。
「どうしたら透明になれるの?」
子どもの頃、誰も教えてくれなかったその質問に、今の私はこう言うだろう。
「何者でもない私」がたくさんの可能性の前でワクワクしながら「私」を選んでいる
その瞬間が「透明な私」であり、その透明な私が「これが私」を選んだら、「私」という形が創られていくのだよ、って。
「透明な私」になるとは、
自分の可能性にワクワクしながら「見えない何か」を信頼しているその状態であること
だった。
今も空を眺めながら、雲と雲の間の「見えない何か」を見つめている。
***
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