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メディアグランプリ

ティッシュ配りプレイ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:シマザキ キミコ(スピードライティング特講)
 
 
「私、こんな仕事がしたくてこの職業に就いたわけじゃない」
誰しも一度はこんなことを思ったことがあるのではないだろうか?
 
仕事には様々な業務が付随してくるので、本来希望していた業務内容だけに専念できているという人は稀なのではないかと思う。
でも、やりたくなかったという仕事がやらなくていい仕事とも限らない。
いやだ、やりたくない……そう思いながらも、どうにか自分の尻と重たい気持ちに鞭打ってその業務を遂行しなくてはならない時、私は友達から教えてもらったこんな思考を採用するようにしている。
(次の言葉は、『プロフェッショナル 仕事の流儀』のテロップのような気持ちで読んでほしい)
 
『これは、プレイだ』
 
この言葉を私が聞いたのは、こんなシチュエーションだった。
当時私は下町のリラクゼーションマッサージ店に勤務し、セラピストとして働いていた。
もちろん本来の仕事は体の不調を抱えたお客様のコリをほぐしてお体を少しでも整えてお帰りいただくことである。
ところがある時、店に大量の大きなダンボール箱が配達されてきた。
売り上げを伸ばすため、日中と帰宅ラッシュの時間帯で手が空いているスタッフはお店の外に出てティッシュを配れ! というミッションだった。
ティッシュの量は一万個だった。
 
もちろんスタッフ全員が嫌だった。
しかし、社長命令である上に大量の段ボールはティッシュを配らないことには無くならないのである。
(やるしかない……でも本当にやりたくない……)
1日あたりの最低配布目標数を設定してスタッフ全員で取り組むことになった。
 
届けられたティッシュはまっさらな、なんの広告も入っていないポケットティッシュだったので、まずはそこにお店の広告を入れ込むところからである。
最初は広告を入れるたび外側のセロファンにシワが入ってしまい自分の不器用さに嫌気がさしたが、次第にコツを掴み、最初から工場で封入されたかのように美しい仕上がりで広告を入れることができるようになった。
 
そしていよいよお店の外に出るのである。
スタッフの誰かが近所の百均で買ってきてくれた小ぶりの手提げカゴいっぱいにティッシュを詰め込んで商店街に繰り出した。
 
悪夢のような思い出が蘇る。
昔、一度だけ短期バイトで広告を街中で配布するバイトをしたことがある。
スパルタにしごかれ、泣かされ、最終的には30分で50枚以上は配布できるようになった。
しかし、指導があまりにも不愉快だったので二度とこんな仕事するものか!と心に誓っていた。
 
だが、やらなくてはならない。
勇気を出して、通りすがりの方に恐る恐るティッシュを差し出す。
迷惑そうな顔をされ心が折れそうになるが、それでもティッシュを配り続ける。
ところが幸いにもここは下町の商店街だった。
かなりお年を召されたおばあちゃん、おばちゃん(時々おじちゃんも)が自分からティッシュをもらいに来てくれるのである。
お店に来てくれそうな気配はないが、とにかくタダでもらえるティッシュは欲しいという人たちに勇気づけられ、二週間ちょっとでどうにかこうにか私達はティッシュを配り終えた。その矢先……、
 
まさかの追加一万個のティッシュがお店に配達されてきたのである。
 
私達は軽い絶望を感じた。
それでもやっぱり配るしかない。うちのお店には配るのが面倒臭いからと言って、その辺のゴミ箱にこっそりティッシュを大量廃棄するような悪いスタッフは一人もいなかった。
 
再び広告を入れる作業をしながら、なぜこんな仕事をしなくてはならないのかと私が不機嫌な顔で愚痴っていると、一緒に作業していたスタッフが輝かんばかりの笑顔でこんなことを言ってきた。
 
「私さ、これプレイだと思うようにしてるんだよね」
 
何を言っているのかわからず、どういうことか尋ねた。
 
「いや、これ友達から聞いた受け売りなんだけど、嫌な仕事を全てプレイだって考えるの。つまり、その辺にご主人様がいて私にティッシュ配りを強要されてて、本当は嫌なんだけどティッシュ配りながらちょっと快感って思い込むの。
『ああ……、あの人がティッシュを配ってる私を見て嬉しそうにしてる』って」
 
大爆笑した。
ご主人様なんかいない。
その子がSMの趣味があるのかどうかもよく知らない(多分ない)。
でも、あんた、そんなこと考えながらティッシュ配ってたんかい!
最高じゃないか!
 
私はちょっと感動していた。
やりたくないと不愉快な気持ちを抱えて作業するより、妄想とはいえこれはSMプレイの一環で快感だと思い込むことで楽しい時間にしてしまう。
それで嫌な時間を笑顔で乗り越えられるならそれに越したことはないではないか。私はその思考をパクらせてもらうことにした。
 
その辺の電柱の陰から、私のご主人様(なんとなく老獪なタキシード仮面様のようなイメージの男性)が「お前はティッシュを配るんだよ……」とほくそ笑んでいる。自分が昔の少女漫画風の美少女になったようなイメージで恥じらっている。
我ながら頭が悪すぎて、顔は自然と笑顔になる。
こうなったらティッシュを受け取ってもらえようが、断られようがどうでもいい。ある意味最強モードだ。
私は残りのティッシュ配布時間をとても楽しく乗り越えることができた。
 
以来、仕事面や普段の生活でもこのプレイという考えを私は積極的に採用するようにしている。
少し違うが似たような考えが大きく世間に採用されていた例として、『ヤシマ作戦』がある。
東日本大震災の時に電力不足から、全国的な電力調整が行われたことがあったが、比較的震災被害が軽微な地区にいた人々はこれを『ヤシマ作戦』と呼称し盛り上がっていた。(『エヴァンゲリオン』というアニメ作品の中で、強力な敵を倒すため日本中の電力を一箇所に集めるという作戦である)
実際には節電でみんなが窮屈な思いをしなくてはならないところを、妄想の力で明るく楽しい気持ちで乗り越えようとしたのだ。
私はこの時盛り上がっていた皆さんを心のそこから尊敬している。
 
どんな状況だって、気持ちの持ちよう一つで世界は姿を簡単に変えてくれる。
時には、妄想だって世界を救うのである。
 
 
 
 
***

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2020-09-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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