メディアグランプリ

バズれ!銚子電鉄


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:月村あゆみ(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
千葉県は銚子半島に行ってきた。
銚子半島には、唯一の鉄道として銚子電鉄が走っている。
銚子電鉄は、親会社の倒産、元社長による横領、東日本大震災に新型コロナと、パンチに次ぐパンチ、ダメージに次ぐダメージで、いよいよ今年度末で廃線か、と言われているくらいの経営危機に瀕している路線だ。始発から終点まで乗っても、全長わずか6.4kmの実にローカルな鉄道なのだが、バズ的な視点で見るとこれが実にアンビリーバブルだったという話をしたい。
 
そもそも、銚子電鉄は、鉄道事業の赤字を物販でカバーしてきたとウェブサイトに書かれているが、その陰にはバズがあった。
元社長による横領のせいで、国や自治体からの補助金が打ち切られ、電車の修理代も賄えなくなったときに、当時の経理課長が「ぬれ煎餅買ってください。電車修理代を稼がなくちゃいけないんです」という一言から始まるお願いをオンラインショップに掲載したところ、これがむちゃくちゃにバズったのだ。
中の人からのなりふり構わぬお願いという、今となってはもはや古典的ですらある手法ではあるが、当時はとても斬新で、2ちゃんねるの鉄道板に始まり、関連板にもスレが立ちまくり、なんと当時の現代用語の基礎辞典に載ったという逸話もあるくらい、もはやバズの元祖みたいな鉄道なのである。
 
このような事前知識を持って行ってみると、果たして、始発の銚子駅からして既に気合が入っている。
駅名標に、銚子という駅名よりも大きな字で、ぜったいにあきらめないと書いてあるのだ。
そうそうこれこれ! と、思わずテンションが急上昇するのを感じる。
諦めたらだめなのだ。諦めたらそこで試合終了だよと、かの安西先生もミッチーを諭していたではないか。
利用客はもとより、自分たちをも鼓舞する思いが溢れていて、ついついTwitterに載せたり、シェアしたくなってしまう。
あきらめない。私もいつかはバズりたい。シンプルかつ熱いメッセージに、胸を熱くしながら、私は勇んで電車に乗り込んだ。
 
すると、すかさず近づいてくるのは、小柄な美人。
要チェックや! と、すでに上がっているテンションがいや増す。
名札をチラッとチェックさせていただくと、やはり、アイドル車掌として有名な美人車掌さんであった。
偶然同じ車両に乗り合わせたおじさんが、彼女の熱烈なファンだったようで、興奮を全く隠しきれておらず、話しかけて握手をしてもらい、一緒に写真を撮ってもらって大はしゃぎしていた。
このように、職員がアイドル化することで、会いに行けるアイドル的な効果がもたらされるのも、バズの観点からはとても大きな要素だと思う。
 
そうこうしているうちに定刻となり、アイドル車掌さんがドアを閉め、電車が走り出した。
と思ったら、すぐに止まる。
各駅停車なのだ。
というか、全長6.4kmという、距離だけでいえば、品川駅から東京駅までとそれほど変わらないところに、駅の数が10あるのである。
新幹線ならば7分で駆け抜けるところを20分かけて進むのだから、そりゃしょっちゅう止まりもするだろう。
でも、しょっちゅう止まるからといって、苛立っている人は誰もいない。
もしも乗っている電車が品川から東京へ着くまでの間に10回止まったとしたら、間違いなくブチギレているであろう雰囲気のおじさんも、楽しそうに外を眺めている。
そして、電車が止まるたび、車掌さんの大ファンのおじさんはもちろん、乗り合わせた他の人々も子どものようにはしゃぎ、盛り上がりながらホームに身を乗り出して写真を撮る。撮りまくる。
中でも彼らが最も盛り上がっていたのが、5駅目の笠上黒生駅だ。
ここは、駅の命名権をシャンプー会社が買い取ったのだそうで、本名の笠上黒生よりも黒々と大きな字で「髪毛黒生」と書いてある。
黒髪祈願、発毛祈願がされた有り難い駅名標なのだそうで、車内アナウンスでそのことが告げられるや、撮影も忘れ、ホームの駅名標に向かって祈りを捧げる人、柏手を打つ人、それを写真に収める人……。
阿鼻叫喚の大騒ぎとなった。
そのような騒ぎをしながらも、電車は終点の外川を目指してひた走る。
私は、一駅手前の犬吠埼で降りることに決めていた。
同じようにここで降りるおじさんも多く、一様に子どものように手を振りながら、去りゆく車両に向けてカメラのシャッターを切りまくっていた。撮った写真はきっとSNSに載せるのだろう。いいねもいっぱいもらえるに違いない。
 
そして、犬吠埼に降りたら降りたで、またすごい。
売店にはさまざまな銚子電鉄グッズが目白押しなのだ。
ぬれ煎餅、まずい棒といったお菓子類や、記念きっぷや駅名標キーホルダーのような定番の鉄道グッズに混じり、線路の石を拾って洗ってワックスを塗って缶詰にしたものだとか、電車のレールをカットしたもの、レールを枕木に固定する犬釘で作られた栓抜きなど、なかなか切れ味の鋭いものがしれっと置いてあるのである。
さらに、店内にはまずえもん神社の鳥居について、というポスターが貼ってある。
鳥居を建立する予定だったが、諸般の事情により延期とした、ついては鳥居という名字の職員がいるので代替とする、という内容であった。
しかも、よく見ると小さい字で、鳥居さんは最近電車運転士の試験に合格したので縁起が良い、という豆知識まで書いてある。
つい誰かに言いたくなるしょうもなさ。聞かされた方も、しょうもな! と言いながらもつい笑ってしまう。
もしかして鳥居さんの合格をただ自慢したいだけなんじゃ? じゃあ僭越ながら、SNSで拡散をお手伝い……とすら思えてしまう絶妙さなのである。
 
どこもかしこも、要チェックや! アンビリーバブルや! と、私のテンションはさらにうなぎ上りだ。
帰りの銚子電鉄の車内でも、こらあチェックすることが多すぎるでこの路線…! と、再訪を誓ったのであった。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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