メディアグランプリ

要領が悪くてよかったこと


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記事:しお(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
私は「要領が悪い」「不器用」と言われるタイプである。
要領が「悪い」とか、「不」器用とか、字面だけでも、何だかとてつもなく劣った人間みたいだ。実際、こういう人が損をすることはあっても、得をすることは少ない。
 
私自身の体験だけ振り返っても、100は悲しかったエピソードを挙げられる自信がある。
母親が料理を教えてくれるはずだったのに、手際の悪さにだんだん不機嫌になり、終いには「テーブル拭いてて」と追い払われたこと。眠い目をこすって作り上げた工作の宿題を、「ちゃんと手間暇かけてつくって」と先生に突き返されたこと。部活をサボりがちな同級生よりも大会の成績が悪かったこと。仕事があまりにもできないので、バイト先で怒られっぱなしだったこと……
 
今挙げた中でも、最後の1つは切実だった。自分の欠点が誰かを困らせてしまうことが、目に見えてわかったからだ。
次々に飛んでくる言葉の断片を整理しつつ、その場でこなして、動きながら次にすることを考えて……。スローペースの脳みそでは、とても太刀打ちできなかった。フル回転してもカラカラいうだけで、期待された仕事の何分の一もこなせない。
 
とりわけ怖かった先輩と二人きりのシフトだった日、ついに言われてしまった。
「迷惑だから」
もっと長い台詞だったけれど、この一言が胸に突き刺さった。それまで周りの人が思っても口にしないでおいてくれたであろう感情を、全部集めて投げつけられたような気がした。
一番忙しい時間帯に二人しかいない中、いちいち手を止めさせられる煩わしさが爆発したのだろう。申し訳なかったし、情けなかった。かといって、生まれつきのトロさを、どうすればいいのかもわからなかった。
 
次の日、しょんぼりしながら出勤すると、先輩の愚痴を聞いたらしい社員さんが教えてくれた。あんなに怒られた理由は、全く予想外のところにあった。迷惑だと言われたのは「自分でやろうとしない」姿勢に関してだった。
私の作業を見ていてまどろっこしくなった先輩が手を出したり代わりにやってくれたりするのを、無意識のうちにあてにしていた。教わったことのない仕事はやり方を聞くのではなく、「できないのでお願いします」で対処していた。
 
大概のことが上手くできないので、失敗しないように、惨めな気持ちにならないように、最初からやらない。自分のできる範囲から動こうとしない。そんな卑屈さがすっかり身についていたので、怒らせてしまった本当の原因に気づかなかったのだ。
 
それ以来、ほんの少し意欲的に動くようになった。「〇〇してもいいですか」と聞くことが多くなった。ちょっとクセのある常連さんに、1人で対応してみるようになった。
すると、ミスはしばらく増えたけれど、きつい叱られ方をされることは減った。怖かった先輩が、気さくに話してくれるようになった。
何より、失敗したり待たせたりすると、「もっとうまいやり方」、つまり「要領」を見つけたい気持ちに駆られた。出勤する前に、今日はどんな方法を試すか考えるようになった。
 
あわや数ヶ月で挫折しそうだったアルバイトだが、学生の中では最年長になるまで続けさせてもらっている。仕事を教える立場になって、要領が悪くてよかったかもしれないと思えることが、初めて1つできた。
 
それを感じるのは、例えばこんな時。
教えるときに渡したボロボロのメモを、「これが一番わかりやすいんです」とポケットから出しては指さして仕事を進める後輩を見たとき。「前に〇〇さんに教わったんですけど、何度も聞くのも、と思って」と、わからなかった部分をこっそり聞いてきてくれたとき。
 
新人のやらかすミスやわからないポイントは大抵自分も経験済みなので、相手の頭の中を想像してアドバイスしてあげられる。細かい質問が何度も飛んできてもイライラしないし、相手も気軽に聞いてくれる。
よかったことは、自分の言葉で後輩を助けてあげられることだ。最初から無意識にできたり、感覚で身につけたりしたことは、人に説明するのが難しい。
 
仕事を覚えるのが地図を作る過程だとすれば、私は飛行機で見下ろすのではなく、壁をつたって歩きながら線を引いてきた。この辺に落ちてる石ころが危ないとか、ここからここまで意外と時間がかかるとか、細かい書き込みもたくさんしてある。
後輩は、飛行機の先輩を普段は真似すれば良いと思う。上空からしか把握できないこともたくさんある。でも、いざ地上に降りてみたら上手くいかない、なんでそのルートをとるのかわからない、と悩むことがある。そのときには、私の等身大の地図が役に立つかもしれない。
これまでかけた迷惑のお返しとして、今は「落ちこぼれをつくらない」ことに役割を見出している。
 
要領が悪いことは、始めの時点ではやっぱり「悪い」し、損である。こっちに歩けば道に迷い、あっちに歩けば沼にはまり、そんなまどろっこしくて危なっかしい道のりをわざわざ、なぜか選んでしまう。
ただ、天を恨んでうずくまっているのか、這ってでも進んでやろうとするのか。それによって、「悪い」という評価の片棒を担う他人の目が変わってくる。
そして、道を引き返した足跡や、飛び散った泥が、もしかしたら、「こっちは行き止まりだよ」「あっちの沼には気をつけて」と、後に続く人の助けになるかもしれない。「ここを歩いた人がいるんだ」と、励ましてあげられるかもしれない。
振り返ったとき、そういう光景をたまにでも見ることができたら、こんな自分だけど、くさらずにやってこうと思えるのである。
 
 
 
 
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2020-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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