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オススメノタンドリーチキンタベタイ


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記事:ちゃんなな(ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
 
 
エスニック料理店が好きだ。
いや、正確には「片言の日本語で強気の売り込みをしてくる店員さんがいるエスニック料理店」が好きだ。
 
インドにはビリヤニという米料理がある。
米と肉・魚介類・野菜をたくさんのスパイスと炊き込んだ、”インド風炊き込みご飯”だ。日本でも近年少しずつメジャーになってきた。
“炊き込みご飯”と書いたが、ビリヤニの調理は非常に複雑な手順を踏むそうだ。炊飯器に材料を入れてボタンを押せば出来上がるものではない。そのため都内に数多あるインド・パキスタン料理店でも、提供する店は限られる。
 
エスニック料理マニアの友人曰く「日本人の味覚では想像できない美味しさ」。
彼女から滔々とビリヤニの魅力を聞き、耐えられなくなった私は夫と上野駅の外れのインド料理店「ハリマ・ケバブ・ビリヤニ」に向かった。
食べログ評価:星3.75。なかなかの高評価。期待できそうだ。
上野駅から徒歩8分。店頭で「ニフンマッテ」と言われ、実際2分待たされて、入ってみると店員さんはやはり全員インド系の方だ。
清潔感もありながら、エスニック料理店らしい活気ある店内。漂ってくる未知のスパイスの香りに期待が高まる。
着席すると注文より先にインド料理店特有のドレッシングがかかったセットのサラダが出てくる。ずいぶんせっかちだ。
負けじと勢いで店員さんを呼び、目当ての「チキンビリヤニ」を注文する。
 
するとここで店員さんが早口で一言。
「オススメノタンドリーチキンタベタイ」
「え?」
一瞬何を言われたかわからず、顔を見合わせる我々。
「オススメノ、タンドリーチキン、タベタイ?」
タンドリーチキン。
スパイスをつけてこんがり焼いた鶏肉。きっと美味しいだろう。
ビリヤニへの期待感にすっかりやられていた私はよくわからないまま、
「……タンドリーチキン食べたい」
と口走っていた。
店員さんは笑顔で去っていった。
 
周りを見渡すと、左の席の家族連れもビリヤニと一緒にタンドリーチキンを食べている。右のカップルも。
「オススメノタンドリーチキンタベタイ」
客単価を上げる魔法の呪文のようだ。
日本語のネイティブならこう言うだろう。
「ご一緒にタンドリーチキンはいかがですか?」
でも、これじゃこんなに売れない。
 
「食べたい?」と聞かれると答えは「食べたい」か「食べたくない」の二択。
本格インド料理店のタンドリーチキンを想像してほしい。お金を払うかどうかは置いといて、シンプルに食べたい。
だから「食べたい」と口走ってしまったのだ。
店員さんの売り文句、いやコピーライティングは見事だ。
「いかがですか?」などと遠回りせず「食べたい?」と客の本能に訴えかける表現ができている。
片言であるがゆえに。いや、片言であるにも関わらず、表現が的確なのだ。
そう気づいたとき、「くやしい」と思った。
私たちは毎日、日本語に苦しんでいるから。
 
切羽詰まって「はやくメール返信して!」と催促を送りたいはずが
「先日お送りした内容はご検討いただけましたでしょうか。
お忙しい中不躾なお願いで恐縮でございますが、
ご確認のほどどうぞよろしくお願いいたします」
……こうなってしまうのは、どうしてなのか。
第一言語なのに、いや第一言語だからこそ、言いたいことを直接言えないルールをみんなに課して、言葉をぐるぐる巻きにすることに時間をかけすぎている。
丁寧にラッピングした言葉の芯にある本音は、少しでも受け取ってもらえているだろうか。
もっと言いたいこと、言いたいように言っていいんじゃないの。
 
それから店員さんの「タベタイ?」を思い出すと、少しは簡潔に書けるようになった。
「先日のメールについて、
早急にお返事をいただきたくご連絡差し上げました。いかがでしょうか。
どうぞよろしくお願いいたします。」
うーん、もっと直球でもいいだろうか?
 
ちなみに、ビリヤニは友人の言うとおりとんでもなく美味しかった。
鳥ガラやコンソメのような風味を期待して食べると、大きく裏切られる。
感じたことのないスパイスの刺激。後から湧き上がってくる米と肉と野菜の旨味。
世界にはまだまだ、未体験の美味しいものがあると思い知らされた。
 
それからディープなエスニック料理店が大好きになった。
メニューの知らない料理名に首を傾げていると店員さんが笑顔でやってきて言う。
「サンゼンハッピャクエン、コース。ニンキメニューゼンブハイッテル、タベル?」
のぞむところだ。
未知の旨味との遭遇とともに、私のガチガチに凝り固まった日本語もほどけていく。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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