メディアグランプリ

書くことから逃げないで、自戒の念を込めて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:森真由子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
だめだ……。
今日こそ本当に、本当にだめかもしれない。
月曜日になると、毎回同じことを考えている。
唸っては小さくため息をつき、そしてまた天を仰ぐ。
どうか私に面白いネタが降ってきますように。
 
この祈りも虚しく、やはり何も降ってこない。
何のネタかって?
同じ講座を受講している人はピンとくるかもしれない。
私は天狼院書店のライティング・ゼミという講座を受けており、毎週月曜日に2,000文字の課題を提出している。
テーマは自由だが、最後まで読者に読んでもらえるような文章を書かなければいけない。
 
この課題を書くために、私はいつもネタの神様が目の前に舞い降りる姿を想像する。
「ほれ、お主、今日はこのネタを与えよう」
神様は私の頭に手をかざす。
「おおー、きたきた、ネタの神様ありがとう!これで今週もバッチリです」
こう言って、私は猛スピードでパソコンのキーボードをたたきながら瞬時に記事を書き上げる。
 
……。
そんなことがあったらいいのに。どうしてこれぞというネタがないのだ。
今日こそだめだ、逃げ出さなければ。
そうだ、どこか電波の届かない遠いところに逃げよう……。
 
だけど、私はやはり逃げ切れない。
だって、自らこの講座に申し込んで、身銭を切っている。
自分で望んでやっているのに、逃げるなんて阿呆ではないか。
 
今は通信で受講しているため、他の人が苦しんでいるのかどうか見えていない。でもネタ切れによる息切れ寸前の人は私だけではないと信じたい。
本当は月曜日ぎりぎりではなくて、土日の間に自分が納得のいく文章を書き上げて、余裕しゃくしゃくと提出したい。
でも結局出掛けたり本を読んだりして、パソコンをろくに開くことすらできていない。
 
そして、また月曜日がきてしまった。
早く書かなければ、そう思っているのに今度は買ってきた漫画をおもむろに開いてしまった。
 

「描けッ!」
 
ちょうど主人公である明子が、高校生のときに絵を教えてもらっていた先生に頭をわし掴みにされ、真っ白のキャンバスに頭をぶち込まれているシーンだった。
うわ! なんというタイミング。私は出会うべくしてこの漫画と出会った気がした。
 
読んでいた漫画は、東村アキコさんの『かくかくしかじか』。
東村さんご本人が高校生から社会人、そして漫画家になるまでの姿を描いた自伝的漫画である。
漫画家になるために彼女は美術大学を目指すことにし、同級生の紹介で家から1時間も離れた教室へ通うようになる。
そこの先生はときに竹刀を振り回す熱血系で、ひたすら「描け!」と生徒たちに言い放つ。
 
そう、この漫画には何回も「描け」という言葉が出てくる。
例え描きたいものがないと言っても、それでも「描け」と先生は言う。
とにかく「描け」の連呼である。
 
苦しみながらとりあえず描き進める彼女、彼らを見ていると、心臓がばくばくしてくる。
漢字は違えど、自分の今の状況と重なってしまうから。
「書けッ!」
先生からそんな風に言われている気がしてくる。
 
は、はい、先生っ!
書きますとも、ええ、書きますとも……。
逃走を諦めて、やっとノートとパソコンを開く。
 
もう逃げられない、でもネタがない。
それでも脳から絞り出して、思い付いたことをノートにメモしていく。
講座で習った方法にならい、必要な項目を最低限書き記した。
 
そしてそのままパソコンのキーボードの上に手を置く。
一瞬諦めようかとまた迷いが頭をよぎったが、思考の手綱をしっかりと引く。そうでもしないとすぐに離れていってしまいそうだった。
 
一文字目をパソコンに打ち込む。
もうあとは続けるしかなかった。
 

 
気付けば1時間ほど時間が経っていた。
自分の書いた文章を読み返す。
そして毎回不思議に思う。始めるまではとても億劫だったのに、なぜか毎週書いている。
天から降ってこなければ、地面から湧いてこないかとあれほど懇願していた面白いネタはやはり見つからないのだけれど、それでもなんとか人様に読んでもらえそうな文章は書けているようだ。
 
残念ながら私は天才ではなかった。つくづく書いていて思う。
でも天才ではないからこそ、明子の先生が言うように、とにかく書くしかなかった。
ライティング・ゼミの終盤になって、やっとこの結論に至った。
 
思えば過去にこういうことはたくさんあった。
例えば、中学生だった頃、体育で12分間走の授業が何回かあった。
文字通り12分間ただひたすら走り続けて、グランドを何周走れるかを測る。
走り始める前はいつも嫌な気持ちでいっぱいだった。
運動部に所属しているのに、他の子より走れなかったらどうしよう。そんな心配ばかりしていた。
逃げようかと思ったときには、教師の「スタート」の合図が出されていた。
そして気が付けば、みんな一斉に走り出していた。
 
始める前はあんなに嫌だったのに、いざ走り始めてみると意外と走れている。
そういえば、走ること自体はもともと好きだったんだ。
走り出してからやっとそのことを思い出しては、楽しんでいる自分がいた。
 
今、文章を書いている自分も同じだ。
書き始める前は、何を書くかが決まらなくて、全てを放り出したい気分だった。
でも逃げずにちゃんと書き始めたら、気が付けばここまで書いていた。
 
そうだ、得意ではないかもしれないが、もともと自分の言葉で何かを書くこと自体は好きだった。
読書感想文も、手紙も、書き始めたらいつも楽しんでいた。
そもそも好きという気持ちがどこかにちゃんとあったから、このライティング・ゼミを申し込んだんだった。
 
中学生時代の12分間走のときのように、どうやら始める前からちょっと考えすぎだっただけかもしれない。
あれこれ考えすぎずに、ただ走ればよかったんだ。
 
これから書こうと思っている人。
そして、これからも書き続けるであろう未来の自分へ。
忘れた頃にまたこれを読み返してほしい。
 
書いてみたいなら、書き続けたいなら、どうしたらいいかって?
テクニックや概念をある程度学んだら、きっとあとはこれしかない。
とにかく、書け!
 
 
 
 
***
 
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2020-09-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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