八重歯はかわいい？
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記事：吉田さゆり（ライティング・ゼミ 日曜コース）
左右にニョキと生えている八重歯。
笑うと、目立つ八重歯。
私の場合、特に右上の犬歯は、笑うと唇にくっついてしまい、口を閉じても歯がそこだけ出ている状態になる。
また、口内を噛む確率も高い。
小学校高学年のころは、男子から、
「牙がある！」
「ドラキュラだ！」
と、からかわれ続けた。
鏡を見るたびに八重歯が目について、うんざり。
丸のままのリンゴをかじった後の自分の歯型を見ると、パッと見、人間が食べた跡とは思えない。別の動物の歯型のようだ。自分のものとはいえ、ちょっと不気味。
その上、歯磨きがとても大変。子供では磨き残しが出る。それが虫歯になる。
私にとっては、八重歯は、タバコと同じ。
百害あって一利なし。
本当に、いいことなんか何もなかった。
それにもかかわらず、両親にとって、八重歯はかわいいものだった。
両親だけでなく、私が子供の頃は、八重歯は可愛いものという考えが一般的だったと思う。
特に母は、テレビで八重歯の可愛いアイドルが出ていると、
「やっぱり、八重歯はかわいいわね。お前も同じ様に八重歯があってよかったね」と嬉しそうに言っていた。
八重歯があるという事は、歯並びが悪いという事だ。
なんて発想、両親にはなかったのだろう。
そんな両親だから、私が八重歯も含めて歯並びの悪さを気にする事が、全く理解できない様子。そして、何度も八重歯は可愛いと聞かされた。
そのうちに、私も、母が可愛いと言っているのに、これ以上、否定するのは、母を傷つける、母を否定する事のような気がして、言えなくなってしまった。もちろん、歯列矯正をしたいなんて口が裂けても言えない。
中学生の頃には、
少なくとも、両親の管理下にある間は、矯正をあきらめるしかないと思った。
早く大人になって、働いて、自分のお金が出来たら矯正しよう。
そのために、
矯正はお金がかかるよ。
健康な歯を抜歯するよ。
口にワイヤーをつけると恥ずかしいよ。
と自分で自分にいい聞かせ、折り合いをつけた。
高校生になってからは、誰も私の八重歯を、牙だ、とか、ドラキュラだ、と、からかう人はいなくなった。
それでも、私は八重歯や歯並びのことがずっと気になっていた。
それは恐らく、中学生の時に、日本と海外での歯並びに対する意識の違いを知ったことも少なからず影響している。
アジア圏も含めて海外では歯並びを重視する人は多いらしい。国によって歯列矯正は健康保険適用だ。そして、歯並びが悪いと就職に影響したり、貧しい人と判断されるたりする国もあるようだ。
他の国で、八重歯をかわいいというのを、残念ながら私は知らない。
私が中学生当時、両親は歯並びを気にしていないし、友達も歯列矯正していない。もちろん、友達と歯並びの話なんて、全く話題になったことがない。
そんな環境にいると、誰も気にしていないのに、私だけが気にしている。歯並びに執着するなんて、異常なのかもしれない。私は変な人間なのかもしれない。と思う事があった。
なので、この海外の歯並び事情は、私を、安心させた。
と、同時に、世界と日本の認識の違いに愕然とした。そして、遅かれ早かれ、日本も歯並びを意識する人が増えてくるだろうなと思った。
結局、私が歯列矯正をしたのは、結婚し、子供を産んで、子供が学校に行きはじめた後。
本当はもっと早くやりたかったが、矯正にかかるお金を作るのに時間がかかったからだ。
そして、矯正を始めてすぐに、義母から言われた言葉は
「もう売れた（結婚した）のに、今更、矯正するなんて、ばからしい。金がかかるのに、そこまでして綺麗になりたいの？」
この時、はじめて歯列矯正と美容整形を同じようなものと思っている人もいるのだと気が付いた。
私の母からは、
「折角の八重歯なのに、もったいない。そんな金具なんかつけて、ちょっとみたんなかねー（とってもみっともないわね）」と言われた。
今より10年以上前の話だけれど、
この二人の反応は想像通り。多くの人がそんなものかもしれないなと思った。
たしかに、義母がいう通り、矯正はお金がかかる。
歯並びにもよるが、私の場合、初期費用で数十万円。それとは別に通院の度に、数千円の支払いが発生した。そして、通院期間はとても長い。また、途中で器具の購入もあって、合計すると、100万円を超えた。
今は日本でも昔より歯並びを気にする人は多い。
そして、実際に歯列矯正したいと思っている人も多いようだ。実際、矯正をする歯科医院も増えてきた。昔より矯正人口は増えと思う。とはいえ、まだまだ少ない。それは、この、お金がかかり過ぎるという点が大きな原因の一つだと思う。
実を言うと、ここまで話しておきながら、私もお金が原因で途中から続けられなくなったのだ。
子供に想定外の教育費がかかる様になって、途中であきらめるざるを得なくなった。
幸い、矯正も後半になり、下の歯にはまだ多少問題はあったが、上の歯はほぼ終了していたため、折り合いをつけた。
もちろん、今は、一時的にあきらめただけ。いつか再開したいと思っている。
歯並びは、他の身体の部分と同じで、健康のためにとても大事。
かみ合わせがよくなると、肩こりや頭痛の改善もあると聞く。顎等の関係から、顔つきも変わるかもしれない。
かみ合わせが良くなると、運動能力や、歌声等の、声の発生にも影響するだろう。かみ合わせが良くなるだけで、得られるメリットは多い。
今後、日本でも、歯並びやかみ合わせが大事という意識が今より浸透すれば、その後の健康や人生に、もっと違いが出てくるかもしれない。昔、歯医者は歯が痛くなる様な、問題が起きてから行くところだった。今は虫歯予防や歯周病予防といった、問題が起きる前に行くところになってきた。
そんな風に、みんなの意識改革が起こると、国も重い腰を上げる事にならないだろうか。
甘いかな。
国こそ意識改革が必要だと思うのだけど。
健康保険適用とならないのはあまりにも痛すぎる。
何にせよ、最初の一歩は、一人一人の意識から始まる。
その一人一人の意識の積み重ねが大きなうねりとなるのだ。
未来はもっとよくなる。
《終わり》
＊＊＊
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