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道具の発展は善ばかりでもない


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記事:寺井 由佳(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
先日、近所の先輩から衝撃的な話を聞いた。
先輩は、農家の後継ぎである清(きよし)さん、50代半ばである。
 
「農薬撒くから、家の戸閉めて、中に入っておられ」
 
この地域は、米を育てている兼業農家が多く、住宅の近くに田んぼがある。
「農薬撒くから、家の戸を閉めるように」
という言葉は、そういう時期になると子供の頃からよく聞いていたフレーズなので、何の違和感もなく、指示に従っていた。
私は、家じゅうの戸を閉め、換気扇も止めて、家の中にこもることにした。
農薬の臭いも好きではないし、やはり農薬は人体にはあまり良くないものという認識が昔からある。
できれば、農薬を使わずに米を作ってほしいとも思う。
無農薬栽培は大変だと思うので、多少の農薬使用は目を瞑るしかないと思っている。
 
衝撃的だったのは、以前より、農薬の濃度が濃くなっている可能性があるというのである。
 
「ドローンを持ってる人がうらやましい」清さんは言った。
清さんは若いころから腰が悪く、元々農作業をするのが大変な身体である。
 
「ドローンだったら、陸地でリモコンをコントロールするだけだから絶対楽だよな」
「このホースを持って田んぼに入るのは、足で踏ん張らないといけないから腰に負担かかるんだよな」
 
現在、清さんたちの農薬の撒き方は、ホースだけを持って田んぼに入り、散布していくやり方である。農薬は、水に溶かしたものを陸地のトラックに積んでおいて、それをホースで引くようである。
 
「それでも、昔よりマシだけど。昔は、タンクを背負わなきゃいけなかったから、本当に腰が痛かったよ」
 
ホース型の一世代前の農薬の撒き方は、農薬が入ったタンクを背負っていた。山登りをするような大きなリュックサックくらいの大きさのタンクだった。小さなモーターもついていて、重量があったと思う。それはそれは腰に負担がかかると思う。
 
それより前は、肩に籠をかけて、手で撒いていた。
私が知っているだけでも、農薬の撒き方は五世代くらいある。
ドローンが出現する前は、小型ヘリコプターである。
 
「ドローンや、小型ヘリは高いらしいよ。うちみたいな兼業農家には買えないよ」
「でも、それはそれで良いのかもしれないな」
「ドローンで撒くときは、農薬の濃度が濃いらしいから」
「ドローンだと稲から結構離れた高いところから散布するでしょ?空中に飛び散って効果が薄れるから、濃度を何倍も濃くするみたいだよ」
「ホースの方が、地面の近くで撒けるから、そこまで濃くしていないみたい。昔よりは濃くなっていると思うけどね」
「本当は農薬自体を使わない方が良いけど、草取りはもっと大変だし、しょうがないよな」
清さんも諦め気味であった。
 
清さんの身体のことも考えると、私は何も言えなかった。
 
「ドローンや小型ヘリで散布しているの見たら、近づかないようにしなよ」
 
そう言って、清さんは作業に入っていった。
 
現在、日本の農業従事者の平均年齢は、60代後半と言われている。
農作業は体力的にきつい仕事だと言われている。
作業が楽になる機械や便利な道具があれば使いたい、と思うのは誰しもであろう。
しかし、便利な道具にも弊害があるとしたら、使用するのは非常に悩ましいところである。
道具の弊害ということを私は考えたことがなかった。
衝撃だった。
 
私が子供のころは、家の近くで蛍も見られた。メダカやおたまじゃくし、ザリガニもたくさんいた。
しかし、今はほとんどいない。
宅地開発により、田んぼも減ったり、水路が変わってしまったという環境の変化もあると思う。
原因は一つではなく複数絡み合っていると思うが、やはり農薬の影響は切っても切り離せないだろうと思う。
記憶は定かではないが、そういわれてみると、蛍が見られなくなったのは、徐々にではなかった。いつ頃からか、ぱたっと見られなくなったのである。
昔、農薬を使用していても、蛍はいたのである。
蛍が見られなくなったのは農薬の濃さが関係していたのかもしれない、清さんの話を聞いてそう思った。
蛍などの自然環境に良くないことは、人間の身体にも良くないことであろう。
農薬の濃さと蛍の関係は、今となっては想像の話ではあるが、現在、農薬が濃くなっていることは事実である。
そこに道具の発展が絡むことを私は考えてみたことがなかった。
道具の進歩により、直接的に身体への負担が減り良いことだとしても、間接的に身体には良くないことだとしたら、進歩や発展を手放しでは喜べない。悲しいことである。
 
私は今まで、道具の進歩は良いことだと思ってきた。
発展は、良いことばかりでもないと思い、やりきれない気持ちになった。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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