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第三者だからできること

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:高橋拓希(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「学生は2年間だけだからね」
 
この言葉が常に私たちを苦しめ、そして行動へのエネルギーとなり、私たちを奮い立たせるのでした。
 
新潟県小千谷市塩谷村。以下、塩谷。
塩谷は2004年に発生した新潟中越地震の被災地であり、現在では、たった18世帯、人数にして50人いるかいないかの集落、限界集落と呼ばれる地域です。
 
大学3年生から、ボランティア活動を通じて、人と人との関係性を探究するゼミに所属しており、その一環で、山の中にひっそりと存在する塩谷に研究活動として訪問していました。もちろん瓦礫撤去など、物理的な支援は必要ないのですが、震災によって失われたコミュニティを、関西から訪れる学生が作り、地域住民と交流し、震災、人間関係、共生を学びます。
 
塩谷に訪れると2、3日滞在するのですが、毎晩、飲み会があります。コップ並々に注がれたビールを一口しか飲んでいないのに、すぐに注がれ、飲みつぶれることで認められる、そんな風習のようなものがありました。
 
そんな飲み会のとき、塩谷の住民から放たれた「学生は2年間だけだからね」という言葉は、酔いを覚ます重いボディブローのように、私たち、塩谷に関わっていたメンバー6人を苦しめていきます。
 
大学3年生から卒業までの2年間しか関わらないのに、そして社会も知らない学生が、この地域に来て何になるんだ。遊びに来ているだけじゃないか。震災を経験していないのだから何も分からない。
 
あくまで学生。学び、という建前のなか遊びにきているだけと思う住民も多くいました。
 
頭を抱えました。自分たちのような小さな存在に一体何ができるのだろう。どんな価値を提供することで塩谷との関係性を強化できるのだろう。そして何か腹が立つ。まだ出会って間もない人になぜこんなことを言われなければならないのだ。これまでのゼミのシステムが原因となって、その言葉を発せられている。どうすればいい。考え続けました。今のできることは何なのかを。
 
そして、まずできること、それは「塩谷に毎月行き続ける」ということです。月1回にとらわれず、月2回でも3回でも、メンバー6人のうち行ける人が行き続ける。名前と顔を確実に覚えてもらう。やることがなくても、大阪から8時間、夜行バスに揺られながら、行き続けました。
 
この作戦は成功しました。
 
「あれ、また来たの」「よく来るねぇ、暇なの」
 
なんて言ってもらえるようになり、顔と名前をを認識してもらえるようになりました。しかし、これでは、塩谷の人たちに対して何もできていない。次に考えたことが、塩谷集落のマップ作りです。
 
なんの縁もゆかりもない地域に対して、私たちのような第三者からみた塩谷をマップにしてまとめようと考えたのです。
 
一軒一軒の家を写真に撮り、手書きのイラストにして、模造紙に描き込んでいく。また、一つひとつの家の特徴を示す、アイコンのようなものを作ります。例えば、牛を飼っている家であれば、牛の絵をアイコンにするなどしてイラスト家の横に貼り付けます。そして関西に住む私たちから見た、塩谷のおすすめスポットも描き込みました。絶景ポイントや、当時、携帯の電波が繋がらなかったので、唯一電波が入るスポットなど、地域に住んでいる人にとっては当たり前すぎて気にならないこと、外部の人間だから分かることをマップの中に盛り込んでいきます。
 
マップ完成とお披露目の際、地元の新聞社にも取り上げて頂くほどの評価を得ました。そしてそのマップを塩谷の市民センター的役割を担っている建物に飾っていただいています。
 
マップ作りを起点として、それから塩谷の風景と住民の方々を撮ったカレンダーの作成、塩谷の歴史を振り返り、外部の人に魅力を伝えるために写真展の開催など、たくさんの試みを通じてこの地域に関わってきました。
 
すると自分たちが卒業するとき、
 
「この塩谷を第二の故郷として、また帰ってきてね」
 
と言っていただき、卒業してから3年ほど経った今でも塩谷との関係が続いています。
 
この経験から私が学んだことは大きく二つあります。
 
一つ目は、「今自分のいる立場においてできることは何なのかを考え行動する」です。
 
私は震災の被害にあった経験がありません。だから被災者の気持ちに寄り添うにはどうすれば良いのかを模索し続けました。
 
そこで私たちにできること、それは外部にいる第三者だからこそわかることを考え、発信することでした。マップ作りのように住民にとっては当たり前のことは関西にいる学生にとっては非日常のことで、それが魅力になります。これを伝えるのが自分たちの役目だと思い行動し続けてきました。
 
客観的視点と自己分析。会社に属していても、スポーツでも、自分たちを俯瞰して見つめ直し、自分の立場の中で、一体何ができるのかを考え、行動することが大切なのではないでしょうか。
 
二つ目は「他者目線で考える」とうことです。
 
私たちは塩谷という地域が好きでした。豊かな自然においしいご飯、温かい人びと、どこか懐かしい雰囲気に惹かれていました。しかし、自分たちの想いだけで突っ走ることはできません。学生として何のために訪れているのか、なぜ、田植えのやり方やお米の収穫のやり方、野菜の育て方を教えてくれているのかを考え、自分たちの学びを発信することが他者、塩谷にとって一番の恩返しであり、自分たちがやるべきことでした。
 
他者がどのように考え、なぜその行動をとってくれているのか、喜んでもらうために何をするのか、他者目線で物事を考えることは、ビジネスにおいても、人間関係の構築においても非常に重要なことだと思います。
 
塩谷は今頃、お米の収穫の季節です。怒られながらも愛情を持って接してくれた第二の故郷で得たことを、これからの人生の大きく生かしていきたいです。
《終わり》
 
 
 
 
***
 
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2020-09-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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