あなたは芸術を「何」で楽しみますか?
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:櫻井麻緒(ライティング・ゼミ平日コース)
私は芸術のセンスがまるでない。
音楽も美術も、からっきしだった。
特に美術なんてひどいもんだ。
中学生の時、美術の時間で木の板に花の絵を描いた。
自分では桜を描いたつもりだった。
集中して丹精を込めて描いた桜。
完成した絵を母に見せると、一言言われた。
「これ虫の絵?」
どうして桜が虫になるのか、全くもって検討がいかないが、それほど美術の才能がないということだった。
音楽も、ピアノの習い事は嫌々やっていたため当然上達せず。
……とまあ、こんな具合に私には芸術の「げ」の字もセンスを持ち合わせていなかった。
だが、自分には芸術のセンスがゼロだとしても、私は芸術が大好きなのだ。
クラシックやジャズを「聴く」こと、絵画や彫刻、そして焼物を「観ること」。
時間を見つけてはコンサートホール、博物館、美術館に足を運び、自分の「耳」と「眼」を潤してきた。
五感を刺激し、心で芸術を楽しむこと。
それが、私の何よりの楽しみだった。
そしてそんな私は、実は「絶対音感」の持ち主だったりする。
「ある音の高さを他の音と比較せずに識別する能力」
これが、絶対音感の定義だ。
芸術のセンスがからっきしな私だが、なぜか耳だけは異常によかった。
そんな耳を潤すには、やはりクラシックコンサート。
重厚なオーケストラの演奏を聴き、心に響く演奏を体験することが何よりも心を潤すことになるはずだ。
だが、あいにく耳を通して入ってきた音楽が、私の心を潤すことはあまりなかった。
それは、私が音楽を「心」で聞かずに「脳」で聞いていたから。
……ん? 「脳」で音楽を聞く? どういうこっちゃ?
恐らく、これを読んだ人の頭の中には?マークが三つくらい浮かんでいることだろう。
「脳」で音楽を聴く……絶対音感を持っているが故の苦しみなのだ。
楽器が奏でる音は全て、「ドレミファソラシド」という「言葉」に脳の中で変換されてしまう。
要するに、聞こえてくる音は言語化されてしまうため、果たしてこれが「心で音楽を聴く」ことか疑問だった。
脳で聞いていることは、感性を富ますことになるのだろうか。
「心に響く音楽」っていうけど、私は心聞いているのだろうか。
……本当であれば「心」で音楽を聴きたい。
だが、どうしても音が脳内で言語化されてしまうため、もはや「心」で聴くことを諦めていた。
絶対音感のデメリットは日常でも起こる。
カフェで本を読もうものなら、カフェで流れているBGMが言葉と化し、本の内容が全く入ってこない。
クーラーの音や時計の針の音が、これもまたドレミとなって、夜寝れない。
そんなこんなで、私は自分の持つ「絶対音感」があまり好きではなかった。
「絶対音感を持っているなんてすごいね! 羨ましい!」
幾度となく羨ましがられたが、私はあまり嬉しくなかった。
「心から音楽を楽しめない、カフェで集中できない、夜寝れない。こんな三重苦のどこがいいのさ!!!」
っと、私はいつの間にか嫌気がさし、自分が「絶対音感」を持っていることを周囲の人に言わなくなった。
そして絵画に関しても、私は「心」で観ずに「脳」で観ていた。
展覧会に行って、名作といわれるものを前にして、私はつい説明書きを熱心に読み込んでしまう。
そして、先入観たっぷりに絵画を鑑賞してしまうのだ。
何よりも、「心で芸術を楽しむ」ことができない。
これが、芸術を愛する私にとっては耐え難かった。
……
三月、コロナが、芸術界を襲った。
殆ど全てのコンサートが、美術館の展覧会が、中止となった。
芸術を愛する者として、音楽に、美術に触れることができないことは苦痛でしかなかった。
六月。
徐々にイベント規制が緩和され、コンサート・展覧会も復活してきた。
私は早速、ピアノのコンサートに出かけた。
もう「心で聴く」ことはもはや諦めていた。
ただ、芸術に触れたい一心で生の演奏を聞きに行った。
演奏が始まる。
ショパンのバラードが優雅に奏でられた。
私は、いつの間にか演奏に聞き入っていた。
もはや、そこには「脳」も「心」も関係なかった。
コロナ禍で、コンサートや展覧会は「不要不急」扱いされ、世界中の芸術活動の「時」が止まった。
街から音楽が絶え、絵画の題材となるべき人々の営みが中断した。
そんな中で芸術に飢えていた私は、久しぶりにコンサートに出かけたのだ。
そして演奏を聴きながら思った。
「脳で芸術を感じようが、心で芸術を感じようがそんなの関係ない。触れることが大切なんだ」
コロナで芸術が止まってしまったことを受けて、気が付いた。
自分の耳で聞いて、目で見て、直に芸術に触れることが何よりも大事であると。
触れることによってはじめて、自分の心が潤う。
そもそも触れなかったら、自分の感性を磨くことはできない。
脳だろうが、心だろうが、自分自身が芸術に触れることによって、それは絶対に自分に響いている。
今まで、「脳」だ「心」だとこだわっていた自分が馬鹿らしくなった。
芸術に触れる機会そのものが貴重であり、そして、大切なんだ。
もう、自分の「何」で芸術を楽しもうが、自分の思うようにやろう。
それが本当に芸術を楽しむことであり、そして、芸術へのリスペクトだ。
そう気が付いた私は、コロナで止まっていた芸術鑑賞を再開するべく、コンサートに、展覧会に、足しげく通っている。
***
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