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振り子


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小池友妃子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「手を握っていて欲しい……」
主人の左腕をぎゅっとつかんだ。
 
51歳の誕生日がいよいよ明日と迫った日。
私の心臓は、口からポロッと勢いよく出てくるのではと思うほどドキドキしていた。
 
1999年1月。
私と主人は、新年の食事会で出会った。
「いくつ?」
女性慣れをして、いかにもモテそうな男の子が、目の前に座り、話をしてきた。
「いくつに見える? あなたは?」
「俺? 24歳。同じくらい?」
「そうそう。ちょっと上かな?」
「25歳?」
「まぁ、それくらい」
これが、私と主人との初会話。
 
主人が数人の女性とハグをしている姿を見て、軽い。と思ったにも関わらず、私も帰り際に誘われた主人からのデートの約束になんとなく一回くらいならと応じてしまった。
手慣れているのか主人は、初デートの翌日に早速告白してきた。
これまでの人生で、こんなに積極的に男性からアプローチされたことがない私は、さすがに嘘もついていたし、適齢期でもあったので、遊んでいる暇はないと思い、丁寧にお断りをした。
 
「年齢詐称」 これが私がついた嘘。
 
まさか告白されるなんて思っていなかった私は、悪気がなかったとは言え、年齢をごまかしてしまったことを後悔した。
 
本当は29歳。
めちゃくちゃかっこ悪く感じ言いにくかった。
 
「30歳じゃないから大丈夫。とりあえず付き合ってみようよ」
私たちのお付き合いは、主人のこの軽い気持ちから始まった。
そして、それはどんな映画よりも見応えのあるストーリー展開が繰り広げられるものとなった。
 
付き合って1ヶ月が経ったとき、主人の仙台転勤が決まり、遠距離が始まった。
障害は遠距離だけではなかった。
主人の両親から5歳も年上であるという理由からの大反対。
数人の男性からのアプローチ。婦人系疾患による闘病生活。極めつけは上司からレイプされそうにもなった。
 
会いたくても、なかなか会うことができない私たち。
次から次へと起こる多くの障害を2人で乗り越えていったことで、私にとって主人はかけがえのない人となり、4年半の交際を経て私たちは結婚をした。
 
ごく普通の幸せな生活をしていた私たちではあったが、長女が3歳になった頃から夫婦関係にヒビが徐々に入り始めた。
サザエさん一家になったことからの苦悩。大病発覚による挫折等。ヒビはどんどん大きくなっていった。
 
次女を出産し、復職した職場でパワハラを受けるようになってからグッグッグッと一気にヒビは音を出しながら深く広がっていった。
「どうしよう……。 どうしよう!」
「大丈夫。大丈夫。」
夜中になると、「どうしよう」と「大丈夫」という言葉を繰り返す私。
奇声を発し、呼吸困難になり、倒れることもあった。何もかもが辛かった。
気持ちをぶつける矛先は主人しかいなかった。
 
当然、主人は出て行った。
残念ながら、私の気持ちを受け止めてくれることはなかった。
職場環境が変わったことで、私は落ち着きを取り戻したが、今もなお主人は別室で寝ている。
8年間、私たちは一緒に寝ていない。
せめて手だけでも触れたいとお願いすることすら、私にはできなくなっていた。
 
「精神的に一杯いっぱいになっていたのは分かっていたのだけど、どうしていいのか分からなかった」
今年の春、主人が何気なく知人に話していたこの言葉により、私は大きな勘違いをしていたことに気がついた。
主人は冷たかったのではない。
どんどん変わっていく私にどう接していたら良いか分からなかったのだ。
主人もとても辛かったのだ。
 
付き合っているときの私は、2人で手と手を取り合いながら一緒に障害を乗り越えていこうと努力していた。
しかし、結婚してからの私は、主人が守ってくれるから大丈夫だと、勝手な解釈をするようになり、一緒に乗り越えていこうともせず、全てを主人に押しつけていた。
私がこんなに辛いのにどうして貴方は何もしてくれないのと、原因はすべて主人だと思い込み、怒りの感情を全て主人にぶつけていたのだ。
 
私の感情が激しくなればなるほど、心の中にある振り子の動きは激しくなった。大きく揺れれば揺れるほど不安定にもなり、ありとあらゆるところでぶつかり痛くて痛くて仕方がなかったのだ。
そして、激しさゆえに私の中の振り子の振動は、主人の心の中の振り子にも伝わり、嫌な揺らし方をし始めてしまっていたのだ。当然主人は、「大丈夫だから。一緒に頑張っていこう」と言ってギュッとして欲しかった私の気持ちなど分かるはずもない。
今思っていることを主人に伝え、謝りたい。
強くそう思うようになっていたが、勇気がなかなか出なかった。
 
9月に入り、意を決して主人に2人だけで話をしたいとラインをした。
「ちょっと心配していた」
短くも愛情がこもった主人からのメッセージが返信されてきた。
嬉しかった。これで十分とも思ったが、きちんと伝える場を設けた。
 
「私ね。今からめちゃくちゃ恥ずかしいこと言うよ。明日で51歳。あと9年で60歳になるの。そう思うとこの頃すごく不安になってきたの。だから勇気出していうよ。実はね。ずっと言えなかったことがあるの。あのね、結婚してからも毎日手を握って欲しかったんだ。でも恥ずかしくて言えなかったの。そしたらだんだん分かってくれない貴方に怒りの感情をぶつけるようになっていた。本当にごめんなさい」
夫婦になったからと、さも当たり前のように自分のことを分かってくれるものだとエゴイストになっていた私。そのことにやっと気づいたことを伝え謝った。
 
主人は優しい笑顔で、主人の左手首をつかんでいる私の右手の上に右手を重ね
てくれた。不思議と徐々に私の中の振り子の動きがゆっくりと静かな揺れになっていくのを感じることができた。
 
私の中にある振り子。
激しく揺れるときもこれからもあるであろう。
でも、その揺れを感じながら、主人といるときには、その揺れが心地よいもの揺れにすぐに戻せるように、これからは自分に素直に正直に生きていきたい。
 
私の中にある振り子。
今は、どんな揺れ方をしているのかなんとなく感じることができている。
 
《終わり》
 
 
 
***
 
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2020-09-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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