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白髪探しは宝探し


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:谷津智里(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
たまに鏡の前で、髪の根元をめくる。
根元にキラッと、光るものがある。
指先で慎重につまんで、グイッと引っ張る。
プチン、と抜ける。
それをひらりとくずかごに入れる。
もう一度、鏡に向かう。
何度か繰り返す。
 
「抜くのは良くない」なんて野暮なこと言うなかれ。
後生だから抜かせてほしい。
白髪染めするほどではないのだ。
丁寧に髪の根元をめくっていくと、時々キラリと光る程度なのだ。
それでもふと髪をかき上げた瞬間にそれが見えれば、
見た人に「あっ、白髪」と思わせてしまう。
それを防ごうというだけなのだ。
身だしなみなのだ。
 
これが習慣になったのは、確か1年くらい前からだ。
美容室で鏡に向かって座っていて、美容師さんが私の髪を乾かすために根元をめくったその瞬間、キラッ、と光るものが見えたのだ。
あれ、こんな風に見えることがあるのか。
それに気づいてしまったから、それを探してたまに鏡に向かうようになった。
 
しかし不思議なものである。
白髪は全体の中では圧倒的少数なのに、目立つ。
光るのだ。
まるで無数の凡人の群れの中に見出される特異な才能のように。
だとすれば、本当は彼らを大切に育てなければならないというのに、現状は厄介者である。
頼むからおとなしく、一般大衆に紛れていてほしい。
 
こんなに目立つのは、日本人が黒髪であることが大きく起因するだろう。
金髪の人だったら、こんなに目立たない。全体が輝いているのだもの。
歳をとったらゆっくりとグラデーションするように、色素が薄くなっていくのだろう。
白髪を探そうとしたって、見つけるのが難しいかもしれない。
探そうとすら思わないほど自然に変わっていくのかもしれない。
まことに羨ましいことである。
 
2018年、「グレイヘア」という言葉が流行語大賞にノミネートされた。
白髪を隠すのではなく活かしてそのまま見せていこうという考え方だ。
近藤サトさんが、悩んだ末にそう決心して心が自由になったというエピソードがあちこちで披露され、話題になった。
 
「ありのままの自分」を見せて自由に生きる。
その考え方はとても素敵だと思うし共感するけれど、例として出てくる「グレイヘア」の画像には、正直、素敵だと思えないものも多かった。
えー? 結局老けて見えてない?
「良いもの」としてディスプレイに映し出される画像の数々を、手放しでは褒められない自分がいた。
 
そんな私だが、「グレイヘア」という言葉が世に出るずっと前から、憧れていた言葉がある。
 
「銀髪」。
 
白髪を活かすというより、全部が白い。光輝くように真っ白なヘアスタイルだ。
 
私がそれを最初に認識したのは、高校時代に舞台で伊藤ヨタロウさんを見た時だ。
伊藤ヨタロウさんは知る人ぞ知る、ミュージシャンで俳優で音楽プロデューサー。
当時、Zazou Theater(ザズーシアター)という演劇ユニットの公演に出演していた。
特徴的な声、独特のしゃべり方。ロックな出で立ちから投げられる柔和な視線。
たまらない色気のある人である。
その伊藤ヨタロウさんが、まさに「銀髪」だった。
 
まだ高校生だった私にはそれは軽い衝撃で、舞台の余韻と相まってその優美なビジュアルが脳裏に焼き付いてしまった。
なんて美しいのか。
それ以来、いつか白髪だらけになることがあったらヨタロウさんみたいな銀髪になりたい、とおぼろげに思っていた。
 
で、鏡の前である。
私は、40代に入った割にはまだ白髪がほとんどない。
見た目には少し茶色がかった普通の髪色である。
同級生に聞くと、早い人では30代半ばから白髪染めをしているというから、ラッキーな方なのだろう。
そんな私でも、根元をめくっていけば数本は光るものを見つける。
どんなペースで進行するのかわからないが、これから徐々に増えていくのだろう。
 
40を過ぎたから、歳をとるということについてもそこそこ考える。
健康にも以前よりは気を使うようになった。
それでも、ありがたいことに今のところまだ「歳をとったなあ」とまでは思わない。
人生100年時代と言われるが、健康寿命はおおよそ80歳くらいまでであることを考えると、折り返し地点といったところか。
半分、と意識して、来し方行く末を思うと、ああこれからだな、と身が引き締まったりもする。
まだ先は長い。
元気でいなくちゃ。
 
さて、私が銀髪になるのはいつ頃だろう?
20年くらい後かしら。
銀髪になるのはきっと、けっこうな変身だろう。
その歳になって、新しい自分に出会う感覚はどんなだろう。
人生がどんな風に見えてくるだろう。
 
「グレイヘア」を調べてみると、黒髪の日本人は、綺麗に見えるようになるまでの移行期が難しいとある。
けれど白髪を育てる過程で、これまでにはなかった色やヘアスタイルに挑戦できるともある。
ピンクとか、アッシュグレイとか?
今の私がそんな髪に挑戦するのはいろいろな面でハードルが高くて無理だけれど、いずれ、「もういっそのことピンクにしてしまおう」と思い切れる瞬間が来るのだろうか。
そう思うと、ワクワクしてくる。
移行期も、それはそれで楽しめるかもしれない。
 
いつかヨタロウさんみたいな、光輝く銀髪になる日に向かって進んでいるのだとしたら、今、鏡の前でキラリと光る数本を見つける作業も宝探しに思えてくる。
私が人生を歩くのに合わせて、それは少しずつ、少しずつ増えてゆく。
 
ある記事で、綺麗なグレイヘアにするためのポイントを読んだ。
それによると、髪のコシとボリュームは、保っていなければいけないそうだ。
言われてみればもっともだ。
白髪を抜くと、毛根を傷めてそこから髪が生えなくなってしまうことがある、とあった。
なんですって? それは大変!
今度からは抜くのをやめて、根元からそっと切ることにしよう。
今はまだ隠れていて欲しくても、彼らには20年後の私の変身のためにじっと息を潜めて、元気で待っていてもらわなくてはならない。
 
「あなたの出番はまだ先だよ。活躍できる時がそのうち来るから、今は我慢して」
 
キラリと光る彼らとそんな風に対話する日々を、鏡の前で楽しんでいこう。
まだ遠いいつの日か、輝く銀髪の自分に会える日を夢見て。
 
***
 
 
 
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2020-09-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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