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お墓参りの前と後


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:キムラアヤ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「うん、わかった、考えておく。来週の日曜日ね。はい、はい、もう切るよ」
 
「ちゃんと来てよ。みんな来るんだから。お寺さんに、12時集合だからね」
 
母からの電話だった。実家の両親は、年に2回、お墓参りに行っている。今年はコロナの影響で、お盆にお参りできなかった。きっと、何となくきまり悪い感じがあるのだろう。
 
「ちょっと面倒だなぁ」などと思いながら電話を切った私は、ここ数年、実家のお墓参りから、少し足が遠のいていた。
 
「日曜日のお墓参りに行くの?」
 
「行かなーい」
 
そっけない返事が、一人の弟からLINEに入った。
みんなが行くわけではないようだ。
いつもだったら、これを見て私は行かなかったと思う。ただでさえ、自宅から1時間30分くらい電車に乗っていくことが億劫なのに、今は加えてコロナの心配がある。できれば長時間、同じ電車には乗っていたくない。
 
「やっぱり、行くのをやめようかなあ」
 
そんなことを考えていると、LINEの着信音が鳴った。
 
「お姉さん、お墓参り行かれるんですね! 会えるのを楽しみにしています!」
 
もう一人の弟のお嫁ちゃん、義妹からのメッセージだった。このメッセージを見て、私の気持ちが反転した。
 
「行くよ。日曜日だよね。会えるのを楽しみにしているね」
 
思わずそう返信した。
 
彼女は妊娠6ヶ月。年が明けると、新しい家族が誕生する。
コロナ禍で、仕事も持ち、混んでいる電車で通勤しながらの妊娠は、きっと不安な気持ちも多かったことだろう。
万が一、彼女がコロナに感染してはいけないと、妊娠が分ってからは、私たち家族は一度も会っていない。だから、義妹に会えるというチャンスに、心が動いたのだ。
 
両親はもちろん、家族みんなが初めて新しい命を迎えることに、ワクワクしている。
 
「あ、お義姉さーん!」
 
待ち合わせ場所にいた彼女は、元気そうな笑顔で、私に手を振っていた。
 
「久しぶりだね、体調はどう?」
 
「つわりも治まって、今はおなかが空いて、空いて、どうしようって感じです」
 
ニコニコしたその表情を見て、ほっとした。
ふんわりとしたやわらかな雰囲気が纏われ、彼女が優しさに包まれていることを感じた。
 
「おなか、触ってもいい?」
 
見ればわかるくらい、結構ふっくらとしてきたおなかを触らせてもらうと、なんだか幸せな気持ちになった。言葉では表現しきれない、母という温かさと、そこにある命の尊さを感じた。
 
ぼちぼちと歩き出し、お墓へ向かった。
久しぶりにお墓の掃除をした。
4基あるお墓をひとつひとつ丁寧に拭き、お線香をあげ、お花を供えた。
やっぱりスッキリした気持ちになる。
そして、その前でみんなで手を合わせ、各々祈った。
 
あっという間に、お墓参りを終えた。
うちの家族は、お墓参りの後、いつものお寿司屋さんに行くのが恒例だ。
家族が集まって食事をするのは、お正月以来。
席につくとすぐに、話好きな家族は、待ってました! とばかりに会話がスタートした。
 
「うちは古いお墓から4基もあるから、大変だよねえ」
 
と、父が義妹に言った。すると彼女は、大きくなったおなかを撫でながら、ニコッとしてこう返した。
 
「でも、あそこに眠られている方々がいらっしゃらなければ、この子もいませんから」
 
私は、その言葉にハッとした。
ご先祖様を敬い、感謝し、お参りする。それが小さい頃から漠然と思っていた「お墓参り」というものだった。
そして、それ以上お墓参りについて、深く考えることも今までなかった。
 
大人になってからは、お墓参りに積極的ではなく、どちらかというと行かない理由を探していた。
でも、今日、なぜお墓参りをするのかということを義妹に教えてもらった。
 
家族というものは、一度も途切れることなく「紡がれて」いくものなのだ。
先祖が命を紡ぎ、私たちと命が繋がり、新しい人生が開かれて、また次の世代へと続いていく。
会ったこともない先祖の人生が紡がれて、今、私がここにいる。
 
頭ではわかっていたつもりだった。
でも、今日、新しい命が誕生するという「熱」のようなものと、それを内包する母となった義妹から、その尊さを教えてもらった。
 
私の目の前で、生まれてくる新しい家族の「名前」について、みんなで話をしている。なんとも幸せな時間だ。
こんな時間を過ごせるなんて、本当に心から感謝の気持ちがわいてきた。
新しい命の存在が、ここにいる誰もが、命を紡がれて存在している尊い存在だということを語りかけてくれているようだった。
 
面倒くさいとおもっていた「お墓参り」が、自分のルーツに思いを巡らせ、紡がれた命の尊さを実感できる機会であるということに、今更でも気が付けてよかったと思う。
コロナ禍で、家族とのコミュニケーションも思うようにいかない日々が続いているが、そんな今だからこそ、お墓参りをしてみるのはどうだろうか。
 
ご先祖様の今は亡き命と、これから生まれてくる命。その両方に思いを馳せていると、秋の温かい日差しが差し込んできた。
 
今度お墓参りをするときは、かわいい家族と一緒だろう。楽しみだ。
 
 
 
 
***

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2020-09-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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