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笑顔という名のアレに気づいた日


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:鈴木かおる(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「この動画をみて、どう思う?」
「どんな感情が湧いてきたか、ざっくばらんにみんなで話してみたいんだよね」
 
彼女は言って、1本の動画を共有してくれた。
彼女は、少し前に立ち上げた対話の会の仲間だ。
 
私たちは、対話を大切にしたいという想いを持って、その会をスタートさせた。
お互いの対話への想いを尊重しあい、
それぞれが望む対話を実現していき、
活動をとおして自分の「大切にしたいこと」「ありたい姿」を探求し続け、
違いを認め合いながら協働する豊かな社会を実現していきたい、と、
なかなかに大きな目的のもとに集った仲間たち。
 
普段は、自分たちが実施したワークショップの振り返りや、
家族や職場で起こった対話から自分がどう感じたかなどを持ち寄り、
語り合うことが多かったので、
動画を見て出てきた感情を分かち合う、といった、
少し毛色の異なる対話の誘いに興味が湧き、その動画を視聴した。
 
「line up!」
 
さあ! 並んで! 今からレースします!
先生らしき男性の言葉から始まる、4分弱の動画。
 
そこではアメリカの学生たちが広い芝生の広場に大勢集まり、
横一列に並んでいた。ヨーイドンして勝った人は100ドルがもらえるという、
一見明快なルールのアクティビティ。
 
「走る前にいくつかの項目について聞きます」
 
このあたりから何やら様子が変わってくる。
 
「その項目が自分に当てはまれば2歩前へ、
当てはまらなければ、今いる場所に留まってください」
 
えっどういうこと?
 
そう思っていると、次々と言葉が投げかけられていく。
 
「両親が結婚を続けている人は2歩前へ」
「父親がいる家庭で育った人は2歩前へ」
「携帯電話を止められる心配をしたことがない人は2歩前へ」
「次の食事の心配をしたことがない人は2歩前へ」
 
前に進む人たち、留まる人たち。それぞれの表情が映し出される。
 
何回目かの問いかけが終わり、
「前に進んだ人たちは後ろを振り返って。
すべての項目が、君たちのしてきた行動とは関係がない。
それとは関係なく、前にいる人たちが有利だろう。
でも、前にいる人たちは、自分たちが競争するのに有利だって気づいてすらいない」
 
……。
 
「この競走に勝って100ドルを得た人は、他の人を理解する機会に。
これが人生の縮図。自分が努力してリードしたんじゃない」
 
そうして容赦なくGoが出され、走り出す学生たち。
 
場面が変わった。
同じ場所で皆が輪になり手をつないで目を閉じている。
 
「このアクティビティで何も学ばなかったら、馬鹿だ」
 
そう、動画は締められていた。
 
ものすごく端的に言うと、アメリカの社会のシステムを、
学生たちに説明したアクティビティの動画だった。
 
なんともいえないもやもやが私の中に生まれていた。
 
そうか、この「なんともいえなさ」を言葉にすると、
自分の中にある何かがわかるかもしれない。それを知りたいな。
 
後日改めて設けられた対話の場では、
この誘いに興味を持った7人がオンラインで集まり、
話を持ち掛けたくれた彼女の進行で、
その「なんともいえないもやもや」をひもとく作業を行った。
 
彼女は少しずつ順を追って、
たくさんの問いを投げかけてくれた。
 
「抱いた感情は? ワンフレーズで言うと?」
「それを感じたのはどんなシーンだった?」
「なぜその感情を抱いたの?」
「どうしてそう思うの?自分の経験やルーツはどんなところに?」
「叶えたいことは?」
「自分の中の信念や望みは何?」
「じゃあ、どうする?」
 
ひとつひとつ言葉にして、集った皆とシェアしあった。
 
私が抱いた感情、それに名をつけるとしたら……。
悲しい、やるせない、つらい、難しい、
いろいろ浮かんだ中に「恥ずかしい」という感情が潜んでいることに、気がついた。
 
もちろん、世界に格差があることは知っていた。
日本の中にも、貧困や教育格差の話が良く出てくる。
私たちは、生まれてくる場所を選べない。
 
しかし、身近で格差を感じたことはなかった。
 
私は私立進学高校で落ちこぼれ、私立文系大学で勉学以外に勤しみ、
あの動画で言うと、前の人を羨ましがり、
自分は何にもできないなぁなんて嘆いて、
振り返ったら多くの人がいる、ということを考えたことがなかった。
 
「自分は恵まれていない」とすら、思っていただろう。
 
社会人になり、自分なりに経験を積んで、
対話が大切だ、対話は世界を豊かにする、
そう信じて活動してきたけれど、私が今やっているのは、
明日のご飯に困っている人に、無邪気に、ご飯より対話、
と言っていることになるんじゃないだろうか、という恥ずかしさなのだと思った。
 
多様性を大切に、対話を大切にって声高に叫んでいた自分の無知に、
恥ずかしい、と、思ったのだ。
 
動画で印象的だった、1歩も進まない黒人男性の、何かを訴えるような瞳。
最初に2歩進む時、ヤッタ、1歩リードだって、なんのけなしに出た皆の笑顔。
 
そこに、格差の根幹があるように思えた。
1歩でも前に出た人は、無邪気に、周囲をマウンティングしているように、思えた。
 
格差は今すぐになくなるものではない。
対話で初めからすべてを解決はできない。
 
でも、あの無意識の笑顔が格差の根幹だって気づいたことは大事な気がした。
そして、今回の場を通して、誰かと語り合うことで、他人の考えに触れて、
それは違う、それは共感する、と自分のことをより深く知っていくことはやっぱり大切だし必要だと感じた。
 
対話で初めからすべてを解決はできないけれど、対話は意味のあることだと思えた。
 
皆と語り合う中で出てきた私が大切にしたいことは、
自分を、他人を知ろうとし続けること。自分を卑下しないこと。
今できることに没頭し、たまに視線を上げ、視野を広く持つこと。
 
そのために、何をするか。
 
やはり、自分が今できるフィールドで、ひとつひとつの行動をしていくことだなと思った。
 
そして、忙しない日々に流さながらも、自分の行動や想いを振り返る時間をとり、
大切にしたいことを忘れずにいること。
 
一発逆転はきっとない。
 
日々の積み重ねが、未来を作るんだろうと、
あらためて感じる機会になった。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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