メディアグランプリ

花と、同棲


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記事:鳥井 春菜(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
それは、近所のスーパーに買い出しに行った、とある土曜日のこと。
買い出しを終えて外に出ると、向かいに小さな花屋があることに気がついた。ふらりと覗いてみると、薄暗い店内で銀色のバケツに入れられて並べられた花たち。目を引いたのは、青いデルフィニウム。スッとのびた背筋に、ハッキリとした青色の花。思わず、そのまま連れて帰った。それが、私と花の暮らしの始まりだった。
 
実は、実家を出るまで、私の生活には当たり前のように花があった。
ガーデニング好きの母は、友達に「ジブリの家みたい」と言わしめる庭をつくった。毎日水をまき、時には肥料をやり、新しい苗を植え、伸びすぎた枝を剪定する。そして、庭の花を摘んでは、ダイニングテーブルやタンスの上、トイレの棚、玄関など、家のあらゆるところに飾っていた。そういうわけで、私にとって「花のある生活」というのは、ごく自然のものだった。
 
田舎育ちで、空き地で花を摘んで遊ぶこともあったし、母が「店の花」より「野の花」を好んだ影響もあって、花屋で花を買うことに私は縁遠かった。縁遠いというか、むしろ最初の頃の私にはわざわざ「花を買う」という感覚がなかった。しかし、あの日を境に事態は変わっていく――
 
花瓶なんて持っていないので、最初に買ったデルフィニウムは、ペットボトルの上を切って花瓶代わりにしたものにいけた。背の高いその花がのびのび広がるように、“ペットボトル花瓶”の高さは高めに設定。スッキリとした青は見ているだけで爽快だった。私は、なんとなく部屋を片付けた。
 
「花を買うって、こういうことなのか……」
私には、何かがわかりかけていた。実家では、花の存在が当たり前過ぎたのか、気付かなかったことに気付きかけていた。
そうして、次に淡いオレンジ色のバラを一本買った。立派なバラの一輪挿し。私はその大輪に思わず嬉しくてキスをした。とても可愛くて、なんだか贅沢な気持ちになったからだ。
 
夏の盛りには、ハツラツとしたひまわりが元気を分けてくれた。おまけでもらった小さな濃いピンク色のバラは思わず微笑んでしまうようなキュートさがあった。少し、強い気持ちになりたくて、濃い青色の小花のたくさんついた花を買った。
 
私が買う花には、そのときに自分が望むものが反映されていた。どんな気持ちになりたいのか、どんな自分でいたいのか。リンとした気持ちでいたいとか、もっと元気になりたいとか、そういうことが、私にその花を買わせていて、その思惑はきっちり果たされるのだ。
 
「どうせ、枯れてしまうのに、花を買うのはもったいない」
他人への贈り物ならまだしも、自分のために買うとなると、そう思う人もいるかもしれない。しかし、枯れゆく花が側にいるということは、それだけで癒しだ。買ってきたばかりのキレイに咲き誇る花も美しいが、少しに濁ってきた花瓶の水を変えながら、私は、少しずつくたびれていく花も美しいと思う。花の一生を眺めながら、その生き様を見せてもらっているような気持ちになるからだ。花は何もいわないし、動きもしない。だけど、日々着実に枯れていく。それこそが生きている証で、美しく咲いていることの素晴らしさをより一層引き立てる事実だと思う。
 
そう言えば、母が以前言っていた。一人暮らしの家に花を持ってきてくれる母に「花は枯れてしまうから、申し訳ない」と話す私に、こんなことを言ったのだ。
「いいのよ、それは花があなたの疲れを吸い取ってくれたってことなんだから」
どうやら風水か何かの受け売りらしいが、今の私にはあながち嘘でないように思える。確かに、花がしっかり生きて、ゆっくり枯れていく、その生き様を見ているとちょっと尊い気持ちになって、励まされたり癒やされたりするのだ。
 
先日、お祝いに、と友人から花束をもらった。
黄色とピンクと薄い紅色。淡い色合いの花束は優しく可愛らしく、こんな花束を私に選んでくれたことが嬉しかった。さらには「最近、花が好きみたいだから」と言う。彼女の心遣いと思いやりがそのまま詰まった花束だった。
花瓶にさし、数日後にもう一度ふやけてきた茎の部分を水切りし、また数日後には、とうとうふよふよになった茎は落として、花の部分を平たいお皿に水を張って浮かべた。花たちは形を変えて、何度も私に微笑みかけてくれた。そうなるともう、最後には茶色に枯れた花に「ありがとう」という気持ちでそっと別れを告げることになる。
 
花との暮らしというのは、そういうものだ。
植物は動物ほど生命的ではないけれど、それでも毎日彼らの中でも確実に時間が流れる。花を家に迎えるというのは、その生き様を迎え入れるということだと思う。リンと咲き誇る姿。ほころぶように花開く姿。そしてゆっくりしぼんでいき、色あせていき、茶色く枯れてしまう姿。そうした姿の全てから、励ましや支えやエネルギーをもらえると思う。
 
私は、これまでに買った花のことを、まるで付き合った恋人のように思い出せる。その花を迎え入れたときの感情や、花瓶に飾ったときの気持ち、一緒に過ごした日々のことを覚えているからだ。私の毎日に、花はやってきて部屋の空気を一瞬で変えてしまい、枯れていくことでその生き様を見せてくれる。そのことが、いつも私の力になる。
ほんの数百円。それは彼女たちと過ごすのにはあまりに破格。私はもう、花屋で花を買うことをもったいないとは思わない。花を買うことは、部屋の中に「花がある」状態をつくることではなく、「花がいる」暮らしをつくるということ。その同棲生活は、まるで本当に自分以外の誰かと暮らすように、新鮮で、驚きがあって、ときに敬いや感謝を呼び起こす。私はこれからも、きっと花を買い続けるだろう。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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