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私の祖母〜映画「フェアウェル」を見て思ったこと


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記事:橋本友美(ライティング特講)
 
 
「先生、だいぶ悪いかね?」
「よくないね、ガンだよ」
 
精密検査の結果を恐る恐る尋ねる祖母に、あまりにもはっきり言う先生。
付き添っていた母はどんな言葉をかけていいかわからなかった。いつも気丈な祖母だが、このときばかりはショックが隠せず、諸々の手続きは母にまかせ一人で家路についた。
 
米国で異例の大ヒットとなった「フェアウェル」という映画を見てこのことを思い出した。
 
映画の主人公は中国生まれのアメリカ育ちのビリー。うだつがあがらず悶々とする日々を送っている。中国に住む大好きな祖母ナイナイが末期ガンと診断されるが、両親と中国の親戚は本人には嘘の診断を話し、それどころか家族が帰郷することを本人が怪しまないように孫の結婚式まででっちあげるという。
米国では考えれらない家族の対応に、完全にアメリカ人として育っているビリーと、中国の価値観を重んじる家族のぶつかりあいをハートウォーミングに描いた作品だ。
 
私の祖母は、晩年はガンとともに生きた。冒頭の子宮ガンのあと、数年後に胃ガン告知を受ける。77歳と高齢だったが手術に耐えうる体力があるということで手術をした。そして、胃ガンの治癒から5年目、膵臓に転移。この時のガンの進行はあっという間で、近所のかかりつけの病院に入院後、まもなくガンセンターに転院。数日のうちに食べ物が口を通らない状態になった。私たち家族は医師から3ヶ月から半年の余命宣告を受けた。余命については、本人には知らせなかった。
結果的に、米国と中国の中間のような告知の形になった。
 
「食べれるようにするための手術をしましょうか」
 
主治医からの提案に祖母は喜んだ。祖母の頭には「食べられない=末期」、「手術できる=可能性がある」という認識があったからからだ。
 
手術後、病院の食事が出されたとき、入れ歯をはめようとしたが、痩せた顔の口には入らず、「入れ歯をつくりなおさなあかんな」と笑った。
食べられなかったのは入れ歯のせいではなかった。
ガンの進行は医師の見立てよりも遥かに速く、最初診断から1ヶ月半ほどで亡くなった。
 
父はよく言う。
「手術は失敗だった。どうせよくならないんだったら手術させなければよかった。手術の負担がなければもう少し長く生きられたかもしれない」
 
祖母は入院したとき、すぐに家に帰れると思っていた。部屋はまるで近所に買い物にでもでかけたような状態だった。手術なんかせずに、体力を温存すれば、身辺整理したり、やり残したことをやれる時間があったかもしれない……
父は手術に同意したことを悔やんだ。
 
たしかに、手術をせず余命を伝えたら、やりたいことができたかもしれない。でも、私は「手術」の選択は祖母にとってその時を生きる力になったと思う。結果として延命にはならなかったけれど、ささやかだけど「食べる」という将来への希望がもてたんじゃないかと思う。今日を生きるとは明日に希望を持つことの連続だから。
 
映画の中で、ビリーが「本人に本当のことを言わないのか?」と叔父に詰め寄るシーンがある。
叔父は「自分の人生は自分のものだと考える西とは、考え方が違う。」
 
「東では、人の人生は全体の一部。社会や家族の一部分だ。ナイナイ(祖母)に真実を話したいのは、罪の意識を感じるからだろう?家族はその精神的な重荷を代わりに背負うものだよ」と答える。
 
確かに、家族にとって告知しないという選択、ましてや嘘の説明は負担が大きい。看病で疲弊する中での前向きな演技は堪える。中国では、本人が真実を知って苦しむ代わりに、これらの負担を家族が全面的に引き受けるということなのだろう。
 
「中国では、人はガンで死ぬのではない、恐怖で死ぬ」
ビリーの母のセリフだが、恐怖を感じないためには、希望で頭をいっぱいにするしかない。「フェアウエル」の中国の家族は、ナイナイの悲しみは家族で引き受け、嘘の結婚式を思い切り仕切らせることで生きる希望を持たせた。
 
シチュエーションや方法はかなり違うが、本人に明日を生きる希望を与えたいという気持ちは、私の家族が祖母の「手術」を選んだときと同じだ。
 
私の祖母はそのときできることを一生懸命やる人だった。
口癖は、「人に負けんようにがんばらなあかん」
「何くそと思ってやらなあかん」
 
そんな風にいつも自分に厳しく一生懸命な人だから、手術という自分の可能性にチャレンジしたことを後悔していないはずだ。可能性を残しながらチャレンジしない選択を祖母が喜ぶはずがない。少なくとも私はそう信じている。
 
「フェアウェル」で祖母ナイナイが孫娘ビリーに語る。
「人生とは何をするかだけでなく、どう生きるかなのよ」
 
祖母は正真正銘、最後まで頑張った人だ。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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