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台湾で尿路結石になった話


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記事:一柳亮太(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「痛い、痛たたたた!」
午前5時、脇腹の痛みで目が覚めた。ここは台湾、台北駅前のCホテル。友人たちと来た台湾旅行最終日の朝だった。
 
寝ぼけながら、冷房で身体を冷やしすぎたのかと考える。今日は、夕方の便で帰国するだけなので、前日はお遊びまわって夜ふかしをしていた。夜市も回っていろいろ食べたけれど、危ないものは食べなかったはずだ。つい3時間前、寝る時には何ともなかったのに!
 
温まろうと、湯船にお湯を溜める。だが、この痛みはおかしかった。ふつう、腹の痛みには波がある。痛くなったり、スーッと引いたり。だが今回は、痛みが全く途切れずに襲う。しかも、これまでに体験したことがない痛みなのに、加速度的にさらに痛くなってくる。
 
もうダメだ。最後の力を振り絞って服を着て、スマホ画面に「左腹痛」と入力する。一番近くの宿に泊まっている友人に電話し、「助けて」と頼む。なんとか廊下を歩きエレベーターに乗る。1階に着いてよろよろと歩く私に、すぐベルボーイのお兄さんが寄ってきた。
 
「プリーズ、ヘルプミー」そんなフレーズを話す日が来るとは思わなかった。その瞬間、ベルボーイはこれ以上ない真顔になった。そりゃそうだろう、早朝によろよろエレベーターを降りた客が、「私を助けて」なんて言うのだから。
 
スマホの画面を見せると、すぐ椅子に座らせてくれた。その頃には大騒ぎになっていて、フロントの責任者が出てきたり、何かを聞かれて答えたり、走ってきた友人の焦った顔をみたり、と走馬灯のように光景が展開される。痛さのあまり、自分のことなのに現実から少し離れて見えるのだ。
 
タクシーに乗せられて、近くの大学病院へ行く。ありがたいことに、ベルボーイも同乗して、受付で説明してくれた。担架に乗せられたようだけど、実はこの時からあまり覚えていない。痛みは更に増して、「痛いいたい!」と叫んでいた。というよりも、叫ばずにはいられないのだ。意識が薄れつつも、こんな事を考えていた。「ああ、もうここで死ぬんだ。二度と日本の土は踏めない」
 
叫びながら診察が始まり、検査を受けたはずだ。はずだ、というのは、痛みで意識が飛んでいたから。鎮痛剤の点滴が始まったようだけど、全く痛みが引かない。意識はないのに、無意識に声を出してしまう。そんな状況なのに、部屋に1人で寝かされている。看護師さんが何かの処置に来たらしい。私が叫んでいると、彼女は抑揚のない、けれどちょっと親しみのある言い方で、私に合わせて言った「イターイイタイ!」
 
その声を聞いて、ふと力が抜けた。というのも、その後ははっきり思い出せるからだ。痛みも少し収まり、友人も戻ってきた。先生の話では、尿路結石とのこと。それは痛いわけだ。でもこのタイミングで、なんで!
 
「薬で痛さを抑えるから、今日は飛行機乗って大丈夫。帰ったらすぐに病院に行ってください」と説明され、チケットも無駄にならずに済んだ。会計のため、友人に頼んで両替へ行ってもらう。その間に薬が届き、請求書も渡される。だが友人は戻ってこない。どうやら銀行が混み合っているようだ。なかなか帰ってこない友人を待つ間、ふと薬の袋を見ると、氏名が違っている。別人の薬を渡された。順調だった今回の旅、最後になってトラブルが続出だ。
 
タイミングよく、暇そうな警備員のおっちゃんが話しかけてきた。薬について相談すると、彼もまた真顔になった。「ここで待て」と言って、慌てて行ってしまう。その間に、友人が会計を済ませて戻ってきてくれた。おっちゃんも薬剤師を連れて戻ってきて、今度は正しい薬を渡される。「ここで死ぬんだ」と思ってから、3時間後だった。
 
この旅行は、不思議なことばかりだった。普段、安宿ばかり泊まっている私が、今回に限ってふとそれなりなホテルを選んだ。1人旅ばかりなのに、友人たちと旅行をした。もし普段どおりの旅行だったら、言葉も通じず、スタッフが助けてくれたかは分からない。病院でもどうなっただろう。
 
面白いエピソードは沢山あったけれど、もうこんな旅行はしたくない。あの痛みは、自宅で経験しても嫌だ。だが、今こうして思い返すと、印象深い旅行になったと思う。すぐ状況を察知してくれたベルボーイのお兄さん、気を紛らわしてくれた看護師さん、自国語が話せない患者に丁寧な説明をしてくれた先生、そして薬を交換してくれた警備員のおっちゃん。出会った人の顔を思い出す。
 
そして今、最大の不思議に気づいた。私は中国語も英語も、簡単なフレーズしか話せない。だけれども、ホテルや病院の人たちと、意思の疎通が出来ていた。もちろん彼ら彼女らは、客や患者である私に接するプロたち。だから当然、と言われたらそれまでだけど、みな「仕事だからやっている」という領域を超えて接してくれたのだ。
 
私が無事帰国できたのは、出会った人たちの親切な気持ちに支えられたからこそ。次は私が、その気持ちを返す順番だ。
 
 
 
 
***
 
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2020-12-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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