私がうどん屋さんに通うワケ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:串間ひとみ(ライティング・ゼミ日曜コース)
ドアを開ける前から、だしのいい香りか鼻をくすぐる。昔ほど頻繁ではなくなったが、私が19年通ううどん屋さんがある。
19年前、業務命令で調理師の資格を取得するため、夜間の調理師学校に通っていた。火曜日から木曜日までが調理実習で、片づけが終えて家に着く頃には、日が変わることもあった。金曜日は授業で、終わりがだいたい20時半。調理実習の日に比べればだいぶマシだが、夕方までの先生としての通常業務を終えた後の授業は、正直辛かった。新しい土地での慣れない仕事。放課後、ほぼ誰とも話すことなく夜間の学校に行くという生活に、体も心もだいぶ疲弊していたと思う。
そんなある日、「うどんが好きだ」という話をしたところ、一人の生徒が、おススメのうどん屋さんを教えてくれた。彼女の家の近くのうどん屋さんで、家族でよく行くとのこと。家からだと職場とは反対方向のため、遠回りをすることになるが、気分転換のドライブも兼ねて、行ってみることにした。
初めてのお店に一人で入るのは、少し勇気がいる。思い切ってドアを開ける。
「いらっしゃいませー」
元気な声に出迎えられた。時間は21時を少し回ったところだった。だしの香りが、空き腹を刺激する。入り口近くのカウンター席に座った。勝手の分からない私の様子に気づいて、素敵な笑顔のスタッフさんが声をかけ、注文をとってくれた。それがO田さんだった。
驚く早さで、私が注文した「卵うどん」が運ばれてきた。
「温かい……」
一口すすっただけで、体いっぱいにしみわたっただしが、疲弊した心を包んでくれるような温かさを感じ、思わず涙が出そうになった。空腹なのもあり、うどんはとても美味しかったが、それ以上に、スタッフの中でも、ひときわ元気で、笑顔の素敵なO田さんに心が癒された。私は大満足で店を後にした。
その後、夜間の授業がある金曜日は、必ずと言っていいほど、そのうどん屋さんに通うようになった。
「お仕事の帰りですか? 遅くまで大変ですね」
いつもカウンターに座るため、時々O田さんと短い会話をするようになった。働いているのはO田さんの方なのに、なぜか私の方がねぎらいの言葉をかけてもらい、元気をもらうのだ。
大学生の頃、飲食店でバイトをしたことがあるが、閉店ぎりぎりに来るお客様は、正直嫌だなあと思っていた。そこからの注文だと当然片付けも延び、帰るのが遅くなるからだ。複数名のお客様ならならまだしも、私のような一人のお客様のために、お店全体の終了が延びるのは、正直割に合わないと思っていたのだ。
けれど、閉店ぎりぎりの時間であっても、O田さんの元気さと笑顔はいつもと変わらない。いつの間にか私のうどん屋さんに通う目的は、気分転換のドライブがてら好きなうどんを食べることから、O田さんに会って、元気をもらうことに変わっていた。
考えてみれば、これはすごいことだと思う。O田さんのように、一生懸命に仕事に向き合うことで、私という赤の他人に、明日を頑張れる元気を与えるのだ。他にも、工事の誘導をしている方々は、雨の日も、暑い夏の日も、凍えるような寒さの中でも、同じように仕事をして下っている。そのおかげで私たちは混乱せずに道路を走ることができる。当人たちは仕事だからと、自分たちの職務を全うしているだけかもしれないが、私には全くできる気がしないので、本当に頭が下がる思いだ。
私も、こんなことを生徒に言われたことがある。
「先生って毎日楽しそうですよね。俺もそういう大人になりたいです」
これは先生という職業になりたいという意味ではない。私が毎日楽しそうに仕事をしているという、個人に対する感想なのだ。どの職業もそうだろうが、上手くいかなくて落ち込むこともあれば、理想と現実の間で悩むこともある。それでも自分なりに必死で、生徒たちのためにと頑張っている姿が、たとえ一人であっても「いいなあ」と思ってもらえたなら、とても嬉しい。「「楽しそう!」というのは、最高の褒め言葉だ。
どんな職業でも、結局は人なのだと思う。商品やサービスを介在していても、その先には人がいる。直接は見えていなくても、人の頑張りが人を感動させるのだ。スポーツ選手がなぜ感動を呼ぶのか? それは紛れもなく選手のひたむきな姿に感動するからだ。一生懸命に何かに打ち込んでいるだけで、周囲の誰かを元気にする力になるのだ。仕事もそうだし、部活動や、趣味でもそうだと思う。多くの人に注目されなくても、頑張っている姿は、それだけで誰かの役に立っている。私にとってのO田さんのように。
私がこれまで20年近い教員生活をやれた功労者の1人は、間違いなくO田さんだ。O田さんの元気さと笑顔に癒されて、今日までやってこれた。直接自分の気持ちを伝えたことはないけれど、お会いするたびに心の中で本当に感謝をしている。私がうっかり有名人になって、テレビのトーク番組に出演するようなことがあれば、「深イイ話」として、絶対に太田さんのことを話そうと決めている。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」
〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168
■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」
〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325
■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」
〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984