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瞑想としての宝塚歌劇

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:シマザキ キミコ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「お芝居見に行ってみる?」
 
それは小学4年生の12月後半のことだった。
ある日、お昼過ぎに下校してきた私に母が突然お芝居を見に行こうと声をかけてきたのである。どうやら母の友人が見に行けなくなったチケットを2枚、急にもらうことになったらしい。
人生で初めて、生の舞台というものを突然見に行くことになったのである。
 
劇場は東京日比谷にある、東京宝塚劇場。
そもそもそれまで宝塚歌劇団という集団のことも知らず、歌舞伎も劇団四季も全く知らずに育ってきた。
なんだかわからないけど
(今までやったことのないことが経験できる、やったー)
という気軽な気持ちで、のこのことついて行ったのである。
 
演目は『ME and MY GIRL』というミュージカルで、月組というチームの公演。当時のトップスターは剣みゆきさんとこだま愛さんというお二人のカップルだった。宝塚には月組、花組、星組、雪組というチームがあることも、トップスターという存在がいるということも、勿論わかっていなかった。
 
それでも、劇場に入って座席に座り、しばらくするとブザーの音がして劇場が暗くなる。
突然オーケストラが音楽を奏で始め、その演奏にびっくりしつつもワクワクしていると、幕が開き、生の人間が目の前で歌ったり踊ったりし始めた。
(なにこれ、めっちゃ楽しい!)
わけが分からないなりに、その世界に圧倒された。
が、人の顔を認識する能力が異常に弱い私は、シーンや衣装が変わるたび、
(今出てきた人は一体誰なんだろう? さっきと同じ人なのかな?違うのかな?)というレベルで話を想像し、ストーリーを追っかけるのに必死であった。
舞台を見て全く理解出来なかったと母を悲しませたくなかったし、理解力がない娘だとがっかりさせたくなかったのだ。
 
舞台の内容は男性版シンデレラストーリーのようなもので、下町暮らしのカップルが主役だが、男性が実は貴族の跡取りだということが分かり、その遺産を相続するためには貴族としての教育を受けなくてはならなくなる。恋人の女性は身分の違いを実感して自ら身を引くが……、というお話だ。
 
明るく楽しいコメディミュージカルであったことも幸いして、舞台が終わって劇場を出る頃にはすっかり宝塚歌劇の虜になった。
劇場を出てすぐの歩道の上には、ガードレール代わりの小さな石のモニュメントのようなものがある。終演後劇場を出た私はポーッと空を見ながら歩いていたためその存在に気がつかず、何かにぶつかり転ぶかと思うや否や、お腹を中心にしてそのモニュメントの上に思いっきり乗っかってしまった。
手足をばたつかせても自力で起き上がることができない。まるで飛行機ごっこをしてもらっているような状態になってしまった。
すぐ母が助け起こしに来てくれ事なきを得たが、いかに心ここに在らずな状態であったかと、とても恥ずかしい思いがした。
 
それからしばらくは、宝塚を観る事が人生で一番の喜びになった。
もちろん舞台を見に行く事は簡単にできないので、NHKで時折深夜に放映される舞台中継を録画して繰り返し繰り返し見るのが専らだった。
小学校六年生の頃には第二次ベルばらブームなどもあり、私はますます宝塚の魅力にのめり込んでいった。
 
あんな舞台に自分も立てたら……と妄想しないわけがない。
しかし、宝塚音楽学校の募集要項には「容姿淡麗」という文言がある。
そして私は思っていた。
(自分は違うな……)
宝塚の舞台に立つ夢は、人生のかなり早い段階でついえた。
 
それでも、舞台の魅力にとりつかれた私は様々な舞台を見るようになっていく。
劇団四季をはじめとしたミュージカルのみならず、ストレートプレイと呼ばれる歌や踊りのないお芝居や、小劇場といったお客さんが100人入るか入らないか程度の小さな舞台まで様々に見に行った。少しずつ宝塚以外の舞台を見る時間が長くなっていき、いつしかすっかり宝塚からは足が遠のいていった。
 
それから数十年。
すっかり宝塚のことも考えなくなっていた頃、仕事で知り合った人がここ数年で宝塚歌劇にすっかりハマってしまい大ファンだという。
ちょうど間もなく宝塚で『ルパン三世』が行われると都内のあちこちにポスターが貼ってあった。
(宝塚でルパンか……)
どちらもそれぞれ自分が昔好きだった要素の掛け合わせ、しかしどんな仕上がりになるのか全く想像がつかない。
相変わらずチケットは手に入りにくいようだし諦めかけていたところ、知り合いがチケットの手配をしてくれて観劇のチャンスが訪れた。
 
宝塚劇場に足を踏み入れるのは十何年ぶりだろうか。
私は期待感と同時に少し不安でもあった。何故なら沢山の舞台を見ていくうちに宝塚歌劇のお芝居はとっても大仰であると気がついてしまったからである。今自分が好きだと思う芝居は、もっと肩の力を抜いた自然な演技だった。
(観劇している間中、芝居が大げさって思ったらどうしよう……)
そんな不安を抱えつついざ、オーケストラピットから開演前の楽器の音調整の音が聞こえてくるや、胸の高まりが抑えられなくなってきた。
(ヤバイ、既に贅沢で楽しい!!)
 
久しぶりの生演奏の舞台、豪華絢爛な衣装とデフォルメたっぷりのルパンのキャラクター達。宝塚でありながらきちんとモンキーパンチ先生の描いたルパン三世の世界でもあるという舞台。
高い技術力に支えられた歌と踊りにあっという間に魅了され、
(いつ来るの? まだなの???)
と、待ちに待ったルパンのテーマ曲がラストシーンで流れ始めた時
(待ってましたぁああああああ!!!!!!)
と、心の中で大騒ぎだった。
特にコーラスの「♪ルパンザサ〜ド」はたまらない。
(生オケのルパンのテーマに、生コーラスの「ルパンザサード」いただきましたぁああああ!!!!)
 
久しぶりに宝塚を生で観劇して劇場を出た時、高揚感と共に物すごいエネルギーを得たような気持ちになっていた。
 
ちょうどその頃私は仕事がうまく行かず、行き詰まって悩みがちな日々だった。起きている間は常に何を改善したらいいのか、どんな点が不足しているから仕事がうまくこなせないのか、そんなことが始終頭の中をぐるぐると駆け巡り気持ちの余裕が全くなかったのだ。
 
(舞台の間、なんっっっっにも考えなくて済んだ、めっちゃスッキリした……)
 
何にも考える必要のない舞台だった。ただ明るく楽しく、その世界に浸っていればよかったのだ。
 
(すっごい元気もらえた……)
 
どうしようもなく辛いと感じるようなことも、宝塚は吹き飛ばしてくれたのである。
 
(今まで、瞑想しようとしても何も考えないで居られたことなんてないけど、瞑想の効果ってこう言うことかな……)
(いや、もしかしたら、瞑想以上の効果だったかもしれない)
 
世のなかの、生きていくのに必要がないと思われてしまいがちなあらゆるものには、きっとこんな効果を持つものが他にもたくさんあるだろう。
映画、音楽、遊園地……
このコロナ禍で、活動を縮小せざるをえなくなった多くのもの、そこにはやっぱり人が生きていくのに必要な要素がきちんとあるのだ。
 
私にとっては、それが宝塚歌劇だった。
これからも、辛くなった時、しんどくなった時、
瞑想の代わりに、その世界に浸っていこうと思う。
 
 
 
 
***
 
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2020-12-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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