fbpx
メディアグランプリ

写真集のような短編集は、疲れた心に効いて、想像力を刺激する


*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2021年1月開講】天狼院「リーディング&ライティング講座」開講!本を「読み」、そして「書く」。「読んで終わり」からの卒業!アウトプットがあなたの人生を豊かにする「6つのメソッド」を公開!《初心者大歓迎!》

記事:石川サチ子(リーディング&ライティングゼミ)
 
 
13年前、祖母が亡くなりました。
偶然その瞬間に立ち会い、生と死の境について考えるようになりました。
 
それは夕飯時でした。祖母は、ご飯を食べていました。突然、意識が無くなり、茶わんと箸を落とし、ぐったりと倒れてしまいました。
 
一緒にいた家族は、驚いて、「おばあさん、おばあさん」と言いながら、祖母の身体を揺すり起こしました。
私は、祖母の手を握り、「おばあちゃん、おばあちゃん」と何度も耳元で叫びました。
祖母が遠くへ行ってしまうと察して、祖母の背中を追いかけるように、だんだん大声になっていました。祖母の手はピクリとも反応しません。身体も動きません。さっきまで赤身を帯びていた顔や皮膚がさーっと、まるで潮が引くように、みるみる白く、乾いていきました。
 
ちょっと前まで赤々と流れていた血液や、しっとりと肌を潤していた水分は、いったいどこに消えたのか?
 
そして、その肉体に宿っていた祖母の魂それもと生命は、どこに行ってしまったのか?
部屋の中は、祖母が生きている時とその時と何も変わらないのに。目に見えるものは何ひとつ減っていないのに。
 
部屋の明かりが一つ消えたように、祖母がいたその部屋は暗く冷たくなっていました。
 
それから、しばらく、生と死の境について考えるようになりました。死んでしまうということは、いったい何なのだろうか?
 
答えがあるような無いようなことを延々と考えている中で、私なりの答えが出ました。
 
命は死ぬ時に、海に帰っていくのかも知れない。
 
海は、生命が誕生した場所です。だったら、死を迎えたら、人はきっと海に帰るのだろう。
 
だから、私にとって、海辺は、生と死の境目のように感じていました。
 
藤原新也さんの短編集「コスモスの影にはいつも誰かが隠れている」におさめられている「海のトメさんとクビワとゼロ」は、まさしく、私がぼんやり心に描いていた海辺のイメージを、物語として表現していました。
 
登場人物は、息子に先立たれた老婆、片方の羽が折れてしまったカモメ、ボロボロの首輪を付けた老犬です。
 
元気な頃は、全く無関係だったであろうと思われる3人(1人+1匹+1羽)が、海辺で交差する様を描いています。
 
***
 
トメさん、クビワ、ゼロ、3人(1人+1匹+1羽)の登場人物たちには、共通点が2つあります。
 
1つは、孤独の身であることです。
 
トメさんは、夫を亡くし、息子にも先立たれ、家族はもうおらず、一人暮らし。働き口もないと思われます。
 
クビワは、昔誰かに飼われていたようなのですが、飼い主から捨てられたのか、群れにも属さず、海辺をさまよっています。
 
ゼロは、片方の羽を負傷し、飛べなくなったため、群れから外れて海辺で懸命に生きています。
 
彼らは、仲間から外れ、たった一人(一匹、一羽)で暮らしています。
 
もう一つの共通点は、それぞれ身体がボロボロで、生命体として「死」が限りなく迫っているということです。
 
この2つの共通点により、彼らは、生き物としては、全く別の種類に属していますが、肉体を超えた心で分かり合っているような印象を持ちました。
 
また、彼らは、毎日、あてどなく、海辺をフラフラとさまよっています。
 
海辺が、まるで生と死の境界線の象徴のように。
 
私が、祖母の死に立ち会ってから考えた、「海とは、生命が誕生した場所であると同時に、生命が還る場所でもある」と言うイメージが、ピッタリ重なりました。
 
作者の藤原さんは、このお話を通じて、「この世」と「あの世」、つまり、生と死の境界線を描きたかったのではないのだろうか?
 
と思いました。
 
命あるものは、一人で生まれてきて、一人で死んでいく。そういう寂しいけれども、どうしようもない生命の宿命を描いた素晴らしい作品でした。
 
他にも、13の短編が収められています。
 
プロの写真家さんの描いた物語は、美しいシーンを重ねていますが、切ない。
 
どのお話しにも、印象的なシーンがいくつも散りばめられて、読み進むうちに、人の心、人生の悲しみに迫っていくようです。
 
妻殺しの容疑で起訴された友人の物語「尾瀬に死す」ほか、ネットカフェ難民の男女の出会いを描いた表題作の物語など。
 
日常が愛おしくなるようなお話しばかりです。
 
気持ちが疲れたとき、パラパラ写真集をめくるように、読みたい1冊。
 
今でもバック、机の引出しの中などに忍ばせ、時々、生と死について思いをめぐらせています。
 
祖母が旅立った時、あの部屋の空間にあるどこかが、あの世の海とつながっていたに違いない。
 
昨日も、ふと、そんなことを考えて、ページをめくっていました。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の「リーディング&ライティング講座」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミ、もしくはリーディング&ライティング講座にご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

【2021年1月開講】天狼院「リーディング&ライティング講座」開講!本を「読み」、そして「書く」。「読んで終わり」からの卒業!アウトプットがあなたの人生を豊かにする「6つのメソッド」を公開!《初心者大歓迎!》

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2020-12-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事