母のぬくもりとクリスマス
*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:浅倉史歩(リーディング・ライティング講座)
「サンタさんっているの?」って会話、子供さんのいる家庭では、今の時代でもまだまだ存在しているんかなぁ?
私、サンタクロースは絶対いてると信じていた派。
同級生が「サンタクロースってお父さんとお母さんやで」って悟り始める年ごろでも、
「サンタさんは絶対いるよ!」と断言する、敬虔なサンタクロース信者。
理由はシンプル。
実際に毎年サンタさんからプレゼントを手渡ししてもらっていたから。
幼稚園年少から小学校中学年まで、ご近所さんと開催していたクリスマスパーティ。
ツリーを飾り、クリスマス曲のレコードかけて、キャンドルサービスもどきもやってムードを盛り上げて。
会場(といっても、一緒にパーティをする人のおうちだけれど)には母親たちが腕を振るったお料理と、たくさんのおやつ、そして当時はまだまだ高級品だったホールケーキが並ぶ。
父親たちも普段より早く帰宅して、今でいう「パパ友」としてこたつでくつろいで。
そして宴たけなわになったころ……
そう! サンタさんが現れるー!!!
絵本で見る姿のサンタさん!
鼻の下とあごの下に白いおひげをじゃもじゃさせて、長靴はいて、お決まりの衣装をいて、白い大きな袋を持ったサンタさん!
そのサンタさんが、目の前に現れるのだ!
テンションマックス~!!
えんとつなくても、ちゃんと玄関からピンポン鳴らしてきてくれるんだー!
トナカイさんいなくても大丈夫なんだー!
アタマの中一気に満開のお花畑~!!
歓声が上がる中、袋から次々とプレゼントを取り出しては、
「これは○○ちゃん」
「はい、××くん」
といった具合に手渡ししてくれる。
そして、サンタさんを囲んで記念撮影。
「来年また来るから、それまでいい子でね」と言い残して帰っていくのがお約束。
ね、
「サンタさんは絶対いる!!」
って信じちゃうでしょ。
そしてその写真を学校に持っていき、「サンタはいない」という同級生に見せつけるわけで。
何も言えずにもごもごしている相手の姿に、「ああ、わかってくれたんだなぁ」って勝手に納得してた当時の私、あまりにあほすぎて、笑っちゃう。
それはわかってくれたんじゃなくて、あきれられてるんだけど。
ある程度の年齢になったころ、さすがにこの学年でこれはやばいと焦ったのは母親。
あるとき私に本当のことを告げた。
「サンタさんは、○○さんちのおじさんだったのよ……」って。
ふん。
サンタがいないなんて、気づいてたよ。
でもサンタさんいるって信じてるほうが、クリスマスが何倍も楽しみになるじゃん。
2学期の成績表がポンコツでも、今夜はサンタさん来てくれるって思うと、立ち直れるじゃん。
とは言えなかった。
あまりに真剣に諭す母親に対しては言えなかった。
「ふーん」とだけ言った記憶しか残っていない。
という思い出が、毎年この時期になるとよみがえる。
もうええやろ? って自分でも思うのに、毎年毎年この時期になると、アタマの中で鮮明な動画でリピートされる。
きっとそれは、楽しかった思い出としてだけじゃなく、「バカだったなぁ自分」だけじゃなく、「子供を子供として、大切に育ててくれていた」という母の愛に対する確信。
サンタの衣装なんて百均でも買える今の時代と違い、商店街でも百貨店でも売ってるのを見たことない、今から何十年も前のこと。
ホールケーキなんて、お誕生日とクリスマスしか目にすることのできない、そんな時代の話。
さてそんなクリスマスの思い出の中に、こっそり入り込んできているのがこの絵本、「さむがりやのサンタ」。
ご近所さんとのパーティとは全く関係なく、母が買ってくれた一冊。
歯医者の帰りで、すこぶるご機嫌斜めの私に、
「これ、おもしろいね!ほら、サンタさん今年も来てくれるかな?」と言いながらレジに持っていた姿まで覚えている。
ところがである。
この本は、サンタさんに対して夢がいっぱい詰まった本なんかではない。
とにかく口が悪く、全く仕事をする気がないサンタなのだ。
「やれやれ、またクリスマスか!」
に始まり、
「ふゆはいやだよ、まったく」
「えんとつなんてなけりゃいいのに、すすだらけになっちまった」
「かいだんかいだん、またかいだん」
などなど、文句たらたら言いながらプレゼントを配るという、おおよそ子供向け絵本とは思えないキャラクター。
極めつけは最後の一言。
ベッドにもぐって「おまえさんもたのしいクリスマスをむかえるこったね」だと。
それがクリスマスを楽しみにしている子供たちへのメッセージか(笑)
中学生になっても高校生になっても、この時期になると、「あの本読もうか?」と母と二人でけらけら笑いながら、何度読んだことだろう。
そして毎回、クリスマスパーティやらサンタはいないと告げたときの母の心境やら、思い出話に花が咲く。
母と私の大切な時間を生み出してくれる一冊。
反抗期真っ只中でも、この本を前にすると母に心を開けた。
素直になれた。
黄ばみが出てきて、綴じもほつれてきていて、年季が入っているけれど、宝物の一冊。
母は知っているのかな?
今でもこうして大切に、私の本棚に収まっていることを……
でもね、どうしても今でも言えない。
母に言われたときには、すでにサンタはいないって知ってたよって。
ちなみにこちらの作品、悪徳出版社の絵本ではない。
悪徳出版社どころか、数々の児童書名作を世に送り出してきている、福音館書店の作品。
ご丁寧に「世界傑作絵本シリーズ」という一言を添えて(笑)
***
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